資金環流による売上仮装事例

平成27年3月に「財務諸表監査の実務」(中央経済社)が出版されます。
 今回は、その中で扱っている過去の不正事例(販売担当者による資金循環)を紹介します。
 不正実行者Aはスゴ腕の「営業マン」と評価され、○○支店全体の8割超の売上を受注していました。
 実際は架空売上だった訳ですが、不正発覚前にその営業成績を「すごい」と考えるのか、「怪しい」と考えるのかが、不正発覚の分かれ道でしょう。もしかしたら、社内では「あり得ない」と考える者が多かったのかもしれませんが、その会社では「厳しく審査することができず、それどころか、その異常な売上を前提にして、翌年度は売上伸張110%の予算値を設定して、その実現を迫るという対応に終始していた」(同不正事例に係る会社発表の資料より引用)としています。
 では、なぜ本不正は発覚されなかったのでしょうか。

 会社の公表した資料では、不正実行者による関係処理の偽装の巧妙さに加えて、「入金の事実」が上げられています。会社は確かに「怪しい」と考えていたものの、入金の事実に着目する限り、収益の実在性を否定できなかったのです。
 上記の不正の「カラクリ」は、請負工事を業とする会社において、取引慣行上、下請け業者への工事発注費用を先行して支払う(元請け業者への手数料を先行して支払う場合もある)ことに起因します。例えば、元請け業者から大型工事案件を受注したことにして、その作業を下請け業者に発注し、その支払いを先行して行った場合を想定すると、以下の仕訳となります。

(借)未成工事支出金 ××百万円 (貸)預金   ××百万円※①

 上記の①の未成工事支出金は、工事完成までの間、仕掛品として資産計上されますが、工事完成によって、元請け業者に対する売掛金・売上計上するとともに、未成工事支出金を売上原価に振り替えることになります。

(借)売掛金     ××百万円 (貸)売上高     ××百万円
(借)売上原価    ××百万円 (貸)未成工事支出金 ××百万円

 上記の売掛金及び売上高が架空だったわけですが、上記の売掛金は下記のとおり入金処理されます。

(借)預金      ××百万円※②(貸)売掛金  ××百万円

 注目すべきは、上記※②の売掛金の入金は、実は※①の未成工事支出金として支出された資金が環流されている点です。帳簿上は下請け業者に支払ったはずの資金が、実際には不正実行者によって自社に環流され、この入金があたかも売掛金が入金されているかのように偽装していたのです。
 要するに、先だって計上した売掛金の入金の仮装するためには、また新しい大型受注案件が必要となり、その受注によって支出される下請け先への支払いが、その売掛金の入金の資金されていたのです。

 当たり前の話ですが、※①の未成工事支出金の支出を止めれば、※②の売掛金の入金も止まります。自転車操業的に資金を循環させて売上及び回収を偽装しているに過ぎない訳です。こうした不正では、次第に架空の取引金額が大きくなっていく特徴があります。本事例が発覚した時点では、未成工事支出金の残高が225百万円、売掛金の残高は841百万円、合計1,066百万円とが同社の貸倒要因となったとされます。

 問題は、「怪しい」と思った際の詳細な調査方法でしょう。
 本事例では、発注書や見積書等の書類だけでなく、工事現場の観察や作業工程別の作業完了写真の貼付、元請け業者や下請け業者等に対する確認(電話一本でも良い)を行うことで取引の実態を把握することができたはずです。また、売掛金が回収されているとしても、それ以上に未成工事支出金等の出金がなされていることを不審に思うこともできたではずです。
 上記の検討も不十分なままに、「支店長の監督不行届」や「本部には相談していた」との責任転嫁や「不正実行者本人が悪い」といった至極当たり前の意見しかなされない場合、同様の不正が発生する可能性は高いでしょう。Taku
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日本公認会計士協会の不正調査ガイドライン

 平成27年1月、「不正調査のプロフェッショナルによる待望の実務書」として、表記の「不正調査ガイドライン」が、日本公認会計士協会から出版されました。本書は、平成25年9月に公表されたものですが、広く一般に活用されることを目的として書籍化されています。内容としては、不正調査の現場で直面する問題を具体的に記載し、実務上の取扱いを解説しており、とても興味深い書籍なので、紹介します。
 不正事例研究会での趣旨に合致する箇所があれば、今後「書籍紹介」として、本ブログでも取り上げようと考えています。
Taku
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