2016年12月 広告宣伝費の繰り延べ15百万円>経常利益3百万円

 東証マザーズ、福証Q-Boardに上場するトラストホールディングス株式会社は、福岡・博多を本社とし、駐車場を中心とした不動産事業等を手掛けるグループ企業です。同社は、2016年11月、「当社連結子会社による不正な会計操作について」を公表し、連結子会社である「トラストネットワーク株式会社」において、不正な会計操作が行われていた可能性について示しています。
 不正の手法は「費用の繰延」です。
 具体的には、同報告書では、「平成28年(2016年)6月に計上すべき広告宣伝費の請求を平成28年7月以降へ繰り延べるように取引先に依頼した」、「平成28年6月より繰り延べされた金額は約15百万円と推定」としています。
 仮に上記が事実であれば、下記の点で大きな問題と考えられます。

・ 取引先に依頼して事実に反する請求を行わせたこと
 広告業者は、顧客である広告主の要望を可能な限り応えようとするでしょう。そのため、広告主は強い立場にあるわけです。
 今回の不正な操作は、広告主としての強い立場を利用して、広告業者に対して「翌期の請求にしてくれ。」と事実に反する指示をしていた可能性が高いのです。要するに「隠蔽工作」です。その分、悪質性が高いと考えられます。

・ 連結の経常損益が「黒字」か「赤字」かの瀬戸際
 同社の第3期(2016年6月期)の連結業績は、売上高14,028百万円、経常利益3百万円、当期純損失103百万円でした。
 また、今回の操作により繰り延べられた費用は推定で15百万円です。
 売上高や当期純損失と比較すれば「大きな影響はない」と考える方もいるかもしれませんが、経常利益と比較するとどうでしょう。
 表題でも示しましたが、「広告宣伝費の繰り延べ15百万円(推定金額)>経常利益3百万円」ですから、この推定が正しければ、「2016年6月期の連結業績は、実は赤字でした」ということになります。

 また、今回の不正な会計操作について同報告書では、「平成28年10月に実施した・・・月例会議において、・・・7月以降通常月より大幅に悪化していることが判明」としています。
 なるほど、同社の内部管理体制により、不正が適時に発覚したと評価することもできるでしょう。
 しかし、7月以降の業績悪化を10月に把握するというのは、やや遅きに失した感は否めません。本来、「当期に計上すべき費用を翌期に計上していないかどうか」という問題点は、財務数値に関連する人間にとって、常々意識すべき点でしょう。また、月次決算の数値は、遅くとも翌月の上旬には把握し、適時な経営判断に役立てることが重要とされます。
 もう少し早く気付いても良かったと考えられます。

 さらに気になるのが、同報告書の下記の「なお書き」です。
「なお、過年度の発生の事象であり、第1四半期決算発表の前のため、当期の業績には影響はありません。」
 確かに当期の業績には影響はないのかもしれませんが、昨年の業績についての記述はありません。
 その意図はないのかもしませんが、かえって「大した問題ではない」という誤った印象を読み手に与えませんでしょうか?

 繰り返しになりますが、今回の事件では、取引先への指示を伴う「隠蔽工作」と直近の決算数値の経常損益が「黒字か赤字かの背戸際」にある中での操作といった懸念があります。
 一連の情報の受け手である皆さんは、どのようにお考えなのでしょうか?Taku

2016年1月 東芝の粉飾事件を考える ~工事進行基準と監査人の懐疑心~

 東芝の粉飾事件に関連して、監査法人に対する行政処分が公表され、大きな波紋を呼んでいます。また、本事件は既に多くの公表資料で取り上げられていますが、不正事例研究会では本事件を今年最初のテーマとしました。以下、第三者委員会の報告書に基づいて、個人的に興味があるところを部分的に取り上げます。
 東芝の粉飾事例では、工事進行基準の適用や、費用の繰延、在庫の過大計上等、種々の手法が採用されておりますが、 本稿では「工事進行基準」に着目しながら、監査法人の懐疑心についても言及します。

1.工事進行基準の一般的なルール
 工事進行基準は、工事収益総額を工事の進捗状況に応じて、段階的に収益計上する収益認識方法です。工事の進捗状況は、一般に工事原価発生額と見積工事原価総額の比率により算出します。
 例えば、①見積工事原価総額を80億円、②当期の工事原価発生額を20億円とすれば、当期の工事進捗度は②20億円/①80億円=25%となります。これに③工事収益総額(例えば100億円)を乗じた額(25億円)が、当期の収益計上額となります。
 仮に、③工事収益総額が①見積工事原価総額に満たない場合(上記の例では③<①となる場合;本事例では少なからず存在する)には、当該工事によって将来損失が見込まれることになりますから、工事損失引当金(受注損失引当金)を計上する必要があります。

2.東芝の粉飾手法
 上記1.で示したとおり、工事進行基準では「見積工事原価総額」が重要な計算要素となりますが、東芝のケースでは、当初から見積工事原価を過小に見積る場合や、例えば、資材価格の高騰や人件費の増加、円安の進行といった見積工事原価総額を適時に見直さなければならない状況にあったにもかかわらず、これを意図的に見直さないことで、利益操作を行っていました。
 主要な利益操作の方法としては下記があります。
(1)売上の過大計上
 見積工事原価総額を過小に見積ることで、実際発生原価の工事原価総額に占める割合が高くなる結果、工事進捗度が嵩上げされ、収益計上額が前倒しとなります。
(2)工事損失引当金(受注損失引当金)の過小計上
 見積工事原価総額は、当初から信頼性をもって見積もることが必要ですが、その後の実際発生原価に照らして適時に見直すことも必要であり、その結果、見積工事原価総額>工事収益総額となった場合には、工事損失計上する必要があります。東芝の事例では、意図的に見積工事原価を低く見積もったり、これを適時に見直さないことで損失計上を先送りしていました。

3.監査法人の監査上の対応
 第三者委員会の報告書では、問題となった処理の多くは会社内部における会計処理の意図的な操作であって、監査法人が気付きにくい方法が用いられ、かつ監査法人からの質問や資料要請に対して、東芝の社員は事実を隠蔽したり、事実と異なるストーリーを組み立てた資料を提示して説明していたようです。特に、工事進行基準による会計処理は、個々の工事内容に精通した担当者による社内データに基づく見積りが会計処理の基礎となっており、外部の監査人がその見積りの合理性を独自に評価することは極めて困難である、と指摘しています。
 なるほど、会社組織による事実隠蔽や事実と異なるストーリーの組み立てに対して、外部者である監査人がそれを覆す強力な証拠を入手することは極めて困難でしょう。
 しかし、第三者委員会の報告書を読んでいくと、監査の過程において、見積工事原価総額の見直しについて東芝と監査法人との意見が対立する場面があったことも見受けられます。それは特定の工事案件について、設計変更及び工事遅延等によって見積工事原価総額の増加が見込まれるものの、東芝は具体的な根拠がない見積額を採用している、と監査法人が指摘している事実があるのです。そのため、監査法人は損益影響額107百万ドル(便宜的に1ドル100円とすると、円換算額107億円)の虚偽表示が存在することを把握していたのです。
 財務諸表監査では、こうした虚偽表示は「未修正の虚偽表示」として、その重要性が判定されます。(重要性の判定に際しては、例えば「税引前利益の5%を乗じた額」に照らすことがあります。)その結果、仮に重要でないと判断されれば、特に修正されなくても、監査意見としては「無限定適正意見」が表明されることになるのです。
 しかし、こうした虚偽表示が見つかった場合には、他に同様の虚偽表示がないかどうかについて慎重な検討が必要であることは言うまでもありません。個人的には監査の詳細なプロセスを知る由もないので、何ら無責任のことは言えませんが、仮に東芝の作成した数値を検討していく過程で「何か変だな」「どうも腑に落ちない」というような「納得感の得られない状況」を目の当たりにしながら、会社側の説明を無批判に受け入れていたのであれば、やはり「職業的懐疑心の欠如」と指摘されても致し方ないのかもしれません。
 今後、監査法人の変更が検討されているようですが、これだけの規模の会社を監査できる組織は、現在の監査法人以外、二つしかないでしょう。今後は、同様の粉飾事件が明らかにならないよう祈るばかりです。Taku

2013年11月 サニックス子会社での売上の架空計上と期間帰属誤り

 太陽光発電システムの施工販売、環境衛生事業を手掛ける株式会社サニックス(東証一部、福証)は、「当社連結子会社の従業員による不正行為について」を公表しました。
 不適切な会計処理の概要は以下のとおりです。
(1)特定の従業員による架空売上計上
 産業用太陽光発電システムについて、施工の実態がないにもかかわらず売上計上していた(1件100百万円)。
(2)売上高の期間帰属の不適正計上
 7月に計上すべき売上高を6月に早期計上していた(13件173百万円)。

 上記の不適切な会計による同社の第1四半期(2013年4月~6月末)連結数値への影響は以下のとおりでした。
・売上高(誤 16,027百万円→正 15,753百万円(274百万円(1.7%)過大計上))、
・経常利益(誤 1,015百万円→正 924百万円(90百万円(9.7%)過大計上))
・当期純利益(誤 830百万円→正 778百万円(51百万円(6.5%)過大計上))
 また、年度の数値(2013年3月)と比較すると売上高43,366百万円(274/43,366=0.6%)、経常利益1,788百万円(90/1,788=5%)でした。
 一般に、重要性の基準値は税前利益の5%を利用しますから、本件については、「ギリギリ重要性あり」と判断したのかもしれませんが、状況如何によっては「重要でない」と判断することも考えられたのではないかと思われます。
 また、上記事実を踏まえて同社は、2013年3月の内部統制報告書について「内部統制は有効」から「内部統制は有効でない」と訂正しています。

 本不正発覚の発端は、内部監査室への匿名の通報だったようです。
 きっと社内事情に精通している者が、その正義心に駆られて通報したのでしょう。仮にそうだとすれば、不正を許さない組織風土による「自浄作用」が働いたと評価することもできるでしょう。
 確かに不正が発生したことは不幸なことですが、今回の不正をきっかけとして、同社はより厳密な業務プロセスを構築しています。下記は同社が公表した再発防止策としての内部統制の改善策の一部ですが、いずれも具体的かつ直接的であり、有効な手法と言えるでしょう。他社でも参考になるコントロールもきっとあると思います。
・売上計上の必須書類に施工行程ごとの現場写真と「工事完了チェックシート」を追加する。 → 写真添付は有効でしょう。偽装は困難です。
・関連書類の作成を担当する際、「契約書」は営業職、「施工完了報告書」工事現場写真、「工事完了チェックシート」は技術職が担当する。
 → 営業職と技術職との分掌により相互牽制が期待されます。
・本社お客様相談室から契約者に対して契約締結後及び施工完了後にお礼の電話をする
→ お客様と管理部門とが接触することは、不正を行おうとする営業職にとって大きな心理的牽制効果が期待されます。

 上記事例は、不正発覚を契機として管理体制が充実強化された、典型的な「良い例」といえるでしょう。加えて、内部監査室への匿名の通報が10/7、不正行為の公表が11/7で、訂正報告等の公表が11/12でした。この早期対応も評価できるのではないでしょうか。
 同社では、今後、同様の不正は発生しないことでしょう。Taku

2013年10月 東芝医療情報システムズの不適切な会計

 2013年10月30日、東芝情報システムズ株式会社(以下、TSMED)は、「当社における不適切な会計処理」を公表しました。TSMEDは、東芝メディカルシステムズ株式会社(以下、TMSC)の子会社(98%被所有)で、TMSCは、東芝の100%子会社ですから、今回、不適切な会計処理を公表したTSMEDは、東芝本体の孫会社になります。
 その不適切な会計処理の手法は「資産の過大計上」であり、売上原価や費用、損失として計上すべき「仕掛品」「ソフトウェア」「ソフトウェア仮勘定」を資産計上するという、単純な手法です。その金額は2006年度~2012年度の間で、9,863百万円とのことですが、本事例で気になった点は以下の三つです。

 ①TSMEDの設立が2004年4月でした。
 その後、2006年度から同社は粉飾に手を染め、以降ずっと粉飾を続けてきたことになります。「粉飾するために設立された会社」であるはずないのでしょうが、なんとも首を傾げたくなる会社です。
 ②ホームページを見ると同社の資本金48億円とありました。
 資本金5億円以上であれば、非上場でも会計監査人の監査が必要となります。こうした単純な不正ならば、会計監査人が発見する可能性が高いでしょうし、果たして会計監査人はなぜこれを看過したのか?と思ってよく見ると「資本金4.8億円」でして、私が小数点「.」を見落としておりました。すいません。
 会計監査人を設置しないために資本金を5億円未満とすることは良くある話です。
 親会社のTMSC及び東芝本体は当然に、会計監査を受けているはずですが、TSMEDはその規模からして「重要性のない構成単位」として、監査の対象から外されているのでしょう(重要性の話は後述します)。
 ③親会社の指摘で不正が発覚しています。
 親会社が指摘した「資金収支の過度の悪化、仕掛品勘定の金額の増加等」は、財務数値の推移を見れば直ちに把握できるはずです。気になるのは「なぜ、今まで(2006年~2012年)気付かなかったが、今回(2012年)気が付いた」のか?です。
 粉飾の額が次第に膨らんでいき、金額的な重要性が高まっていったことは容易に想像できるのですが、その裏には「実はもう少し前に気がつくことはできなかったのか?」という疑問が残るのです。

 ちなみに今回問題となった金額は、上述したとおり9.863百万円でした(仮に現金とすると1千万円を1kgとすれば約1トンにもなる金額です)。資本金480百万円のTSMEDにとって重要性はあることは間違いありませんが、親会社のTSMED(売上高277,450百万円、経常利益22,889百万円(2013年3月期))からしても、単純に利益との比率で見れば9,863/22,889=43%となり、相応の重要性が認められると思います。(ちなみに、東芝全体の売上高5,800,300百万円、事業継続利益155,600百万円(2013年3月期米国基準)ですから、重要性は乏しいでしょう。)
 
 最後に、同社が公表した再発防止策です。典型的な不正防止策ばかりですが、いくつかコメントします。
1.人事ローテーション
 今回の不正の原因は、取締役管理部長と経理グループ長が「長年」経理業務を行っていたこと捉えているようです。確かにその通りでしょうが、そもそも同社は少人数の会社(約200名)である以上、社内でローテーションすることは難しいことでしょう。
 もちろん「東芝グループ内でローテーションを実施する」ことは理想的であって、それに越したことはないのですが、現実問題として、「人事」は不正防止の観点からのみ検討されるわけではないので、なかなか難しい面もあるでしょう。少なくとも、一般の中小企業ではなかなか難しい方法かもしれません。
2.役職員の会計に関する知識・能力の強化
 個人的には、これこそが最も重要だと思いました。
 これに加えて「5.監査役監査の充実」を再発防止策として掲げていますが、両者を切り離さない方が良さそうです。監査役は取締役を、取締役は他の取締役を、それぞれ監視する立場にありますから、要するに「役員間の相互牽制」が重要であり、より具体的には「会社役員らが自社の数値を丁寧に見る」だけでも重要なコントロールになるはずなのです。
 この点、本報告書の中に「(不正を働いた)取締役管理部長以外の取締役や幹部職員が経理についての十分な知識を有していたとは言いがたい」という記述がありますが、東芝グループ内には優秀な人材が多くいるはずでしょう。何ともお粗末な話です。
3.コンプライアンスの意識の徹底
 同じく同報告書の中に「上層部の言動で従業員に示す」「コンプライアンス研修の機会増加」とあります。確かに、不正の再発防止策としての一般論としては頷けますが、本不正事例では、その上層部自らが不正を行ったわけで、従業員からすれば納得がいかない話でしょう。
4.内部通報制度の改善
 これも一般論として良く耳にしますが、内部通報制度はうまく機能させるには相当な工夫が必要なようです。この点は改めて検討しましょう。

