2015年11月 イワキ株式会社の子会社役員による横領126百万円

 医療品や健康食品等の卸売業を手掛けるイワキ株式会社(東証一部)の連結子会社であるホクヤク株式会社は、動物用の医薬品販売を行う札幌の会社です。同社の経理担当取締役兼業務部長が10年以上にわたって会社資金を横領していたことが明らかになりました。
 同社グループでは内部管理体制強化のためグループ各社の資金管理の一元化を進めていたようですが、その過程で上記不正が発覚したとのことです。こうした内部管理体制強化の過程の中で不正が発覚したことは大変望ましいことですが、会社の報告資料「当社子会社元役員による不正行為に関するお知らせ」を読んで個人的に注目した点は以下の三つです。

1.不正隠蔽の手法
 不正実行者は当該不正隠蔽のため、銀行残高証明書を偽造して不正な報告を行っていたようです。確かに銀行残高証明書が偽造された場合には、不正実行者が操作した金額が当該証明書に記載されることになりますから、内部調査ではその不正発覚が困難になることでしょう。一方で、監査法人による監査では「残高確認書」が銀行から直接監査法人に送付されることになりますから、こうした偽造工作は無効となるはずです。
 イワキグループ全体からすれば、ホクヤクは金額的な重要性が乏しく、監査法人の監査対象とはならなかったのかもしれませんが、長年に渡って外部監査人による銀行残高確認が行われていなかったかと思うと残念でなりません。

2.不正金額の逓減
 個人的な資金の横領の場合、不正の手法が次第に大胆になっていく傾向があり、不正金額はその不正発覚に至るまで一般に多額になっていきますが、本不正事例では平成23年に14百万円、平成24年に11百万円、平成25年に10百万円、平成26年に9百万円、平成27年に8百万円というように次第に横領金額が減少しています。不思議です。不正実行者の良心の呵責か?それとも他に理由があるのでしょうか?

3.取引先に迷惑をかけないか?
 最も注目したのは、同報告書の中に以下の文言です。
「なお、当該不正行為は・・・販売する医薬品、医療機器その他の製品の品質等にも影響はなく、お取引先の皆様には何らご迷惑をおかけするものではございません。」
 この文言は無くても良かったように思うのですが、どうなのでしょうか?
 なぜなら同社グループの取引先は本不正が発覚したことについて、間違いなく心配しているはずです。また同社の内部管理体制の脆弱さから株価の下がる可能性も否定できません。そうした関係者の心配をよそに「何らご迷惑をおかけするものではない」と断言するのは危険です。
 ましてや、この報告書の文頭には「当社の株主の皆様をはじめとする投資家、市場関係者及びお取引先の皆様に、多大なご迷惑とご心配をおかけしますことを心より深くお詫び申し上げます。」としているのですから。
 報告書を読んで、「いずれが本心なのか?」を考えてしまいます。

 最後に、こうした不正が長年に渡って発覚しなかったのは、不正実行者が継続して経理担当業務を行っていることに加えて、他者によるチェックが不十分であったことに起因することは他の不正事例を見ていても容易に推測できるところです。他山の石とすべきでしょう。Taku
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2015年11月  「粉飾決算」と「不適切会計」

 東芝の粉飾決算が社会問題となっていますが、マスコミの記事を見ると「不適切会計」としているケースがほとんどです。中には「これは不適切会計なんかではなく、明らかな粉飾だ」と強い論調のコメントを出す方もいるようです。
 果たして「粉飾決算」と「不適切会計」にはどのような差異があるのでしょうか?
 検討してみましょう。

 公認会計士が監査をする上で実務上の指針となっている「監査基準委員会報告書」では、財務諸表上の虚偽表示は、「不正」又は「誤謬」から生じ、財務諸表の虚偽表示の原因となる行為が意図的であれば「不正」、非意図的であれば「誤謬」とされます。
 また、そもそも「不正」という用語は「意図的である」という点で広範な意味を持ちますが、財務諸表監査上は「財務諸表上の重要な虚偽表示をもたらす不正」が対象とされ、その不正には「不正な財務報告(いわゆる粉飾)」と「資産の流用」とに区分されます。
 こうした財務諸表上の虚偽表示に係る分類を前提として、同報告書における「不正な財務報告(いわゆる粉飾)」の定義を示すと以下のとおりです。

 「不正な財務報告(いわゆる粉飾)とは、財務諸表の利用者を欺くために財務諸表に意図的な虚偽表示を行うことであり、計上すべき金額を計上しないこと又は必要な開示を行わないことを含んでいる。」 
 要するに、財務諸表上の虚偽表示について、「財務諸表利用者の欺く意図」があれば、「粉飾(決算)」に該当するわけです。
 一方、「不適切会計」といった場合には、語感的にも広範囲の意味を持つことが理解できるはずです。つまり、意図的か否かを問わず財務諸表に虚偽表示がもたらされている状況が「不適切会計」と呼ばれるのでしょう。

 さて、東芝の今回の事件を「粉飾(決算)」と呼ぶのか「不適切会計」呼ぶのかは、財務諸表上の虚偽表示が「意図的だったかどうか」によって判断されることが分かりました。それでは果たして東芝のトップはいかなる意図で「チャレンジだ!」と言っていたでしょうか?
 彼らに「財務諸表に虚偽表示をもたらす意図がなかった」のでしょうか?
 むしろ、それがハッキリしないからこそ、報道機関は穏便に「粉飾」ではなく、「不適切会計」と呼んでいるのでしょうか?

 私個人としては、今回の東芝の事件は「粉飾決算」であることを前提としても何ら差支えないと思います。
 仮に、上記のように用語の定義を明確にした上で、なお「粉飾(決算)」ではなく、「不適切会計」という用語を使用し続けるならば、真相究明や法的な責任追及自体も曖昧になってしまうことが危惧されます。
 報道機関やその情報の受け手である一般の方々はどのように思うのでしょうか?ご意見賜れれば幸いです。Taku
 
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