 私が提唱したい再発防止策は一つあります。
 あと2百万円増資することです。そうすれば資本金5億円以上となり、会計監査人の設置義務が生じますから・・・。
 以上、やや長くなりましたが、本不正事例で最も印象に残ったことは一つです。
 当たり前ですが、「東芝は大きい」ですね。ちなみに私もTOSHIBAのdynabook愛用です。Taku

2013年11月 雪国まいたけ(その3)不適切な会計処理(広告宣伝費)

 前回に引き続き、「雪国まいたけ」の不適切な会計処理について検討します。
 今回、違法配当の問題も絡んでいますが、具体的に問題となった「不適切な会計処理」は以下の三点でした。
①過去に取得した土地の資産計上額の妥当性(土地仮装計上716百万円)
②一部事業用資産の減損について(減損損失非計上470百万円)
③過年度における広告宣伝費の会計処理について(不当な繰延処理180百万円)

 本稿では、上記の③に焦点を絞ります。
 ③の問題は、広告宣伝に係る契約(733百万円)について、会社は契約期間である30ヶ月(24百万円/月×30ヶ月=733百万円)で按分計上していたところ、本来は具体的な作業の大部分が完了した2012年3月期に費用計上すべきとされています。
 この点について、同社の公表した報告書の記述の抜粋(一部要約)を引用し、それに個人的なコメントを付すことで、その不合理さを検討します。

「当社に保管されている契約書(写し)では、具体的な業務の内訳と対価の対応関係は記載されていない」
→(コメント)
 何億ものお金を支払うのに具体的な業務内容と対価の対応関係がハッキリしないのは不合理です。むしろそれが分かると一括費用処理が求められるから、隠蔽されたと考えるのが合理的ではないでしょうか。今回の社内の調査では、広告代理店であるD社からの当時送信されたメールデータでその内容を確認したようですが、なぜ契約当時に、具体的な業務の内訳と対価との対応がハッキリなかったのか、理解に苦しみます。

「広告宣伝に関しては、社長がリーダーとして先頭指揮して進めたプロジェクトであるが、担当者は、分割計上を前提に画策したものと認められる。担当者の行動は、経営者のトップの意向を付度し無理でもそれに応えようとしたものと考える」
→(コメント)
 この辺りの表現は読み手を誘導しているように読めます。
 「経営者のトップの意向」は「分割計上であり、一括計上ではない」ことは、明記はされていませんが、確かでしょう。この点、読み手が知りたいのは、「末端の担当者がどのように考えたのか」ではなくて、「社長から『分割計上』に係る直接的な指示があったかどうか」です。少なくとも社長からは細かく事情聴取しているはずですから、「社長が直接的な指示を行っていないことは明らかである。」と記述することもできたはずです。それを明記せずに、暗黙裏に上記記述に留めたのは、「嘘は書けない」という心理が働いたからと考えるのは、考えすぎでしょうか。
 いずれにしてもこの記述からは、未だに前社長に大きな影響力があると感じざるを得ません。

「広告宣伝費の処理に関しては、・・・担当者任せに行われ、上司・・・の確認手続きがなされなかったことにより不適切な会計処理を見落とす結果となった」
→ この記述が最も不合理に感じました。
 社長案件でプロジェクトが進んでいるにもかかわらず、末端の担当者が独断で会計処理を決められるはずはありません。逆に末端の担当者が、あるべき会計処理として2012年3月に733百万円の広告宣伝費を「一括計上」し、赤字幅がさらに大きく膨らんだとしても、それも見落とす結果となったのでしょうか?どうなんでしょうか?
 会計処理を考慮することなく、733百万円もの契約をする経営者はいません。
 「会計処理は担当者に任せていた」では、筋が通るはずはないのです。

 最後に同社は、上記の問題を公表する前に、2012年3月期に大幅な赤字転落した原因を三つ示していますので、それを紹介します。
・東日本大震災による風評被害
 →確かに風評被害は、過去、現在及び将来に関係する、大きな問題でしょう。
・ぶなしめじ工場の立ち上げ
 →新規工場の立ち上げは多くが固定資産計上されますが、人件費等の経費もかさむことから、確かに業績に与える影響は少なからずあったのでしょう
・過去の決算における黒字決算の維持の反動
 →これはどうでしょうか?
 「黒字を維持するため」→「費用とすべきものを資産としていた」→「資産が一気に費用となった」ということです。この三つ目の理由は、そもそもが粉飾していたことを認めているような記述に読めてしまうのですが、どのように感じるでしょうか?
 なお、全然関係ないかもしれませんが、同社は、2013年3月期に固定資産の減価償却方法に係る会計方針を定率法から定額法に変更しています。Taku

2013年11月 雪国まいたけ(その2)不適切な会計処理の具体例

 前回に引き続き、「雪国まいたけ」の不適切な会計処理について検討します。
 今回の仮装経理は、2012年3月期の違法配当の問題も含まれますから、今後の法的な動向も気になります。
 しかし、本稿では以下の①~③の具体的な「不適切な会計処理」に焦点を絞って検討しましょう。
①過去に取得した土地の資産計上額の妥当性(土地仮装計上716百万円)
②一部事業用資産の減損について(減損損失非計上470百万円)
③過年度における広告宣伝費の会計処理について(不当な繰延処理180百万円)
 それぞれ、どのような会計処理だったのでしょうか。監査上の対応をも含めて検討します。

①過去に取得した土地の資産計上額の妥当性(土地仮装計上716百万円)
 これは1995年まで遡る「昔の話」です。
 社内の関係者に対して事情聴取するにも、既に退職しているか、又は記憶が明確でないため、具体的経緯は不明な点が多いままのようですが、同報告書で示されている以下の事実関係からすれば、あるべき会計処理はハッキリしています。
 同社は1995年から関西地区の生産・物流拠点とするため、近江八幡市の土地開発を進め、716百万円を外部の会社に手付金等として支出し、建設仮勘定としていました。
 ところがその後、3年後の1998年にこの進出計画を中止します。
 この時点で、上記の建設仮勘定の回収可能性を検討して、回収可能性がなければ全額損失とする必要があったわけです。しかし「リーダーシップの『暗黙』の重圧」により、業績を仮装するために建設仮勘定のまま未処理とし、その後、まったく別案件の土地開発に上記の建設仮勘定716百万円を土地として忍ばせた形としたのです。
 旧来の土地開発と今回の土地開発とに関連性がない以上、両者を同一視して土地勘定に計上するのは問題があります。正に仮装経理です。
なお監査法人は、2005年3月期に変更しており、当該建設仮勘定710百万円の処理については、会社は特に監査法人に説明をせず、また監査法人の引継事項でもなかったので、問題にはならかったようです。
 土地勘定は減損の対象にはなりますが、そもそも時価で評価するものではありませんし、特に昔の会計処理について、過去に遡ってその当否を検証することには限界がありますから、会社側が特に説明をしない限り、本件を問題視することは困難だったかもしれません。

②一部事業用資産の減損について(減損損失非計上470百万円)
減損損失の認識に際しては、金額的にも重要なケースが多いだけでなく、将来の利用見込や将来キャッシュ・フロー見込等の将来の事象に関連するため、主観的判断や恣意性が介入しやすく、会計上も監査上も慎重な判断が必要とされます。
 この点、同社の報告書では、減損会計導入時の減損処理の要否の判断に誤りがあったとし、「日高配送センター及び日高工場(81百万円)」と「西新宿YMビル(344百万円)」については、当時の利用状況や、その後の利用目的などからして、平成18年3月期に減損処理すべきところ、これを減損処理していなかったとしています。その後、毎期、減損の要否を見直すとして、2014年3月期の第1四半期末までの累積で470百万円の減損損失の過小計上(これに伴い減価償却費の過大計上11百万円)がなされているとしています。
 監査上も相応の検証を行ったと思いますが、同報告書では、監査法人に対しては、減損回避のため具体性を欠く将来の利用見込の説明等を行っており、また、一時しのぎの利用実績を仮装したり、固定資産の活用方針を取締役会で取り上げたりしていたとの指摘もありました。
 この辺りの記述から、社長を始めとして取締役会全体が減損回避措置を講じていたことになり、組織的な粉飾の疑いが色濃く感じ取ることができます。

③過年度における広告宣伝費の会計処理について(不当な繰延処理180百万円)
 上記2つ以上に不透明さが拭えないのが本件です。
 「不当な繰延処理180百万円」としていますが、実際の広告宣伝に係る契約金額は733百万円でした。会社はこれを契約期間である30ヶ月(24百万円/月×30ヶ月=733百万円)で按分計上していましたが、本来は具体的な作業の大部分が完了した2012年3月期に費用計上すべきでした。
 同社の2011年3月期の経常利益(連結)は906百万円(黒字)に照らして、本件の契約金額は733百万円は、相当多額です。また「社長がリーダー先頭指揮して進めたプロジェクト」とされていますから、なおさら「重要なプロジェクト」だったはずです。
 ところが、報告書の以下の記述を見る限り、社内の管理資料の保管も不十分で、上司から担当者への指示も杜撰でした。この不合理さが最も気になるのです。
 次回は、上記の広告宣伝費にかかる報告書の記述の抜粋(一部要約)を引用して、その不合理さを検討しようと思います。今回は、久々の大作になりました。Taku

2013年11月 雪国まいたけ(その1)。不適切な会計と代表取締役の辞任

 2013年11月、キノコ類の栽培・販売の雪国まいたけ(東証2部)は、「社内調査委員会の調査報告書の受領及び当社の対応」を公表しました。これに伴い「強くなりすぎたリーダーシップ」を発揮する代表取締役は、経営責任をとって辞任しました。
 ことの発端は、退任した取締役からの「過去の会計処理に係る疑義」の告発でした。
 具体的な「不適切な会計処理」(個人的には「仮装経理」や「粉飾」とした方が、その重要性が伝わると思いますが)の問題は、以下の三つです。
①過去に取得した土地の資産計上額の妥当性(土地仮装計上716百万円)
②一部事業用資産の減損について(減損損失非計上470百万円)
③過年度における広告宣伝費の会計処理について(不当な繰延処理180百万円)
 上記の仮装経理の結果、平成24年3月 は配当原資はなかったことになります。
 その結果、平成24年3月期に実施した株主配当金133百万円は、全額、違法配当に該当します(違法配当となれば、株主に対する返還請求や、取締役の連帯責任の問題も生じます)。本件は、ただ単に取締役を辞任すれば足りる単純な問題ではないのです。
 今回は、本件の概要のみを扱い、次回、上記の仮装経理の詳細について検討します。

1.事件の経緯
 今回の事件の経緯を簡単に示すと、以下のとおりです。
・ 2013年6月、退任した取締役からの告発(過去の会計処理に係る疑義の指摘)
・ 2013年8月、証券取引等監視委員会による立入調査
・ 2013年10月、同委員会からの指摘等を踏まえて社内調査開始
・ 2013年11月、今回の調査報告書の公表及び代表取締役辞任
(今後、過年度決算書類等の修正を行う予定)

2.同社の業績の推移
 同社の有価証券報告書の経営指標の推移を見ると、同社の業績は2011年3月期まで順調に推移しています(推移しているように見えます)。同社の連結売上は約26,000百万円前後で推移し、利益はやや波がありますが、2011年3月期は906百万円の経常利益を上げています。これが2012年3月期に3,247百万円の経常赤字、2013年3月期には1,384百万円の経常赤字となっており、急激に業績が悪化したように見えます。
 この点、同社は2012年5月に業績予想修正を行っており、2012年3月期の決算数値に関して、「米国子会社の工場建設延期に伴い、固定資産の減損損失410百万円(連結)」と「これに伴い、米国の関係会社株式の評価損592百万円(単体)」を計上することを公表しています。
 この業績予測の甘さも今回の事件の兆候と捉えることもできるでしょう。
 以下、公表資料に基づいて、今回の不正事例を検討します。

3.不適切な会計処理の原因は「リーダーシップ」と「コンプライアンス意識の欠如」
 辞任した代表取締役は「強いリーダーシップ」、「強くなりすぎたリーダーシップ」と表現され、かなり大きな影響力を有していました。詳細な会計処理は次回検討しますが、いずれも「業績を悪化させてはならない」という考えが強かったことが原因と考えられます。
 こうした社長の考え方は、社風はもとより、幹部職員や末端の従業員の考え方にまで浸透するものです。以下、同報告書で示されている行動指針を紹介します。
 「私たちはできない理由を探しません!できる理由を見つけます!」
「私たちは妥協しません!許しません!」
 多分にこの行動指針は、辞任した代表取締役が作ったのでしょうか?分かりませんが、この行動指針を見る限り、何か「ただならぬ雰囲気」を感じ取ることができます。
 もちろん善意に解釈すれば、「言い訳ばかりを探すのではなく、積極的に「できる」ことを考えろ」ということでしょうし、「妥協するな。ガンバレ」と理解することもできます。
 しかし、世の中には「できないこと」や「してはいけないこと」もあるわけで、それも含めて「何でもできる」としてしまえば、「無理が通って道理が引っ込む」ことになるでしょう。
 「妥協しません!」というのも耳障りはいいですが、「現実を直視しません」と読むこともできます。果たして「許しません!」となると、もう訳が分からなくなって、何に対して怒っているのか、どうにも二の句が継げません。
 上記の行動指針が、幹部社員や従業員のコンプライアンス意識を乏しくした要因となったことは間違いなさそうです。
「業績を維持するためには何をしても良い」
「業績悪化は許しません!」
 ということで、仮装経理が行われたと考えることができます。
 次回は、本事例をもう少し具体的な経理処理を検討したいと思います。Taku

2013年7月 ハマキョウレックスの元従業員の不正行為

 2013年7月、物流業のアウトソーシングを手掛けるハマキョウレックス(東証一部)は、「当社元従業員による不正行為に係る調査結果について」を公表しました。
 同報告書では①元従業員2名による架空売上計上(2008年4月~2013年3月の5年間の累積で1,043百万円)及び②取引業者を利用した着服(2009年11月~2013年5月までで29百万円)を明らかにしています。
 ちなみに同社の平成25年3月期の連結売上高89,319百万円、同経常利益6,332百万円から比較すると、その財務諸表に与える重要性は低いようにも思えます。一方で、①の架空売上計上について、その全額(1,043百万円)が滞留しているとすれば、2013年3月末時点の連結上の「受取手形及び売掛金」が12,850百万円、単体の「売掛金」が5,185百万円ですから、滞留売掛金の割合の高さからして、一概に「重要性なし」と判断するのは、難しい面もあるかもしれません。
 以下、①の架空売上と②の取引業者を利用した着服行為とに分けて不正防止策を検討しましょう。
 
 まず①の架空売上ですが、これは売掛金の滞留原因の究明により発覚したとされます。
 不正実行者は、自己の業績不振を隠すため、正規の請求書とは別の請求書を捏造して、嵩上げした売上高を経理部に報告していました。当然、請求金額と入金金額とに差異が生じることになりますが、不正実行者は「取引先C社の検収手続のタイミングのずれ込み」等、巧妙な説明・操作により、不正の発覚を免れていたようです。
不正実行者が「センター長」という役職者であって、かつ請求書発行事務を一任されていたことに加え、当初予算が達成されて前年度対比の計数的にも異常を感じ取れない程度の偽装であったことを踏まえると、5年もの長期にわたり発覚が遅れた要因として頷ける面はあります。しかし、長期間発覚しなかった問題は、もっと単純な話なのかもしれません。
 多分に滞留売掛金は、時の経過に従い増大していったでしょうし、「検収手続のずれ込み」という比較的単純な理由について、「本当か?」と疑問を抱いた関係者も多くいたはずでしょう。その疑問を抱いた関係者は、どこまで大騒ぎしたでしょうか?むしろ「まぁ、そういうならば仕方ない」と安易に納得した関係者も多くいたのではないでしょうか?
 「約定通り入金されない」という異常を安易に納得した関係者は大いに反省すべきでしょうし、特に「おかしい」と思った場合には、管理部門の主導の元で得意先に残高確認を行う等のルールを整備・運用すれば、こうした不正は早期に発見できたことでしょう。

 また、②の取引業者を利用した着服については、上記①の架空売上の計上の調査中に、当該不正実行者によるリベート等の金銭のやりとりが発覚したようです。
 雑草の手入れや清掃業務等の発注業者に対して、実態のない作業を捏造して会社宛に請求書を提供させ、正当な作業経費として支払った金銭が不正実行者に還流させる不正は典型的な事例です。
 こうした不正を行う輩は、社内の管理体制の不備を把握しているケースが多く、最初は恐る恐る不正の実行をしつつも、次第に大胆になっていくようです。本件も、既に売上高の仮装計上という不正に手を染めた人間が「どうせ見つからないだろう」とタカをくくって不正に及んだものと推定されます。こうした不正には、請求書や領収書と行った証憑書類のみでなく、作業の事実を示す資料(作業工程表や作業完了を示す写真等)のエビデンスを充実して貼付させることを普段からうるさくすることが肝要です。「うちの事務は、うるさいからな」という雰囲気を作ってしまえば、こうした不正はかなりの割合で防止できるはずなのです。

 最後に、同社の公表した「当社元従業員による不正行為に係る調査結果」について、往々にして、こうした公表物は冗長になりがちなのですが、本調査結果は端的で読みやすいと思いました。同報告書からにじみ出てくる誠実さからすれば、今後、同社では同様の不正はきっと生じないのではないかと思いました。だだし、惜しむらくは、同報告書内の「第Ⅴ改善提案」は、その分量が多く、何が最も重要な改善提案なのかがハッキリしないところが残念ではありますが。Taku

2013年4月 大塚商会子会社での売上仮装・回収偽装

 大塚商会は「当社連結子会社従業員による不正行為に関する調査報告及び再発防止策について」を公表し、同社取締役会宛の調査報告書を公表しました。
 調査報告書を読んで「もう少し早くに何とかならなかったものか?」と、正直申し上げて痛々しく感じました。
 結果論的に受け止められるかも知れませんが、内部者には「絶対に怪しい」、「何か『からくり』があるに違いない」と考えていた人も多いはずです。
 皆さんは以下の1~3の調査報告書で示されている異常点を見て、どのように考えるでしょうか?ちなみに、「 」は調査報告書の表現です。
1.売上構成比率
 当該子会社の2012年の売上総額は103億円(大塚商流64億円+外部直販等39億円)でしたが、そのうち不正のあった大阪支店の売上は35億円(大塚商流5億円+外部直販等30億円)でした。大阪支店では「外部直販等が異常に高額」でした。その大阪支店の外部直販等30億円のうち、29億円が不正実行者の受注案件でした。大阪支店の営業マンは6名でした(つまり1名の不正実行者の売上が29億円、残り1億円が5名の営業マンによる売上です)。不正実行者1名の売上が、大阪支店の売上の8割超、当該子会社の売上の3割弱を占めていたわけです。
2.多額の受注と本社の対応
 不正実行者の「驚異的な売上、そして全ての確実な回収という実績を目の前にして、これを厳しく審査することができず、それどころか、その異常な売上を前提にして、翌年度は売上伸張110%の予算値を設定して、その実現を迫るという対応に終始していた」。まさに「病理的現象」といえるでしょう。
 不正実行者の「受注の異常性を感じた従業員や大阪支店長から本社及び上位役職者等に都度相談が行われていたが、本社及び上位役職者において十分な対応は行われず」にいました。
3.不正実行者への特別待遇
 加えて不正実行者は「会社にはほとんど姿を見せず」に、突然、高額取引を持ち込み、また「大阪支店長の指揮命令を無視し、あるいは曖昧に受け流しこれを聞かず、売上の大きさが全ての免罪符であるかのように振る舞い、特別待遇を楽しんでいた面が」あったようです。
 正に異常ずくめです。
 上記1~3を目の当たりにして「怪しい」と考えない者はいないでしょう。
 この不正が発覚した際、多くの関係者が「やっぱりな」と感じたはずなのです。
 本調査報告書では、不正実行者による関係書類の偽装の巧妙さを強調していますが、いくら偽装が巧妙であったとしても、上記の異常を受け入れることは、常識的に考えて無理なことです(結果論的ではありますが)。
 多分に不正実行者への追及を鈍らせた最も重要な事実が「入金の事実」でしょう。
 「確かに怪しいけど、入金されてるし。」
 という安易な納得が、不正実行者を野放しにさせたと考えられるのです。
 不正実行者が最も重視した不正隠蔽策は、取引を偽装する巧妙さではなく、「入金の事実」の達成だったはずです。それでは、不正実行者は、どのようにこの不正を実行したのでしょうか?
 以下、仕訳で考えてみましょう。
(1)下請け業者に対する先行工事発注を行い未成工事支出金(仕掛品)として支払う。
(借)未成工事支出金 ××百万円① (貸)預金   ××百万円①’
(注)下請け業者保護の観点から、その支払を優先的に行うことが求められます。また取引慣行上、元請け業者への手数料を先行して支払うこともあります。
(2)工事完成を装って元請け業者に対して売掛金・売上計上し、未成工事支出金を売上原価に振り替える。
(借)売掛金     ××百万円② (貸)売上高     ××百万円
(借)売上原価    ××百万円  (貸)未成工事支出金 ××百万円
(3) 売掛金が入金され、その消し込みを行う。
(借)預金      ××百万円③ (貸)売掛金  ××百万円
 注目すべきは、上記(3)③の売掛金の入金は、実は(1)の未成工事支出金として支出された預金の支払い①’によって資金が循環されている点です。
 帳簿上は下請け業者に支払ったはずの資金が、実際には不正実行者によって自社に環流されて、この入金をあたかも売掛金が入金されているかのように偽装したわけです。
 当然のことですが、①’の未成工事支出金の支出を止めれば、③の売掛金の入金も止まります。
 自転車操業的に資金を循環させて売上及び回収を偽装する不正は常套手段ですし、こうした不正の場合、不正実行者の横領している資金が嵩上げされ、次第に架空の取引金額が大きくなっていく特徴があります。
 本件も未成工事支出金や売掛金の残高が次第に大きくなっていったのでしょう。
 こうした不正は、いつか限界がやってきます。未成工事支出金の支出が次第に大きくなった結果、その支出が止まり、売掛金の回収が遅延してゲームオーバーです。その結果、①の未成工事支出金の残高が225百万円、②の売掛金の残高は841百万円、合計1,066百万円とが同社の貸倒要因となったわけです。
 調査報告書は上記の再発防止策として、以下を課題としていますが、皆さんはどのように考えるでしょうか?
(1)コンプライアンス意識の向上
(2)内部通報制度の改善
(3)不正が発覚した子会社における内部統制の強化
(4)連結子会社の内部管理体制強化と監査指導
 こうした教科書的な不正の対応が不要だとは言いませんが、一方で非違事例に起因して管理を徹底化する余り、却って業務効率が害されるリスクが生じることにも注意が必要です。
 むしろ不正が発覚できなかった本質的な理由を見定めた上で、冷静かつ単純に再発防止策を考えた方が良いことが多いようです。
 本不正の発覚が遅れたのは、社内の多くの人達が「異常」と知りつつも「安易に納得してしまった」ことに起因します。そのため、不正を適時に発見するには、「異常を識別したならば、納得行くまで追及すること」に尽きます。
 不審に思っていながら十分な対策を講じなかったことについて、関係者(特に相談を受けた経営陣)が反省することが重要なのです。その反省がないままに、いくら管理体制を強化しても、従業員の無駄な作業が増えるだけです。逆に経営陣を含めた関係者が反省さえすれば、同様の事件は起きたとしても早期に発見できるはずです。
 「今、考えてみれば、確かに・・・」「やっぱりおかしいと思っていたんだ・・・」「支店長が黙認していたから」「本部には相談したけど本部の対応だって鈍かった・・・」「不正実行者が悪いんだ。俺のセイじゃない」
 皆、自分のセイだとは思いたくはないのでしょう。不正が発覚したときに良く聞くセリフです。しかし、本当に自分の責任ではないのでしょうか?
「いくら売掛金が回収されているからといっても、それ以上に未成工事支出金が出金されているでしょう」
「現場はどうなっているんだ?そんなに大きな案件なら書面だけでなく現場も確認したほうが良い」
と指摘できる人はいなかったのでしょうか?その指摘ができなかったことについて責任はないのでしょうか? Taku

2012年12月 三菱電機の水増し請求返還額の報道(続報)

 やはり昨日の日経新聞がスクープだったのですね。
 本日12月21日、三菱電機株式会社が「防衛省、内閣衛星情報センター、宇宙空港研究開発機構及び情報通信研究機構との契約における費用の過大請求に関する返納金の引当計上の見込みについて」及び「費用の過大計上・過大請求事案の社内調査結果と再発防止策について」を公表しました。
 資料によると2013年3月期第3四半期の連結決算において、過大請求額及び関連する違約金・延滞利息の見積額773億円を営業外費用に引当計上することが見込まれ、その結果、2013年の当期純利益見込みは1,200億円から500億円に減少することのことで、防衛庁への返納金では過去最高になる模様です。
 本資料を読んで、個人的に目に止まったキーワードは以下の通りです。
 これらの用語の意味するところを理解すれば、今回の不正事例の背景や動機、不正に対する意識等が理解できると思います。
「工数の付け替え」
~実際の工数が目標工数に合致しない場合、別の工事に計上するか、または計上しない~
「原価監査付契約」
~実際にかかった費用が契約にて認められた原価よりも少なかった場合に契約金額の減少や超過利益の返納が発生する契約~
「上位者の関与」
~工数の付け替えは「目標工数を遵守する」立場の課長を中心として行われ、部長以上の・・・幹部が・・・積極的に関与していた事実は認められませんでした~
「直接作業率の維持」
~計上工数を就業時間で除したもので、工数を付け替えて直接作業率を維持することで人員の削除を回避~
「工数修正端末」
~顧客の制度調査に対し、・・・工数の付け替えが発覚するのを恐れ・・・工数付替用の端末の存在も秘匿していた~

 次回は「ニュース」ではなく、「不正事例」で、これらを詳しく検討しようと思います。taku

2012年12月 TOW架空売上計上

 各種イベントやセールスプロモーションなどの企画制作・運営を主たる事業とする株式会社テー・オー・ダブリュー(東証一部上場;以下、TOW)は、売上の前倒し計上、架空売上等の「不適切な会計処理に関する社内調査結果について」を公表しました。
 以下、その概要を示します。
1.不正の手口
 この不正は不正実行者の単独犯とされ、社内ぐるみの粉飾とはされていません。
 具体的には、「注目されたい・大手クライアント担当チームを見返したい」(本人インタビュー)と考えた不正実行者(チームリーダー;2012年12月付で懲戒解雇処分)が、売上の前倒し計上や費用の先送り計上、売上高の架空計上により、不正実行者が担当する案件の業績を良く見せかけていたものです。
2.不正の影響額
 不正が始まった平成2009年6月期における損益に与える影響は21百万円、翌2010年6月期は35百万円となり、さらに2011年6月期には41百万円となります。年度追うごとに不正金額が大きくなっていくことは良くあることです。これが2012年6月期に139百万円と跳ね上がります。これらを合計すると235百万円。税引後の当期純利益では147百万円の影響額です。
 ちなみにTOWの直近(2012年6月期)の連結売上高は14,033百万円、当期純利益は597百万円、純資産は5,340百万円でした。
 同社は本事例に起因して過去の決算を遡及的に訂正するとともに、内部統制報告書を下記の通り訂正しています。
「下記に記載した財務報告に係る内部統制の不備は、財務報告に重要な影響を及ぼすことになり、開示すべき重要な不備に該当すると判断しました。したがって、・・・当社の財務報告に係る内部統制は有効でないと判断しました。
 平成24年10月に、当社の管理本部における滞留売掛金調査の過程で、回収できない売掛金が存在することが判明し、これを契機として当該担当者より聴取する等の調査を進めたところ、売上高の過大計上及び売上原価の過少計上といった不適切な会計処理が行われていたことが判明いたしました。・・・後略」

3.不正の発見
 今回の不正事例の発覚が遅れた要因は、不正の対象となった案件が会社にとって新規事業であり、既存の業務と同様の内部統制の取り扱いでは不正が発覚しにくい状況にあったこととされています。
 具体的には、不正対象案件は多品種少量の案件の集合であり、1件当たりの受注金額が小さく個別の原価管理が煩雑となるため、半年分の案件をまとめて管理していたものです。その結果、その中の個々の業務に係る売上を前倒し計上したり、原価を先送り計上したりしても、膨大な取引の中に異常性が紛れてしまい、判別不能な状況だったというのです(逆に、1件当たりの受注金額が相応の金額であれば、個々の案件ごとの売上高や売上原価の対応関係にある異常値に起因して、不正が発覚しやすくなります)。
 この他にも、「不正実行者に本取引に関わる業務を一任していたこと」や「新規業務についての知見が上司になかったこと」といった不正が見過される一般的な要因も指摘されていますが、最も大きな要因は、新規業務(本件では多品種少量の業務の請負)に対する固有の内部統制の検討・構築がなされず、既存の業務と同様の内部統制の取り扱いとしていたことにあったようです。
 それでも不正が発覚したのは、不正実行者の不正の手法が「大胆」になったからです。
売上の早期計上や原価の付け替えは「期ズレ」の問題で、実際に発生している売上や原価の計上時期を操作しているにすぎませんから、営業成績の仮装にも限界があります。
そこで不正実行者は「最後の手段」として「売上高の架空計上」に手を染めるに至ります。不正実行者は注文書を偽造して取引が実在しているかのように装い、また支払確約書を偽造して回収見込みがあるように仮装していました。
 発覚は時間の問題という状況ですが、不正実行者は必死に隠ぺい工作を行っていたことになります。もちろん、架空計上された売掛金は、誰かが代わりに支払ってくれない限り、入金されませんから、最終的には入金遅延が社内で問題視され、不正実行者が不正を自供するに至りました。
4.大きな疑問点
 不正の初期の期ズレ操作の際には、「ちょっと魔が差した」程度の意識だったのかもしれませんし、関係書類を偽造して売上の架空計上までしよう、とは思ってもみなかったはずです。当初から管理体制を充実強化していれば、こうした不幸な事件は未然に防げた?かもしれません。
 しかし、この事件、大きな疑問点が一つ残ります。
 それは振込人の判明しない入金39百万円があることです。
TOWでは「将来において返還請求を申し出た真の振込人に対して返還すべく仮受金として計上する」こととしています。
 振り込み詐欺とは逆に、「どこのだれか知らない人間が振り込んでくれた?」
 そんなはずはないでしょう。
 私も含めて事情の知らない人はそのように考えるのが自然に思えます。むしろ、この振り込みと今回の不正とに、何らかの関連があることは間違いないように思えて仕方ありません。例えば、不正実行者がX社名義で振り込んだ(不正実行者の水増し請求等でプールしておいた資金からの入金(この場合、不正実行者は他にも不正を行っていたことになります。))?とか、当該不正に絡んだ外部の協力者からの入金?とか、いろいろと想像をしてしまいますが、ゲスの勘繰りの域を超えません。本当のところを知りたいですね。Taku

2012年10月 コマニー不適切な会計処理?(関連当事者の開示の要否)

 コマニーは今回の中国子会社の不適切な処理に係る疑惑に関して、過去5期分の連結財務諸表を修正すると公表しました。連結の範囲に含まれていなかった子会社(南京捷林格建材有限公司(以下,「捷林格」という。)との取引を連結財務諸表に反映する修正を行うようです。
 この点、前々回は「二重監査の問題」、前回は「子会社の妥当性」の検討をしましたが、今回は最終回として「関連当事者の開示の要否」について検討します。
 
 今回の事件の中心に位置づけられる捷林格(コマニーの中国子会社である格満林実業のC副総経理(副社長)が議決権の全てを所有)の設立は、2007年4月です。2011年8月にコマニーは捷林格を買収していますから、その4年余りの間の取引が問題となります。(ちなみに、格満林実業から捷林格への売上高の推移は、2007年度(9百万円)→ 2008年度(44百万円)→ 2009年度(158百万円)→ 2010年度(269百万円)でした。)
 以下、コマニーを連結開示会社として、捷林格及びC副総経理との取引が関連当事者との取引として開示されるべきものか検討します。

(1) 重要性の判断
 調査報告書でも引用していますが、会計基準では関連当事者の定義には、「⑨『重要な』子会社の役員及びその近親者、⑩その者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及び子会社」が含まれます。
 この点、上述したとおり、格満林実業はコマニーの中国子会社であって、C副総経理はその副社長に該当します。また、捷林格はC副総経理が実質的に全ての議決権を保有しています。そのため、コマニーから見てC副総経理は「子会社の役員」に該当し、捷林格は「その者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社」に該当します。
 以上から、捷林格及びC副総経理は、コマニーの関連当事者に該当すると考えます。
 しかし、調査報告書では重要性の観点から「C副総経理及び捷林格との取引が関連当事者として開示されるべきものには当たらない」としています。
 この判断は疑問が残ります。
 確かに調査報告書の述べているとおり捷林格は、会社グループの中核事業を担っているとは言えないでしょう。その意味では重要性はないのかも知れません。しかし、「中核事業を担っているかどうか」はあくまで重要性判断の一つの例に過ぎず、そもそも重要性の判断は実質的な見地からなされるべきです。
 特に、不適切な取引が行われる可能性に配慮して関連当事者との取引の開示が求められているという開示の趣旨や、結果論的ではあるものの証券取引等監視委員会から不適切な処理が行われているのではないかとの疑念が指摘されたことを考慮すれば、同社との取引は「重要性はあった」と判断すべきように思えてなりません。

(2) 捷林格を子会社とするなら非連結子会社に該当
 一方で、調査報告書では「捷林格は当初から子会社に該当する」という考え方が採用されています。にもかかわらず、実際にはコマニーは捷林格を連結の範囲に含めていませんでした。そのため、コマニーは結果的に捷林格を「非連結子会社」として扱っていたことになります。
 非連結子会社との取引は、当然に関連当事者との取引として開示対象になりますから、上記(1)の重要性の判断にかかわらず、捷林格との取引は関連当事者との取引の開示は必要だったことになります。
 この点、冒頭でも示したようにコマニーは過年度の連結財務諸表を修正することとしていますが、この過年度の修正は、捷林格との取引を関連当事者との取引として開示することを意味するわけではありません(個人的には、関連当事者との取引として開示して欲しいとと思いますが)。
 なぜなら、調査報告書では、あくまで捷林格は設立当初から連結子会社に該当していると考えています。そのため、同社との取引は連結上相殺消去されることとなり、連結上相殺消去された取引は、関連当事者との取引の開示対象にはならないのです。
 
 コマニーや調査報告書の作成者が、捷林格との取引を関連当事者との取引として開示することを回避する意図があったかどうかは定かではありませんが、仮に「当初から子会社であったわけではない」として、また仮に上記(1)の重要性が認められれば、関連当事者との取引を含めた連結上の修正が必要となるでしょう。あくまで仮定の上での話ですが。

 以上、二重監査契約、子会社の範囲、関連当事者の開示の要否という3回にわたりコマニーの調査報告書の検討をしました。興味のある方は第三者委員会の調査報告書(要約版)を読んでみてください。taku

2012年10月 コマニーの中国子会社での不適切な処理?(子会社か否か)

 先だって扱った二重監査の問題も興味深い話なのですが、それよりも本件で特に注目したいのが、コマニーの中国子会社である格満林実業のC副社長が設立した南京捷林格建材有限公司(以下、「捷林格」という。)が、コマニー又は格満林実業の「子会社に該当していたのか」という点です。
 そもそも本件は、証券取引等監視委員会の立入検査が発端となっており、中国の会社を巡って不適切な処理が行われた疑いがあるとされていますが、第三者委員会の調査結果(以下、調査報告書という。)及びそれを受けた一部報道では「不適切な処理はなかったが、子会社の要件に該当することがわかった」としています。
コマニーの社長も「(捷林格が)子会社との認識がなかった。反省している」と話したそうで、自身を含めて処分を検討し、再発防止に取り組む考えを示しているとの報道もありました。

 しかし、「本当に不適切な処理はなかったでしょうか?」「本当に捷林格は子会社だったのでしょうか?」上記の点に関して、報告書を読む限りいくつかの疑問があります。以下、少々長くなりますが、検討したいと思います。

(1)2ブランド戦略の意味と捷林格設立の経緯
 調査報告書では、「2ブランド戦略」という用語が頻出します。これは高級間仕切りパネルである格満林ブランドは堅持しつつ、これとは別に低価格市場向けの間仕切りパネルを製造・販売させる戦略です。
 「捷林格」が設立されたのは、この低価格ブランド戦略の実行のためでした。
 調査報告書の「3.捷林格設立の経緯」では、以下の記述があります。
・「C副総経理(格満林実業の副社長)は、自ら経済的リスクを負って2ブランド戦略を具体化させるための新会社(捷林格)を設立することを決意した」
・「コマニー又は格満林実業の子会社として捷林格を設立するのでは2ブランド戦略の意味がなく」
・「C副総経理が2ブランド戦略のため会社(捷林格)を設立することにコマニー本社が難色を示すおそれもあった」
・「C副総経理は、コマニー本社に迷惑をかけることなく会社(捷林格)を設立するため、A社長(格満林実業の社長)に対して捷林格の設立資金であることを隠し、マンション購入資金として資金を借用することを思い立った」
 上記の実態からすれば、C副総経理はコマニーや格満林実業の社長とは直接的な関係を持たないまま「捷林格」を設立したことになりそうです。この場合、我が国の会社法で規定される競業避止義務違反や利益相反取引等の法的責任の問題も議論されるべきところかもしれませんが、本稿ではそれは別問題として、捷林格という会社がコマニー等に秘密裏に設立された以上、調査報告書が結論付けた「捷林格は当初よりコマニー又は格満林実業の子会社に該当する」との判断の適否が疑問視されます。この点は下記の(3)で再検討します。

(2)中国子会社の格満林実業のC副社長が設立した「捷林格」の業務
 調査報告書では、「捷林格の業務」として、以下の通り、その業務実態を示しています。
・捷林格の名目上の代表者はC副総経理の長男だが、C副総経理が実質的に経営していた。
・捷林格の事務所は格満林実業の工場から3分の近さにある。
・最低限の経費でシンプルな経営
・捷林格で販売する商品は、すべて格満林実業からのOEM供給に依存した。
・格満林実業とは別個のブランドとして販売していた
・すべて時間制のアルバイトを雇用していた
・信用販売は行わず、代金の前払いを承諾した販売先にのみ商品を納入した
 上記の実態は、低リスクで慎ましく、かつ実直な経営実態を示唆する一方で、捷林格が秘密裏に設立された会社である以上、あまり表だって活動することができない事情をも推察することができます。
 格満林実業から捷林格への売上高の推移(比率は連結売上に占める比率)は以下の通りです。2007年度(9百万円;3.4%)→ 2008年度(44百万円;4.1%)→ 2009年度(158百万円;4.6%)→ 2010年度(269百万円;4.4%)
 そもそもコマニー本体の売上が、子会社の売上に比して重要性が高い(2012年3月期のコマニー単体の売上高26,765百万円;連単倍率1.03)ため、これと比較しても上記の売上高に重要性が認められないように見えます。しかし、注目すべきは秘密裏に設立された捷林格が飛躍的な勢いで格満林実業と取引を増加させているという事実です。
この点、調査報告書では、「C副総経理は、いずれ捷林格の企業規模が拡大しないうちに、コマニー又は格満林実業に買収又は吸収してもらうことなどをB総経理(C副総経理の上司で格満林実業の幹部の一人)と話し合っていた。」としています。この点も疑問です。
 なるほど、買収又は吸収してもらおうという認識は、利益相反取引や競業避止義務違反の法的な問題の可能性からしても当然のことなのでしょう。
 しかし、上記の捷林格の業績の推移を見る限り、「既に」かなりの規模拡大が進んでいるといって良いでしょう。また格満林実業のA社長やコマニー本社と『買収又は吸収してもらう』と話し合っていたわけではないのですから、その将来の見込みや確実性は相対的に低いと考えられます。
 また、結果的ではありますが、捷林格は2011年8月にコマニーに買収されていますから、上記の記述と整合すると考えることもできます。
 しかし、この点も見方によっては、捷林格の素性が明らかになるまでの間、できるかぎり捷林格は秘密裏に活動し、仮に表沙汰になってしまえば、そのときに親会社の管理不十分を理由に、穏便に買収させてしまおう、との考えが当事者にあったのではないか、と推察できなくもありません。
 (ちなみに、「捷」は敏速の意味があります。「捷林格」という会社の名前の由来は知る由もありませんが、「捷」=「敏速」を冠に付けていますから、「我が社はレスポンスは速い」という気持ちが込められているでしょう。しかし、そもそもの中国子会社である「格満林」の真ん中の「満」を取って、「格」と「林」をひっくり返していることも考えると、「捷林格」という名前には、単にレスポンスが早いという意味以上の気持ちが込められているように思えます。)
(3) 捷林格は子会社に該当するのか、またいつから子会社に該当するのか。
 子会社の範囲の妥当性は会計上・監査上、主観的な判断が介入されやすく、監査リスクの高い領域とされます。 また子会社の範囲について様々な実務指針が公表されており、それらを参考にしながら子会社に該当するか否かの実務上の判断がなされます。
 調査報告書においても、そうした指針と照らしながら議論しており、なるほど首肯しながら読み進めることはできるのですが、どうしても「捷林格は『当初より』コマニー及び格満林実業の子会社に該当する」という結論には抵抗を感じざるを得ません。
 以下では、調査報告書で使用されているキーワードをいくつか示します。
・「C副総経理は緊密な者に該当」
・「緊密な者と合わせて議決権の過半数を所有」
・「機関の構成員の過半数を占めている」
・「事業依存度が著しく大きかった」
・「C副総経理の捷林格経営が格満林実業の連携、一体として終始」
・「捷林格設立時に将来のコマニー又は格満林実業への結合が約束ないし合意されていたという証言が格満林実業のB総経理とC副総経理の両方から確認されている」
・「捷林格は低価格規格品の建材事業を行う一事業部門を担う事業体」
 上記の既述を見る限り、確かに捷林格がコマニー又は格満林実業の子会社であったことを推察することは可能です。しかしながら、上記の子会社に該当する理由の記述に係る疑問は、本件の当事者であるBとCの証言が示されている一方で、コマニーの意向や格満林実業のA社長の意向がハッキリしない点です。換言すれば、上記理由が「支配される側の理論」に終始している点です。
 いうまでもなく、親子会社間の支配従属関係は実質的な見地から判断され、出資、人事、資金、技術、取引等の形式的な関係はその考慮要件に過ぎません。その実質的な判断は、つまるところ「支配従属関係」の有無がポイントになると考えられます。
 すなわち親会社側が「支配している」という意思・能力を有していることと、子会社側が「従属している」という認識を持っているということです。換言すれば、親会社側は「子会社に言うこと聞かせようとすればできる」状況にあって、子会社側は「親会社の言うことを聞かざるを得ない」と認めていることです。
 この点、本件に当てはめると、捷林格側は秘密裏に設立されたわけですから、開示会社である親会社のコマニーはその存在すら知らなかった可能性があります。この場合、その会社を支配しようとする意思は、コマニーにはなかったことになってしまいます。
 又一方で、既述したとおり、捷林格は「コマニー本社が難色を示すおそれもあった」という状況下で設立されていますから、捷林格はコマニーに支配されている認識はなかったと考えることもできるのです。加えて、C副総経理が「自ら経済的リスクを負って・・・新会社を設立」したわけですから、C副総経理からして捷林格は「自分の会社」と考えられ、「コマニーの子会社」「格満林実業の子会社」には該当しなかったとも考えることができます。
 更に、既に(1)で指摘したとおり、調査報告書では、「コマニー又は格満林実業の子会社として捷林格を設立するのでは2ブランド戦略の意味がなく」としていますから、少なくとも設立当初、「捷林格はコマニー又は格満林実業の子会社には該当しなかった」と考えた方が自然な気がするのです。
 もう一つ。設立時から子会社であるならば、2011年8月にコマニーが捷林格を買収する必要はなかったことにもなりかねません。

 それでは、いつ子会社に該当することになったのか。
 それは2011年8月の買収した時点ではなく、両者に支配従属関係が生まれた時点と考えます。
 具体的には2011年6月頃が相当すると思われます。この時期に中国事業を推進する部門である経営企画部から捷林格の実態が報告されはじめたようですし、時期を同じくして捷林格の買収の検討が始まったようです。この時点で、緊密な者を通じた出資、役員人事、取引依存度等を通じて、コマニー本社が捷林格を支配する意思や能力を認識したと思われますし、また捷林格もその時点で「コマニー本社の言うことを聞かざるを得ない」と観念し、支配されているという認識を持つに至ったと考えます。
 こうした支配従属関係こそが子会社の範囲を決定する実質的な要件の一つだと思います。
(本稿は、あくまで調査報告書(要約版)に基づいて私見を述べたに過ぎず、その背景にある種々の事実関係等を認識しないまま、当方の推察が伴う見解も多分に含まれます。事実に反する内容、不正確な記述による誤解を招くおそれがあれば訂正・削除いたしますので、ご指摘下さい。)takun134@gmail.com
 長くなりました。次回は関連当事者の開示の疑問を検討します。Taku

2012年10月 コマニーの中国子会社での不適切な処理?(二重監査契約)

 パーティション製造販売のコマニー(石川県小松市。名証2部)は、2012年10月、第三者調査委員会の調査結果を公表しました。
 この調査結果では、同社への証券取引等監視委員会による立入調査を受けて、①中国子会社における会計処理の妥当性、②子会社の該当性、③関連当事者取引の該当性について検討されています。
 以下、①と②③とに区分して、自分なりに気になった点を紹介します。
 なお、議論の前提として、複数の中国子会社は12月決算で、親会社のコマニーは3月決算でした。つまり中国子会社の12月決算の数値は、連結上、3月に取り込まれることになります。また、同社の直近の有価証券報告書によると、2012年3月期の同社の連結売上は27,673百万円(親会社単体26,765百万円)、連結当期純利益は552百万円(親会社単体574百万円)でした。つまり中国子会社の連結財務諸表に与える量的な重要性は必ずしも高くはない状況でした。
「①中国子会社における会計処理の妥当性」については、中国子会社の監査を担当する監査法人の不適切な指示に起因して二重監査契約がなされていたことが問題となっています。本稿では、この点を扱います。
「②子会社の妥当性」については、中国子会社(格満林実業)の副総経理C(副社長)が設立した会社「捷林格」が子会社に該当するかどうかが問題となっています。調査報告書の結論では、捷林格は「当初よりコマニー又は格満林実業の子会社に該当すると判断する」と結論付けています。この点、判断の当否が問題視される可能性があるでしょう。これは、次回検討しようと思います。
「③関連当事者取引の該当性」については、上記のC副総経理及び捷林格との取引が関連当事者として開示されるべきものに当たるかどうかが問題となっています。調査報告書の結論では、「開示されるべきものに当たらないことは明らかであると判断する」と結論付けています。この点も、判断の当否が問題視される可能性があるでしょう。これも、次回検討しようと思います。

 さて、①の中国子会社における会計処理の妥当性について、二重監査契約の問題です。
 二重監査契約は、「A監査法人は意見不表明だったから、B監査法人にお願いして適正意見をもらった」というように、自己の都合の良い監査意見を購入する行為(オピニオン・ショッピング)として、問題視されます。
 同報告書では「中国の法制度の下では,6 月末までの監査証明が入手できない場合,税務申告や財務当局への届出が出来ず,営業許可証が不発行となり,事業停止に追い込まれる危険性があった。」「財務部長は,限られた時間の中での止む終えぬ(正しくは、止むを得ぬ)対応であったと釈明している。」としています。
 要するに、会社を潰さないために二重監査契約をした、ということです。
 同報告書では合わせて、前任監査人をかなり批判しています。
 前任監査人は結果として意見差控(意見を表明しない)としているのですが、前任監査人の監査が不当であったことを主張できれば、二重監査契約の正当化の論拠になるのでしょう。
 報告書を読む限り、確かに前任監査人の監査内容に不合理な点があるように見受けられます。
 例えば、長期滞留債権に対する貸倒引当金の計上方法について、「売掛金の長期滞留残高に対し滞留期間1 年から2 年の売掛金に対しては30%,2 年から3 年の売掛金に対しては50%,3 年以上の売掛金に対しては100%を引き当てる」という方法を前任監査人が指摘しているというのです。
 なるほど、これは簡便的で、個別に回収見込みを検討する原則的な処理方法と比較すれば、到底受け入れられない非合理的な処理でしょう。
 しかし、本当にこうした会計処理を指摘したのか、正直、驚きます。
 まさか、調査報告書に虚偽が記載されるわけはないでしょうから、前任監査人は実際にこうした不合理な会計処理を会社側に指摘しているのでしょう。もちろん中国の会計事情についても調査する必要があるでしょうが、基本的に親会社と同一の会計方針を採用することを前提とするならば、こうした不合理な会計処理の指摘はあるまじきことです。
 一方で、前任監査人の見解も聞いてみたいものです。 Takun

(次回、②③の関連当事者取引の該当性と子会社の該当性の問題を検討します)

2012年10月 三菱電機の水増し請求に思う(再)

 「2012年1月防衛庁水増し請求事件に思う」「三菱電機の防衛庁等に対する水増し請求」で取り扱いましたが、同社(及び住友重機も同様)の過大請求は1970年代から繰り返されていたことが会計検査院により明らかにされました。
 驚きました。
 ある程度の長い時間は想像していまいしたが、まさか40年近くも長きにわたり過大請求が行われていたとは。
 水増し請求を可能にするには、そのためのプロセスを構築する必要があります。実際の作業日数、作業時間と水増し分とを明確に区別できなければ、社内の原価計算・利益管理が不十分となるためです。当然にITシステムを含め、様々な技法、工夫、改ざん、隠蔽工作が伴っていたはずです。
 ちなみに、2012年3月期の同社の内部統制報告書では、「財務報告に係る内部統制は有効と判断している」と記載されている一方で、異例な特記事項が記載されています。皮肉っぽく言えば、「水増し請求のための内部統制」もさぞかし整備及び運用されていたことでしょう。
「5【特記事項】
 平成24年1月以降、当社が電子システム事業において、防衛省、内閣衛星情報センター、独立行政法人 宇宙航空研究開発機構、独立行政法人 情報通信研究機構及び総務省との契約で、また、連結子会社等4社が防衛省との契約で、費用の過大計上や不適切な請求を行っていたことが判明し、それぞれから指名停止又は競争参加資格停止の措置を受けた。この事実を厳粛かつ深刻に受け止め、全容解明、原因究明のための徹底した調査に取り組んでおり、ただちに対応すべき改善策に着手するとともに、今後、再発防止に向けた更なるコンプライアンス体制の充実・強化を図っていく。」

 水増し請求額は国庫に返納されなければならないことは自明です。
 国庫に返納すべき水増し請求額を算定するには、同社の構築した過大請求するための仕組みを利用しなければなりません。願わくは、同社にはこの仕組みを改ざんすることなく、過去の原価計算・利益管理に利用した情報に基づいて、正直に過大請求額を算定して欲しいと思います。
 一方で、防衛庁には、この過大請求額が適正に算定されているかどうかを検証する義務があります。40年近くも騙され続け、「ごめんなさい。騙し取ったお金はこれだけです」と差し出された金額を、何ら検証なく鵜呑みにすることは、許されるはずのない怠慢です。
 しかし、どこまで遡及できるのでしょうか?弱った話です。

 上記の特記事項で指摘されている「指名停止措置」の期間は、「事実関係の全容が解明され、過大請求(水増し請求)にかかわる過払い金等が国庫に納入されるとともに再発防止策が報告されるまでの間」とされていました。しかしながら、指名停止期間中であっても、代替事業者や代替品がなく、自衛隊の任務の遂行に重大な支障が生じると認められる場合には、三菱電機と随意契約することになっていました。
 国会の答弁や報道による数値を引っ張ると、2008年~2010年の3年間の防衛庁と三菱電機との間の契約は4,965億円。ザックリと3年平均をとると年1,655億円です(三菱電機の2012年3月の連結売上高は3兆6394億円でしたから、概算で4~5%が防衛庁の売上と推測することは可能です(水増し分を考慮するともう少し少ないかも知れませんが・・・)。
 一方、2012年1月の指名停止措置以降の随意契約は、152件で1,118億円だったとの報道がありました。仮にこれらが正しいとすると、「指名停止などの処置がペナルティーとして機能していない」との会計検査委員の指摘に肯く他ありません。
 騙す側と騙される側とが密接な関係にある以上、他者がいくら「けしからん」と騒いだところで、手の施しようがないのでしょうか。

 最後に、振り込め詐欺の犯人に犯罪の動機を聞くと、「払う奴がいるからやるんだ。」と言ったそうです。
まさに盗人猛々しい。
 また、騙された人は被害者ですが、通常の人は一度騙されれば、二度と同じ過ちは繰り返さないものです。
 同じ過ちを繰り返すことは、盗人に追銭。
 もしかしたら被害者ではなく、犯罪幇助か共同正犯に近いのかもしれません。
 今後は、国庫の返還される金額とその算定プロセスに注目したいと思います。Taku

沖電気海外連結子会社の不適切な会計処理の詳細


8月9日に紹介しました沖電気のスペインにある子会社(OSIB社)の不適切な会計処理について、同社は9月11日に外部委員会の調査報告書を発表しました。また、14日には第1四半期報告書と過年度の訂正有価証券報告書を提出し、上場廃止を免れました。
この事件による当期純利益の過年度累計影響額は308億円のマイナス、2012年3月期の純資産は訂正前675億円に対し262億円(対訂正前比38.9%)減の412億円となりました。また、現金及び預金が訂正前460億円に対し890百万円減少しています。ちなみに営業キャッシュフローへの影響額は2011年3月期が3百万円のプラス、2012年3月期が966百万円のマイナスで累計963百万円のマイナスとなっています。

不適切な会計処理の内容を報告書をもとに紹介します。

1.プリンタ及び関連消耗品の押込販売と対販売先への資金援助
・収益目標を達成するため、ディストリビューター(卸売業者)に対し小売業者への販売を超える過度なプリンタ及びトナー等の消耗品を販売(いわゆる押込販売)した。
・ディストリビューターには支払能力がないことから、未回収の売上債権が大幅に増加した。
・この未回収売上債権について、滞留債権としてのモニタリングを回避しながら、ディストリビューターによる支払いを猶予するため、期日到来前に支払猶予相当額の売上を取消し、新たにインボイス(売上請求書)を発行して売上を計上した。この売上取消と新たなインボイスの発行はOSIB社の社内処理のみで、インボイスがディストリビューターに送付されることはなかった。また新インボイスは当初顧客、当初金額と異なることもあった。さらに物流担当者によって架空のディストリビューター・コードを登録して発行することもあった。この処理は会計システム上、売上と在庫移動・売上原価計上が連動していないことから、容易に行うことができた。
・ディストリビューターからの手形を割り引いた資金で、手形決済不能のディストリビューターに対し、貸付を行い、これを売掛金として処理した。
・売掛金のファクタリングによる資金調達に際し、架空のインボイスを作成し、ファクタリングの対象としていた。、
・外部倉庫にある商品はディストリビューターへの名義変更手続きにて、出荷及び売上を計上していた。倉庫保管料はOSIB社が引き続き負担しており、実質的に売上とは認められないものであった。

2.テレビ事業における債務未計上及び売掛金減少計上
・OKIブランドTVのOEM製造を行うR社から販売代理店Q社への販売間にOSIB社が関与し、Q社から仕入れ、ロイヤリティを上乗せし、Q社に販売を行っていたところ、Q社の資金繰りが悪化した。
・OSIB社はQ社のR社に対する支払を肩代わりするため、三者間合意のもと、手形を発行したが、帳簿計上は行わなかった。
・さらに、これとは別にQ社に対し手形を振り出したが、これを簿外処理した。
・Q社への売上債権について、他社からの回収金にて回収したとして処理する資金の流用や、実在しない未着品と在庫との相殺などにより、Q社の売上債権の減額偽装を行った。

3.同一売掛金を利用したファクタリングと重複ファイナンス
OSIB社は売掛金についてファクタリングを実施する一方で、同時に当該売掛金を手形で回収し、これを割り引くことで同一の売掛金から二重に資金調達を行っていた。

4.リベートの未計上
ディストビューターに対するリベートの負担額を計上しなかった。

                                     Tetsu
                    
 調査報告書についての感想はこちらです。

2012年8月 エドウィンの証券取引損失200億円と経理責任者の不審死

「EDWIN」の由来は知りませんでした。「江戸が勝つ」→「EDWIN」
 聞いたとたんに些か恥ずかしくなるような駄洒落ですが、ウィキペディアによるとこれは俗説のようで、「DENIM」(綾織り厚地の綿布;ジーンズ(デニム製の衣類))の「E」と「D」とを入れ替えて、加えて、「NIM」を180度回転させて、「EDWIN」となったようです(果たして、これで「由来」の説明になっているのか定かではありません)。
 なるほど、ジーンズの販売会社であるから、「DENIM」を語源としたことは理解できます。しかし、下記の点が明らかにならない限り、「社名の由来」にはならないでしょう。
 ①何故「E」と「D」を入れ替える必要があったのか。
 ②「NIM」を180度回転させる必然性があったのか。
 いや、①②は意地悪な疑問でしょうか。むしろ、もっと単純に「DENIM」という単語をいろいろ弄ってたら格好良い名前ができた、という方が適切なのかも知れません。

 さて、本題に入ります。
 EDWINの不正事件。本社は東京都荒川区。1969年5月設立。
 2012年1月期の決算データは、資本金50百万円、純資産29,870百万円、総資産48,738百万円(同社HPより)でした。上記から、総資産-純資産=負債総額18,867百万円となります。つまり同社の負債は200億円未満でした。
 会社法では、資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社について、会計監査人(公認会計士又は監査法人)の監査を義務付けていますが、EDWINは該当しません。会計監査人監査を受けていない以上、残念ながら、同社の決算書は信頼は得られない内容の可能性が高いと思われます。

 2012年8月の報道内容をまとめると、以下の三点に焦点が絞られます。
①EDWIN社グループにおける証券取引を巡って、巨額の損失(200億円超との報道もある)が生じていること
②損失発生に関連して不適切な会計処理が行われた可能性があること
③2012年8月上旬にEDWINグループの経理責任者が急死したこと。
 EDWINグループでは、証券取引やその会計処理等について事実関係の調査を進めており、2012年9月現在は、第三者委員会(弁護士・会計士)の調査が進んでいる状況にあります。今後、平成24年11月を目処に、第三者委員会の調査結果が公表される見込みです。調査結果を見ない限り、何ともコメントできませんが、個人的には以下の点が気になります。
①について
 200億円の損失がデリバティブ取引から生じたとの報道もありますが、同社が会計監査人監査を受けていないとすれば、従前より同社の決算書は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠していない箇所があり、これらを含めて会計処理を見直した場合、300億円近くある純資産がマイナスになる(つまり債務超過となる)可能性があります。そうでなくとも、倒産の危機があることは容易に想像ができます。
②について
 亡くなった経理責任者の他に、社長の他、上層部もこうした損失が生じていることを把握していた可能性があります。このことは組織ぐるみの隠蔽工作なのでしょうか、それとも経理責任者のみが秘密裏に不正を行っていたのでしょうか。通常は、これだけ大きな損失が発生する取引を経理責任者が独断で行うことは考えにくく、社長の他、上層部も把握していた可能性が高いと思われるのですが、③でも示すとおり、経理責任者のみに責任が転嫁されてしまう可能性も気になります。
③について
 経理責任者の急死は自殺なのでしょうか、他殺の可能性はないのでしょうか?
 「死人に口なし」といいます。
 少なくとも経理責任者は、不正を主導した可能性のある者、または不正に荷担した可能性のある者に該当します。その方が亡くなっている状況で、真実が明らかにされるのでしょうか。金の動き、帳簿の動き、議事録や稟議書等の意思決定資料の他、証拠資料などから、真実を紡ぎ出すことができるのでしょうか?
 そしてなによりも、第三者委員会が客観的な立場にたって、調査を行い、報告することができるのでしょうか?
 兎にも角にも、平成24年11月に公表される第三者委員会の調査結果、注目しましょう。Taku

2012年8月 沖電気海外連結子会社における不適切な会計処理

沖電気工業は、スペインにある子会社において不適切な会計処理が行われていたことを公表しました。今後、外部調査委員会による調査報告が公表される見込みですが、現時点で判明している事項は以下の通りです。

・不適切な会計処理の内容;売上債権の過大計上
・連結業績に与える影響;総額で8,000百万円程度の損失リスク
(影響は過年度に及ぶ可能性あるとのことです。)

ちなみに2012年3月期の同社の売上高は428,104百万円、経常利益14,550百万円ですから、単純に比較すると、直前期の経常利益の半分以上が無くなるほどの重要性です。
沖電気は3月決算ですから第1四半期末は6月末であり、また第1四半期報告書の提出期限は8月14日ですが、同社はこの期限までに同報告書を提出することができなくなったと公表しました。今後、その1ヶ月以内(9月14日まで)に第1四半期報告書を提出できない場合には、上場廃止となります。
東京証券取引所は、上場廃止の可能性を含め、投資家に注意を喚起するため、同社の株式を監理銘柄に指定しました。

「売上債権の過大計上」は、そのまま「売上の架空家計上」を意味するのでしょう。
沖電気側は会社ぐるみでないとしていますが、この不適切な会計処理の原因として、現地採用の社長の不正の可能性があるようで、同社の社長が不正を主導している場合には、その影響は根深い可能性が高いと思われます。
今後の調査に注目しましょう。Taku

2012年6月 セラーテムテクノロジー偽計 上場廃止

 コンピュータソフトウェア開発販売会社である株式会社セラーテムテクノロジー(大証JASDAQ)が2012年7月に上場廃止となります。
 2012年6月の四半期レビュー(第3四半期)にて、監査法人が結論不表明としたことが引き金になったようですが、監査法人が結論不表明とした理由は、代表取締役が拘留中であることから、四半期レビュー報告書の交付に際して入手すべき「経営者確認書」の内容について確認ができなかったためとされています。
 その前、2012年3月には代表取締役と財務担当取締役の両名は、金融商品取引法違反(偽計)の疑いで逮捕されています。その起訴状によると、株価の上昇を図る目的で、2009年11月に第三者割当増資により調達した資金15億円を、中国の会社の買収資金に充当するとの虚偽の事実を公表したとされます(実際には自己資金7億5千万円を通謀する三社間で2回循環させる方法により上記会社を買収したかのように偽装していました)。
 この偽計の前後の株価を見てみると、2009年6月期の最高株価が16,600円(最低株価4,350円)であったのに対して、偽計のあった2009年11月を含む2010年6月期の最高株価は123,700円(最低株価7,000円)となっています。
 最高株価を比較すると、実に7.5倍もの株価に跳ね上がっているのですから、この偽計の与えた影響の大きさを感じます(ちなみに2011年1月に1株→5株の株式分割が行われているものの、現在2012年7月3日の終値は425円でした)。
 大阪証券取引所は、上場廃止理由として上記の監査法人の結論不表明の事実に加えて、下記の理由を示しています。やはり偽計の影響の大きさがポイントのようです。

(株)セラーテムテクノロジーの行った上記開示は,投資者の投資判断にとって重要な情報を偽ったものであり,(株)大阪証券取引所の行った実質的存続性審査に対して,極めて大きな影響を与えたとともに,実質的存続性審査そのものに対する投資者の信頼を毀損したと考えられ,金融商品市場に対して悪影響を与えるものであったと認められます。加えて,(株)セラーテムテクノロジーが虚偽の開示を長期間にわたって是正しなかったことは,極めて悪質であったと認められ,(株)セラーテムテクノロジーの真相究明に対する姿勢は不十分であると認められます。また,(株)セラーテムテクノロジーが,上場会社として金融商品取引法違反(偽計)の嫌疑で告発及び起訴されたことは,重大であると認められます。これらの状況は,(株)セラーテムテクノロジーが投資者に対する重大な背信行為を行ったものと認められ,公益又は投資者保護の観点から重大であると認められます。

 一方で注目は、同社の業績です。2012年6月に公表された第三四半期(2011年7月1日~2012年3月末日)の連結売上高5,667百万円(前期比8%増)で、経常利益1,022百万円を計上しています。本業では利益を上げているのですが、なんとも残念な話です。Taku

2012年5月 加賀電子の続報 承認のない値引き

 加賀電子株式会社の子会社、加賀ハイテックで発生した不正に関する続報です。
 2012年5月、同社の調査委員会は「最終調査報告書」を作成し、同社はこれを開示しています。
 売上値引きを利用した不正はよくあるパターンです。
 当期の売上を嵩上げするために架空の売上を計上し、翌期に値引き処理するパターンは単純です。また架空売上により出荷した商品を横流しして、滞留した売掛金を値引き処理する不正も見受けられます。
 そのため、値引き処理については相応の内部統制を構築することが一般的で、同社でも以下のようなプロセスを社内に整備していました。
①入金差異の担当者チェック及びその監視
②売掛金の残高確認
③売上値引きの稟議申請
 このような内部統制が整備されながら、実際には不正が発生しました。そこで、その内部統制上の問題について検討してみましょう。

①入金差異のチェックについて
 会社の承認を経ないまま営業担当者が独断で得意先に対して値引きを行えば、当然に社内で把握している売掛金と得意先からの入金額とに差異が生じます。その差異を発見するため、入金差異一覧表を作成し、その原因を究明して、相応の責任者に報告する体制を構築することが一般的です。
 同社でも、入金予定一覧表と実際入金一覧表との差異について「売掛金回収違算明細表」を作成し、その理由を調査、報告する体制が整備されていましたが、運用面で問題がありました。
 入金差異は、単に得意先の支払遅延の他、値引き処理や返品処理が未反映の場合、得意先とのトラブルに起因する場合等、様々な原因が考えられ、それらを関係者からの事情聴取や関係資料の閲覧、適切な承認過程のチェック等によって裏付けることが重要です。
 しかし、同社では「本来行うべき値引き計上の正当性の確認・・・を十分に実施しておらず」「適時適切に正確な実態把握を行っていなかった」としており、債権管理担当者は事実と異なる「売掛金回収違算明細表」を作成してしまったようです。要するに不正実行者によって、ケムに巻かれてしまった格好です。
 加えて不幸なのは、「上長及び関係者が滞留売掛金残高の存在に気づきつつも、・・・通常発生しうる程度の違算と誤認・・・的確な指示・対応進捗管理を行わなかった」としている点です。入金差異が長期間にわたり、また次第に多額になっていったと推察できるのですが、その長期間、多額の異変に上長及び関係者までもが気が付かなかったことが残念でなりません。

②売掛金の残高確認
 同社では、公認会計士監査でも一般的な監査手続として行われる売掛金の残高確認を行っていました。
 しかしながら、「返却された確認書に差異があった得意先のすべてについて売上債権残高確認差異調整表を作成し、債権管理担当課長が差異理由を確認する」としているのみで、返却されない確認書についての取扱いは定かではありません。
 一般的な監査では、返却されない確認先に対しては再度返送してもらうよう依頼し、それでも先方の協力が得られない場合には他の代替的な手続を相当に慎重に行うことが求められます。
 この点、同社は「取引明細や支払明細等・・・情報が十分活用されず、違算内容の把握・分析等債権管理担当者による検証機能が十分に機能していなかった」としています。
 せっかく得意先に対して確認状を送るという比較的厳密な手続を採用していたにもかかわらず、今回の不正が発見できなかった原因は、単に「ツメが甘かった」と言わざるを得ません。調整できるものだけを調整して、調整できないものは放置するのでは、残高確認を行った意味がありません。

③売上値引きの稟議申請
 独断での値引きを禁ずるため社内の承認手続が必要となることは当然でしょう。
 加えて同社では「合意した値引きについては決済後に会社として合意に関する文書を得意先と取り交わすことが義務づけられていた」としています。さらに実効性の高いコントロールとしては、合意に関する文書と実際の値引き処理とに不整合が生じていないか(合意した値引き以上の値引きがないかどうか)を監視するプロセスも重要です。
 しかし、実際の稟議手続は一部に留まり、稟議書と売上値引き伝票との照合も不十分なままで、事前に合意した値引きと異なる値引きがあっても見過ごされ、そもそも合意に関する文書が得意先と取り交わされていない場合もあったようです。

 これらの種々の状況からすると、「当初決められたルールがほとんど守られていなかった?」との印象を受けます。「実際に運用できない水準の厳しいルールでなかったのか?」そうでなければ、「なぜ、そのルールが形骸化していったのか?」「何らかの理由によりルールを守らなくても良いという風土、風潮が会社内に醸成されたのではないか?」
 その結果、不正実行者が「不正を行っても見つからないだろう」と考えたのではないか?
 守られないルールを放置することは、そのルール自体が守られないこと以上に、不正が発生しやすい環境を作るのです。「いい加減な組織だから、どうせ見つからないだろう」という意識を生じさせてしまうことが問題なのです。

 以上、①②③の内部統制上の問題をみてきましたが、問題の根っこは「整備しっぱなし」ということでしょうか。今回の最終調査報告書を見るにつけ、確かに不正実行者が悪者であることは当然としても、もう少し早く発見することができなかったかと、残念に思います。Taku

2012年5月 加賀電子株式会社の子会社 営業担当者不正①

平成24年5月、東証一部の加賀電子株式会社が、従業員不正に関する「中間調査報告書」を公表しました。
 同社の子会社では、営業担当者による会社未承認による値引きの申し入れ・放置並びに商品の不適切な処分・放置がなされていました。同社の報告書では、得意先別に手法を三つに分けていますが、総括すると以下の二つに集約されると思います。
 以下、それぞれの不正の手法について検討します。
①未承認の値引き
 メーカーが製品を販売会社に売却する場合、単なる値引きだけでなく、販売協力金や協賛金、在庫補填金等、様々な名目で販売活動をバックアップすることが一般的に行われており、通常は定められた承認手続を経ることが社内の規程で求められています。
 しかし、同社の子会社である販売担当者のA氏は、売上目標の達成やさらなる売上の増加、得意先からの値引き要請等のプレッシャーに起因して、会社の正式な承認手続を経ずに得意先に対して値引きを行っていました。
 その結果、得意先の同社に対する支払額は減少しますから、当然に未回収の売掛金残高が滞留することになります。ちなみに平成22年10月度100百万円超の売掛金の差異(違算金額)があったようです。その後A氏が得意先等との協議を十分に実行せずに放置されたことから、当該差異の原因究明が不十分のままとされたようです。不正の発覚は平成24年3月であり、当該不正による影響額は概算で341百万円でしたから、その間この不正は金額的増額していったことになります。
 同報告書では必ずしも定かではありませんが、仮に平成22年中に売掛金の差異原因を究明していれば、その後のA氏の未承認による値引きを抑止することができたかもしれません(あくまで結果論ですが・・・)。
 不正の早期発見は、不正による損失を可能な限り少なく抑えるために重要であることはいうまでもありません。重要なことは「なにか、おかしいな」と思ったとき、つまり「気づき」や「兆候」があったときの初動調査なのです。「もしかしたらこんな不正があるかも知れない」との仮説を立てて、それを検証する仕組み(特に機動的に活動できる内部監査部門を含むコントロール)を構築することも一つの改善策でしょう。
②商品の不適切な処分
 A氏は得意先からの受注を装って、商品が出荷されたかのように見せかけ、実際にはA氏の友人への引き渡し、又は質屋等での換金等による商品の不適切な処分により、会社に損害を与えていました。
 金額的には10百万円前後の不正のようですが、一旦計上した売上は値引き処理され、また3ヶ月超(滞留債権の重点管理対象)となる前に、返品、再売上により長期滞留であることが隠蔽されていたようです。
 この不正では換金性の高いデジタルカメラ等が不正の対象となっており、不正実行者のA氏は個人の遊興費等に充当することが主たる動機であったとされます。
 滞留債権の管理は一般的な企業で行われているところでしょうが、滞留している売掛金がどのように滞留でなくなったのかの要因を明らかにすることも肝要です。実際に入金されたのであれば特に問題になりませんが、それ以外の理由には注意を要します。
 特にクレーム等による値引き・返品の場合には、そもそも当初の売上が架空だった疑いがあります。
 値引きや返品の処理に係る社内の承認体制やIT内での証跡の残り方等は、非常にデリケートな問題です。あくまで値引きや返品は例外的なプロセスとして位置づけ、必要書類の作成や承認を経ない限り、入力や書換等ができないような仕組みを構築することで、事前に不正の芽を摘むことが重要です。

 なお、本不正事例に関しては、今後平成24年5月下旬に最終報告書が公表される予定です。そこでは、「内部統制上の問題」の検証や不適切な取引の「責任の所在」の明確化、今後の「再発防止策」の提言がなされる予定です。
 その公表後、必要に応じて、改めて更新しようと思います。Taku

クラウドゲート(旧テラネッツ)上場廃止 2012年2月

1.上場廃止理由
 デジタルコンテンツ制作のクラウドゲート(旧テラネッツ;札幌アンビシャス上場)が2012年3月をもって上場廃止となることが明らかになりました。
 粉飾した会社が上場廃止になるかどうかの判断はオリンパス事件でも話題になっており、個人的には同社が上場廃止となるとしても、その理由に注目していました。
 その理由は以下の通り(抜粋)でした。
 「訂正後の決算情報は①売上高、利益を大幅に減少させる・・・、②本件発覚まで上場後一度も正しい財務諸表を開示しておらず・・・、③2期連続債務超過であって株券上場廃止基準に定める要件に抵触・・・④上場申請期である平成18年12月(2006年12月)期の・・・利益については黒字から赤字に訂正」といった内容です。
 上記について、①は粉飾がある以上当然ともいえますが、②は「ただの一度も!」という感情が籠もっています。上場廃止理由としては、③の債務超過が決定的と思われますが、上場して間もない会社であることから④も重要な要素でしょう。

2.主な経営指標の訂正前と訂正後
具体的にどのような粉飾だったのかを、公表された資料を基に検討してみます。
クラウドゲート経営指標推移Ver3

2006年12月期が公開直前期(2007年2月上場)で、予算必達・黒字決算のプレッシャーがあったようです。

その2006年12月期について、売上の架空計上66百万円(403百万円-337百万円)は容易に推定できますが、それだけでは赤字と黒字を逆転させることはできません。この点、公表資料では「会計方針の変更」により利益を捻出したようです。具体的には、コンテンツの取得費用を従来は一括で費用計上していたところ、「コンテンツ勘定」として無形固定資産に計上し、減価償却資産としたのです。これにより費用計上のタイミングが翌期以降にズレこみますから、一時的に業績を良く見せることができるのです。
 2007年12月期では、その手法が大胆になります。架空売上195百万円(561百万円-366百万円)と費用の繰延等による損益の過大計上223百万円(56百万円-△167百万円)で業績が堅調であるように見せかけています。
 ところが2008年12月に同社の業績は一転します。
 2008年12月期には、架空の売上100百万円(581百万円-481百万円)があるものの、訂正前の損失1,148百万円を計上し、一気に債務超過(純資産△388百万円)に陥るのです。
これは競輪関連のソフトウェア事業を行う子会社への貸付金872百万円に対する貸倒引当金と債務保証損失引当金242百万円を併せた1,114百万円に相当する損失でした。売上の2倍近い損失を計上した以上、なかなか復活は厳しそうですが、この会社の業績で注目すべきところは、翌年、債務超過から脱却している点です。
 2009年12月期以降は、売上の仮装も無くなります。また、訂正前の債務超過△388百万円を解消したのは、2009年12月期の利益214百万円と第三者割り当て増資(215百万円)によるものです。
 2010年12月期には、訂正前の純損失△159百万円を計上しますが、やはり増資で200百万円調達し、債務超過を回避しています。

3.キャッシュ・フローの操作
 加えて注目すべきは、営業キャッシュ・フローの操作です。
 訂正後の営業キャッシュ・フローはすべて赤字ですから、本業で資金が社外に流出していたのですが、訂正前の情報ではこれを把握することはできません。キャッシュ・フローは粉飾しにくいものですが、この会社の粉飾では、後の5.具体的な粉飾手法で指摘するように、固定資産の取得や貸付金等の流出資金を循環させて収益を仮装していましたから、投資キャッシュ・フロー(キャッシュ・アウト)と営業キャッシュ・フロー(キャッシュ・イン)とが両建てになっていたことが推定されます。

4.債務超過の回避
 訂正前後の経営指標を見て注目すべきは、繰り返しになりますが、やはり債務超過です。
 訂正前では2008年12月期に債務超過に陥ったものの、2009年12月期には債務超過から脱却しています。しかし実態は、2008年12月期は△521百万円、2009年12月期は△83百万円の債務超過だったということです。
 「債務超過か否か」は、財務諸表利用者にとって、非常に重要な情報です。
であればこそ、なんとか2009年12月期に第三者割り当て増資をして債務超過の解消を目指したのだと思います。

5.具体的な粉飾の手法
 以下では、具体的な粉飾の手法について説明します。
複数ある手法のうち、今回の粉飾事件として特筆すべき手法が、「資金の循環を前提とした仮装取引」です。仕訳を例に説明しましょう。
 例えば、固定資産の取得に係る仕訳があります。
 (借)固定資産(コンテンツ) 30,000千円 (貸)預金 30,000千円
  一方で、コンテンツ使用許諾料の収入に関する仕訳があります。
 (借)預金 28,000千円 (貸)売上高(収入手数料)28,000千円
 上記の二つの仕訳は、全く別の取引に見えますが、今回の粉飾の手法は、これらが裏でつながっていたのです。つまり固定資産の購入先に支払った資金30,000千円が、別会社を経由して、「コンテンツ使用許諾料」の収入28,000千円として戻ってきているのです。差額の2,000千円は、経由した別会社への手数料が抜かれていると思えば自然です。
 上記取引が監査の対象となったとしても、裏でつながっていることが明らかでなく、それぞれ固定資産の購入に係る証憑書類や売上に係る証憑書類が社内に整備されているとしたら、監査人は「問題なし」と判断する可能性は高いと思われます。
 「資金循環を前提とした」とあるのは、「出ていったお金」と「入ってきたお金」が実は同じだったと言うことなのです。
 2008年12月期に子会社貸付金について貸倒引当金872百万円を計上していますが、これも「子会社貸付金」として出金し、他社を循環させて、「コンテンツ使用許諾料」として売上計上する方法も同様の手法です。
この粉飾の方法は、とにかく金が必要です。一旦、資金を出さない限り、その資金を売上の入金として処理できませんから。

6.総括
 以下、本事件から学ぶべき点を総括します。
 とかく粉飾決算の究明というと、事後的・結果論的になりがちなのですが、主要な経営指標を時系列で比較して以下のような事象や状況を識別した場合には、粉飾の可能性を検討する余地があります。
・会計方針の変更
 特に本件では公開直前期の会計方針の変更と言うことで、相当怪しさがありますが、そもそも正当な理由か否かは難解な問題です。会計基準の変更に伴う会計方針の変更以外の会計方針の変更については、利益操作の可能性について疑った方が健全でしょう。(ただし、現行基準では会計方針を変更しても遡及適用が求められていますから、利益操作目的の方針変更は減少するかも知れません。)
・不自然な資産の増減
 仮払金や建設仮勘定、ソフトウェアや長期貸付金、関係会社株式等、資金が流れている先に注目することが肝要です。もちろん、売掛金や棚卸資産の著増減にも注目が必要です。異常な増減の裏には異常な事象や状況があるモノです。
・巨額の損失発生
 堆積していった資産を一気に損失に落とす場合、会社はV字回復を目論むことがあります。翌期以降の利益のために、当期に過度に保守的な処理に傾斜することがあります。加えて、「保守主義に基づいて、損失に計上しているのだから問題はないだろう」という姿勢の裏には、実は過去の粉飾の事実が隠れていることもあります。

 粉飾を見いだすことは大変難しいですが、「何か変だなぁ」と思うことはそれほど難しいことではありません。決算数値を見るときには時系列比較、他社比較をお忘れなく。Taku

FOI粉飾事件に実刑判決 2012年2月

以下、本件の経緯を簡単に示します。

 2009年3月期を直前期として2009年11月マザーズ上場(一般投資家から52億円を調達)
 2010年5月に証券取引等監視委員会の強制捜査
 2010年6月に上場廃止

 FOI社の粉飾は、上場してから6ヶ月足らずで上場廃止となった異例な事件でした。
 この異例なスピードは、上場してから180日間は、上場前からの主要株主は株を売却しないという約束(ロックアップ条項)に起因します。ロックアップ条項は、一般に上場直後の大量の株式売却による株価の急激な下落を防ぐことを目的としていますが、証券取引等監視委員会の強制捜査はこのロックアップ条項の期限を睨んで行われたのです。 つまり、ロックアップ条項の期限を迎える2010年5月までに強制捜査を行うことで、大株主の株放出を事前に阻止し、それによる一般投資家の被害拡大を防止することができたのです。

 一方、粉飾の手法も注目に値します。
 同社の有価証券届書によると、2009年3月期の売上高は118億円としていますが、ほとんどが架空の売上で、実際の売上高は3億円だったようです。また、同期末の売掛金は228億円とされ、年間の売上高のおよそ2倍の売掛金が計上されていました。
 売掛金が2年間回収されないという常軌を逸した状況に疑問を抱いた方々も少なくありませんでした。
 むしろ、決算数値の異常な動きは、上場審査や監査担当者ばかりでなく、一般の投資家を含め、ほとんどすべての関係者は気がついていたはずです。
 にもかかわらず粉飾に気がつかなかったのは、とても残念なことです。
 売掛金の回収期間が長期にわたることについては、有価証券届出書上それらしい説明がなされていますが、粉飾であることが分かった以上、その説明は根も葉もない嘘だったことになります。その嘘を上場審査や会計士監査が見抜けなかったのです。
 粉飾は2004年3月期から行われていたようですが、架空の売上計上は完成度高い偽造書類に裏付けられており、また書類だけでなく実際に装置を出荷して、別の倉庫に保管するという周到さだったようです。
 さらには、ほとんどが海外売上だったため、海外の偽の取引先に会計士と同行し、通訳に嘘の説明をさせることで会計士を騙したとの報道もありました。

 会計士が監査を行う上で「あれ。なんか、おかしいな?」「ほんとかな?」という疑念や懐疑心は非常に重要です。特に会社側の取り繕うような説明に対して「そういうことなのか。」「まぁ、いいか。」という安易な納得は禁物です。
 特に粉飾が行われている状況下では、首尾一貫して嘘の証言が行われることは稀で、話していることが矛盾することが多くあります。監査報告の期限にばかり意識が残り、本来得なければならない心証を得ないままに意見表明することは厳に慎まなければならないのです。
 粉飾する側も人を騙すことに本気なのでしょうが、監査する側も騙されないように本気にならなければなりません。

 なお、その後2012年2月にFOIの社長と専務は、懲役3年の判決(さいたま地裁)を受けました。
 判決理由で「粉飾率90%超・・・52億円もの資金を集め・・・投資家の信頼を裏切り、証券市場の制度の根幹を揺るがし極めて悪質」と指摘されています。Taku

戸田建設 重要性に乏しい連結子会社の不適切な会計 2012年2月

 2012年2月13日 戸田建設は 当社連結子会社における不適切な会計処理に関する調査結果等について」を公表しました。  報告書を読むと、当該連結子会社は「重要性に乏しい」「連結から除外される」と示しつつ、総じて「大したことはないんだ」との印象を与えようとしているように伺えます。子会社の役員の処分としても、減俸20~30%の3ヶ月で、副社長と常務が取締役へ降格すると発表しています。
 2011年3月期の戸田建設の連結税引後利益は35億円でした。
 一方で、今回問題となった対象子会社の2011年3月期末の利益剰余金に与える累積的な影響は21億円でした。なるほど、連結ベースの純資産は、約1,900億円ですから、これと21億円とを比較すれば重要性は乏しいと判断することになるのでしょう。
 「粉飾」と「不適切な会計」という用語は、意識的かどうかにかかわらず、区別して使用されているように感じます。「粉飾」というと組織的に財務諸表利用者を欺くための不正であって必然的に影響は大きくなる一方で、「不適切な会計」はそれに至らない影響が軽微な印象を与えます。
 本件は、連結子会社内単体では「粉飾」と位置づけられるだろうほどに、その不適切な会計処理が多岐にわたり、またその手法の悪質さを感じます。一方、戸田建設というマンモス企業グループ全体から見ると、重要性に乏しい事件に位置づけられるのかも知れません。重要かどうかは、要するに一定の視点を伴うわけで、相対的に判断されているわけです。
 さて、同報告書にて示された「不適切な会計」の手法は以下の通りです。
(1)売上の繰上・繰延
 完成工事について引渡未了物件を売上計上する一方で、多額の損失が見込まれる工事を繰延処理していた。
(2)原価付け替え
 複写伝票のゴム印操作や二重帳簿とも言うべき工事月報を使い、原価付け替えにより各工事の損益を操作していた。
(3)完成工事未収入金の回収不能見込額
 口約束により施工したが結果的に代金の回収ができなかった、もしくは架空の売上により決算数値を操作していた。
(4)未成工事仮勘定を使った費用の繰延
 完成工事に配賦されるべき人件費やその他経費が配賦漏れや、完成工事未収入金から未成工事仮勘定へ振替える不適切な会計処理があった。
(5)上記の他、減損会計未実施、繰延税金資産の過大計上、役員退職慰労引当金の計上遅れ、積立保険料の費用計上漏れといった種々の会計上の問題が指摘されています。これだけ悪質な会計処理が多岐にわたっているにもかかわらず「不適切な会計」と位置づけられることに違和感を感じます。
 むしろ「連結子会社における『粉飾』が明らかになったが、グループ全体からすれば重要性はない」との位置づけの方が納得がいきます。

 重要性の判断は難しいです。当然のことですが、量的に重要性が無くても、質的に重要な場合もあります。
 「大した問題ではない」との姿勢は、また同様な不適切な会計が発生する原因とならないか。
 「多かれ少なかれ、みんなやっていることだ」と、不適切な会計を正当化する企業風土とならないか。

 本稿を書きながら、建設業界に長い学生時代の友人が言っていたセリフを思い出しました。
 「会計士を騙すなんて簡単だ。やるかどうかは別としてね。」

 こうした考えが会社に蔓延しているとしたら・・・。なかなか厳しい見解です。Taku 

 ちなみにその後、戸田建設は、内部統制報告書(2009年3月期)の訂正報告書を提出しました。
 それによると、戸田建設は、連結子会社の不適切な会計処理について、戸田建設のグループ管理体制にも不備があったとして、2009年3月期の同社の内部統制について、従来は「有効」としていたところ、「財務報告に係る内部統制の不備は、財務報告に重要な影響を及ぼすこととなり、重要な欠陥に該当・・・内部統制は有効でないと判断いたしました」と、訂正しました(加えて、有価証券報告書、四半期報告書についても訂正報告書を提出しています)。

 あくまで「重要性はない」と押し切ることはできなかったようです。Taku


 

住友大阪セメント 不適切な会計処理 2012年2月

住友大阪セメントは、2012年2月10日、「不適切な会計処理に関する社内調査結果について」を公表しました。

この資料によれば、同社の新材料事業部高機能フィルム事業グループにおける原価計算および売上計上に関して不適切な会計処理があり、2012年3月期の第2四半期末に与える影響が、総資産で1,479百万円、純資産で940百万円とされています。

 その手口は二つの典型的な利益嵩上げ方法でした。

 一つが在庫の過大計上です。
 生産チームの不正実行者(2名)が材料の払い出し数値の過小計上や払い出し先の改竄等により、実際に払い出された在庫を払い出されていないかのように装って、在庫を過大計上していたようです。こうした不正は、棚卸資産の現物と帳簿残高とを照合(実地棚卸)を行い、その差異の原因究明をしていけば明らかになるはずです。

 また、今ひとつが売上計上の早期化です。
 営業担当者(1名)が売上の出荷日を改竄し、売上計上日を前倒しにしていたことが問題視されています。こうした不正は、実際に出荷した日付を示す資料(内部管理上、事前にこれを特定化しておくことが重要です)と入力(又は改竄された)売上データとの照合で判明するはずです。

 また本報告書は、本件の不適切な会計処理は会社ぐるみではなく、上記の生産チーム(2名;原価計算の不正担当)、営業担当者(1名;売上計上の不正短答)並びにこれらのグループリーダーの4名によるものと結論付けています。特にグループリーダーが、当該事業の赤字継続が事業からの撤退につながるとのプレッシャーから、これを回避するために部下に指示をしたとのことです。
 会社の信頼を大きく損なったこの事件、不正実行者4名の単独行動として、その処分はどの程度のものか、気になるところですが、同報告書は社内処分案として、「4名はいずれも個人的な利得を目的としないものの、就業規則及び労働協約に則り、厳正に処分すべきである」としてます。
 また担当役員の処分はというと、「不適切な会計処理に関与していないものの」が強調されていながら、「強いプレッシャーを与える結果となった事実を考慮すれば、相応の処分をすべき」とされています。

 今後、上記の社内調査委員会の報告結果を踏まえ、取締役会で社内処分案に関する決議をするようです。
 それが2/14。今日ですね。わかり次第、続報を。Taku

三菱電機の防衛庁等に対する水増し請求

 三菱電機が、防衛庁、内閣衛星情報センター、独立行政法人宇宙航空研究開発機構に対して経費の水増し請求していたことが明らかになりました。実際にかかった工数を水増しして、費用を実際よりも多く計上する手口です。これにより、三菱電機は防衛庁等から、本来もらう必要のないお金を騙し取っていたことになります。

 この不正は、内閣衛星情報センター等から、三菱電機の鎌倉製作所における原価集計などに関する問い合わせから発覚したそうです。
 三菱電機は、三機関から指名停止、競争参加資格停止処分を受けました。
 一般に公の機関は「予算消化型組織」とされ、一度決まった予算をきっちりと消化することを優先するあまり、「無駄をなくす」、「余計な支出を削減する」、といった意識が低いとの指摘もあります。
 しかし今回の不正発覚は、公の機関における無駄をなくす努力の結果として評価されると思います。
 騙したほうが悪いに決まっていますが、騙された方に問題があることも考えられるのです。

 この事件で注目すべきは、公の機関側が騙されないように相手を監視する姿勢を保持していたことです。
 その結果、水増し請求が発覚し、税金の無駄遣いが防止されました。それにしても三菱電機は、防衛庁等をどれだけだまし続けたのでしょうか?
 その期間、その金額が気になります。
 さらには、被害者は防衛庁だけだったのか?
 水増し請求をしていた会社は、三菱電機だけなのか?
 「あの」三菱電機が水増し請求していた以上、他の多くの会社もまた、水増し請求をしていたのではないか?
 他の公の機関は水増し請求されて、気が付くことができるのか?
 今回の事件が氷山の一角なのかどうか?
 
 いずれにしても、今回の事件での被害者である防衛庁側は、水増し請求されて支払った額の返金を三菱電機に求めるようです。今後の調査が注目されます。taku

野村マイクロ・サイエンス 2012年1月 材料費の付け替え

 野村マイクロ・サイエンスは、2012年1月10日、社内調査委員会の報告結果を公表しました。
 この不適切な会計処理は「材料費の付け替え」が問題となりました。
 同社では発生した原価を個別の案件ごとに集計する「個別原価計算」を採用しており、その計算の中でA案件の原価とすべきものをB案件の原価に付け替えていました。その目的は案件ごとの損益を平準化することにあったようです。
 「原価の総額が変わらないのだから大きな問題はないのでは?」
 と思われるかも知れませんが、そうではありません。
 問題は「工事損失引当金」の計上と「工事進行基準」という収益の認識基準です。
 
 「工事損失引当金」は、赤字が見込まれる工事については、予めその赤字を損失として見越し計上するものです。A案件の原価とすべきものをB案件の原価に付け替えることで、本来A案件は赤字が見込まれるはずなのに、赤字が見込まれないものとして扱うことができます。その結果、A案件について計上すべき工事損失引当金を計上しなくてすむわけです。

 また一方で、「工事進行基準」は工事の進捗割合に応じて売上を計上する方法で、その進捗割合は原価の発生割合によることが一般的です。
 例えば、見積り総原価100百万円(売価150百万円)の工事について、今期50百万円の原価が発生した場合、工事進捗割合を50%(=発生原価50百万円/見積り総原価100百万円)と考え、これに売価150百万円を乗じた額(150百万円×50%=75百万円)を売上高とする方法です。
 この方法によると、実際に発生していない見積り原価をA案件からB案件に付け替えることで、A案件の見積り総原価を小さくして、工事進捗割合(発生原価/見積り総原価)を高めることができます。その結果、A案件について計上する売上高を増額させることができるわけです。

 このように会計上の見積りに係る問題は、大したことがなさそうな問題に見えながら、実は根深い問題となる可能性があります。同社の2011年3月期の連結財務諸表では、売上高49百万円減少、売上原価243百万円増加となり、売上総利益及び経常利益は292百万円減少する修正が必要になるようです(未監査情報による;今後訂正報告書を提出する見込み)。
 修正前の経常利益が1,000百万円であり、修正後の経常利益は708百万円となりますから、実に3割弱の経常利益が過大に計上されていたことになるのです。

 この費用の付け替えは、取締役専務執行役員の指示で行われていました。
これは経営陣自らが予算統制制度をがないがしろにするものであり、決して許されることではありません。ある項目の予算が不足しているときに、予算に余裕のある項目に費用をつけ替えることが認められる、と従業員が知れば予算統制の実をあげられないのは明白です。取締役専務執行役員の行為は、会社風土の形成に多大な悪影響を与えるものであり、不正のしやすい環境を作りだすものです。
報告書は予算統制のあり方への言及がなく、また当事者の取締役・従業員のの処分も公表時に決定されていないこともあり、問題のとらえ方と責任追及の時間感覚に今後、会社が健全な道を歩めるのか、つい心配してしまいます。

 

2011年12月 マキア在庫の水増し

在庫の水増しは、そのまま粗利益の増加をもたらします。
そのため、在庫の水増しは粉飾の手法でも良く行われる手口です。

 本事件は「粉飾」と呼ぶほど大きな事件ではないかも知れません。というのも、「粉飾」といった場合は経営陣が主体となって組織的かつ大規模な数値の操作が行われることが通常だからです。本事件はあくまで仕入れ担当者個人が行った不正で金額的にも2011年9月末時点での棚卸資産の過大計上額は92百万円とされ、比較的小規模な虚偽表示でした。

 本事件で注目したいのは、以下の二点です。

 一つは、不正発覚の経緯として、監査法人の内部統制監査の過程で異常値が認められたことが上げられている点です。粉飾や不適切な会計処理が社会的な問題となる場合、多くのケースで「果たして監査法人は何をしていたのでしょうか?」といった指摘がなされますが、本ケースは監査法人が不正発見に寄与しています。しかし、「監査法人が不正発見」といった指摘はあまり見かけません。「当たり前だから」と言ってしまえばそれまでですが、監査法人による監査の社会的意義を見いだす一つの事件といっても良いでしょう。

 また、今ひとつはリスクとコントロールの関係です。
 虚偽表示が発生するリスクと虚偽表示が防止・発見・是正されるためのコントロールには密接な関係があります。本不正事例は、仕入担当者による伝票の操作によっていましたが、上司等の承認経路を経ずにそのままシステムパンチャーに提出され、入力されていたようです。

 これは、通常の商品コード以外の99コード(修理品や特注品等の処理に使うというコード)を利用しており、内部統制の構築する上でそのコードの売価改定があること自体が社内で想定されていなかったようです。

「99コードが利用されて売価改定がなされるリスク」が識別されていない以上、それを低減するためのコントロール(例えば伝票の改訂を行う場合には承認手続が必要とする等)は構築されません。

 「内部統制の構築はリスク評価から」ですね。

2011年11月 京王ズホールディングスの代表者不正

京王ズホールディングスは、東北地盤の携帯販売代理店で、保険販売やソーシャルゲームの他、介護事業にも進出する企業グループです。
平成23年11月、同社は第三者調査委員会による最終報告書を公表しました。この報告書によると、以下で示すような①利益の過大計上と②社長への資金流出といった問題があったようです。
① 利益の過大計上について
同社では、「売上が少ないから売上の架空計上する」、「利益を捻出するために経費を先送りする」といった典型的な粉飾手法がとられていました。もう少し具体的に示すと、以下の通りです。
・広告告宣伝費等15百万円を当期に計上すべきところ翌期に計上した。
・メーカーからの協賛金を偽装して67百万円の売上を架空計上した。
・焼き肉屋の店舗売上24百万円を架空計上した。
・不採算店舗を売却すると偽って固定資産売却益159百万円計上した。
・経費として計上すべき34百万円をソフトウェアに計上した。
・水増し計上した経費12百万円を裏金とした。
 こうした数多くの不正経理の内容を見ていくと、「赤字になりそうだから売上を架空計上し、利益が想定外に多いから経費を架空計上する」というように、経営者は思いのままに決算数値を操作していたように見受けられます。
「果たして監査法人は見つけられなかったのか?」と疑問を抱かざるを得ませんが、報告書を読む限り、これらの不正経理は種々の証憑書類の偽装が伴っていたようです。監査法人としても金額的に重要な取引は検証対象にしているはずですし、会社が行っている会計処理と請求書や納品書、社内の報告書や売買契約書といった取引の裏付けとなる資料とを照合してチェックしているはずです。
しかし、これらの取引の裏付けとなる資料が、経営者の指示の下で入念に偽装されている場合には、監査人はこの不正経理を見逃す可能性もあるのです。
② 社長への資金流出 
上記①はいわゆる粉飾ですが、②は資産の流用の問題です。②の資産の流用の結果、架空の資産が計上され、結果として①の粉飾と同様に、決算書に重要な虚偽表示がもたらされることがありますが、一般に不正は①粉飾と②資産の流用の隠蔽と二つのタイプに分類されます。
同報告書では、社長による資金流出を以下のように示しています。
敷金、建設協力金名目で197百万円の資金流出があり、そのうち33百万円が返金されています。結果として、差額の164百万円が社外に流出したことになります。
また帳簿外での資金流出が766百万円にのぼり、そのうち692百万円が返金されています。結果として、差額の74百万円が社外に流出したことになります。ここで強調したいのは、上記の資金流出と返金が、おびただしい数の取引によって行われている点です。
「自分の会社からお金を借りて何が悪い。」
「すぐに返すからいいだろ。」
非公開会社であれば、やむを得ない意識なのかも知れませんが、上場して多数の株主、債権者等がいる会社では、こうした意識は許されません。
なるほど、返さないよりも返した方がいいに決まっていますが、無断で会社の金を個人的に使うこと自体が問題視されなければなりません。
上記の他、この資金流出について注目すべき点は以下の通りです。
・預り証等の証憑を偽造して監査法人に証拠として提出した。
・不正に支出した資金は簿外の借入金の返済に充当した。
・建設会社からの返金を装っているが、実際は社長が振込手続を行った。
・実在しない人物との架空の不動産売買契約し、仮装の土地購入代金を不正支出した。
・資金流出の表面化を防ぐため高金利業者から借入を行い、決算期末(10月末時点)の預金の帳尻を合わせていた。
 この社長は非常にどん欲な方だったのでしょうか。
 目的を果たすためには手段を選ばない姿勢が伺えます。
 確かにビジネスで成功する人はどん欲な方が多いようですが、証憑書類を入念に偽装する等、大きく方向感を失ったこのどん欲さには、驚きを感じます。Taku 

2010年8月メルシャン(循環取引)

メルシャンといえば、まず「ワイン」を思い浮かべる人が多いでしょうが、メルシャンでの不正取引は、同社の行っている事業とは想像しにくい「水産飼料事業部」で起きました。同事業部は、ブリ、タイ、カンパチなどの養殖魚用に飼料を製造販売していました。

 この不正が発覚したきっかけは、飼料販売による売掛金976百万円が期限を過ぎても支払われなかったことです。原因を究明したところ、これが架空販売であることが発覚したのです。

 同社の調査報告書には図を含めた詳細な説明がありますが、多額の仮装取引に至る経緯を要約すると以下の通りです。

① 養殖業者に対する売掛金が回収されない状況が続いている。

② その養殖業者に対して資金を提供する。

③ 養殖業者は提供された資金をメルシャンに支払う。

やや単純化しすぎた感もありますが、問題は②です。

①の回収されない売掛金を諦めてしまえば良かったのでしょうが、②の資金提供により傷口が大きくなったのでしょう。また、②を単なる資金提供とすることは社内の承認を得ることができませんから、売上取引を偽装することによって資金提供をしていたのです。

というのも、②の養殖業者への資金提供は、養殖業者におけるメルシャンに対する架空売上と、メルシャンから養殖業者への売上代金の支払いによって行われていたのです(さらに実際には、この架空売上は、複数の会社を通じて行っていました)。

こうした仮装取引を行う目的は、当初から存在する①の売掛金を回収することにあります。しかし、少し考えれば分かりますが、上記②の仮装取引及び資金の移動によって、当初から存在する①の売掛金は回収できますが、また「別のより大きな問題」が生じてしまうことになります。

「別のより大きな問題」とは③の養殖業者に対する資金提供(仮装した売上代金)です。

これは①の売掛金を回収するためのものですから、①の売掛金の代金よりも②の養殖業者への資金提供額の方が大きい額にする必要があります。要するに問題の先送りです。

さて、メルシャン側から見ると、実際には仕入れていないモノを仕入れたことにしてお金を支払っています。その結果、架空の在庫が計上されることになります。架空の在庫は棚卸によって発覚してしまいますから、これを出庫処理(架空売上計上)すると、今度は架空の売掛金が計上されます。

もともと存在しないモノを仕入れたことにして、さらに在庫として保有したことにして、果ては売上げたことにしているわけですから、冒頭で掲げた976億円の売掛金は回収されるわけはありません。

当初の①の売掛金を損失として認識していれば、大きな痛手にはならなかったかも知れません。①の売掛金よりも多くの資金を養殖業者に回すことで、問題が先送りされ、メルシャン側の損失が多額に膨らんでいった訳です。

冷静に考えれば、こうした取引の仮装や資金の裏提供をすることが不合理なことは容易に理解できるのですが、追いつめられていると何をしでかすか分からないのが人間なのでしょうか。
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連絡先:中里会計事務所 電話03-6228-6555
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