2018年2月 JA秋田おばこ赤字56億円

 ようやく産経新聞が取り上げました(2018年2月1日の産経新聞の朝刊です)。
 いままで地元の秋田魁新報が取り上げていたのは注目していましたが、今回はJA秋田おばこで明らかになった標記の問題を取り上げます。事実関係を簡単に整理します。

① JAが組合員からコメを買い取ります。
② JAは買い取った代金を組合員に対して支払います。仮払いです。
③ JAは買い取ったコメを卸業者へ販売します。
④ コメ卸業者から支払われる販売代金をJAが回収します。
⑤ ②と④の差額を精算します(④<②であれば、生じた余剰金を組合員に対して追加で支払いますが、②>④であれば、生じた損失を埋め合わせるのに組合員から徴収が必要となります。)

 JA秋田おばこで問題になっているのは、②>④となっている状況です。つまり④の販売代金が②の購入代金を下回っているため、組合員に対してコメ代金を過大に支払った状況が継続し、長年にわたって赤字が続いているのです。
 「高く仕入れて、安く売れば、損失になる」という、とても単純な話です。
 なぜそんなことをするのでしょうか?
 「販売量日本一のプライドがある」という理由もあるようです。要は「コメを集めるため②の仮払金を多額に設定している」というのです。残念ながら、実際はそれほどの販売力などないにもかかわらず・・・です。
 また、見方によっては利益相反の可能性も考えられます。自分の家族が米を作っていれば自らの利益のため、または蜜月の関係にある農家の利益のため、「JAが損をしても構わない」と考えて、多額に仕入れたのであれば、これは立派な違法行為です。

 いずれにしても注目すべきは、「高く仕入れて安く売ることでJAに損失が累積していった」という事実です。私には、JA役員らが問題を直視できず、ただなし崩し的に問題を放置してきた、としか見えません。
 にもかかわらず、産経新聞の記事では、本件の累積赤字について、代表理事長の以下のコメントが掲載されています。

 「事務経理が手薄になっていた。深く反省している。」

 私には、問題をすり替えているようにみえるのですが、どうでしょうか?
 ゲスの勘ぐりかもしれませんが、累積損失は把握しつつも、「きっといつか何とかなる」「いや、なんとかしなきゃいけない」と悩み続けた問題じゃぁないんですか?
 果たして、JA秋田おばこの理事会では、理事33名の報酬を4カ月にわたって50%減額することを決めたそうです(その減額した総額だけでも公表してほしいものですが・・・)。
 その金額がJAの損失を補填するほどに十分な額なのか、または「焼け石に水」程度の金額なのか、想像に任せる他ありません。
 農協法の理事の責任は、会社法の取締役の規定を準用しており、株式会社の役員が株主代表訴訟によって巨額の賠償責任を負う事例と同様に、JAの役員も厳格な責任を負っています。
 JA役員には、JAおばこが被った損害を補填する責任があるのです。
 このことは、きっとJA役員本人の皆様は自覚していると思います。
 直接的な利害関係のある組合員の出方次第ですが・・・、JA役員の大きな責任問題となる可能性が高いでしょう。

 次回は、少し古い話になりますが、やはり同様な問題が秋田県で発生したことを扱おうと思います。
 とっても根深い問題なのかもしれません。Takun

2017年9月 経理部門責任者による不正~税務調査により発覚230百万円

 最近、子会社おける不正が続発していますが、今回は開示会社そのものの経理部門責任者による不正です。山梨県甲斐市を本社とする株式会社光彩工芸(ジャスダック上場)は、ジュエリーの製造販売を行っています。
 同社は2017年8月に「当社経理部門責任者の不正行為に関するお知らせ」を公表しました。
 上記開示資料及び報道によると、同社経理部門責任者は、会社の預金口座から金員を不正に引き出して(1回につき数十万円から数百万円を数十回)当社に多大な損害を与えたとのことです。
 この点、一般的には、不正に引き出された資金は、三競オート(競馬・競輪・競艇・オートレース)やパチンコ等のギャンブルの他、異性のための遊興費として費消され、不正発覚時点では本人に資力がないケースが多いようです。
 しかし、この不正は異なります。
 というのも、不正に引き出された資金は、主に不動産投資及びその他物品等の購入費等に充てられており、これらの資産を抑えれば会社の被害を最小限にできるようなのです。
 また、不正実行者は経理部門責任者ですから、資金移動に関する権限を有しています。これを悪用し、支出した資金に相当する金額の材料費や棚卸高を過大に計上することで不正の発覚を免れていたのです。
 この点、資料からは明らかではありませんが、こうした材料費や棚卸高に係る関係資料のねつ造等、巧妙な隠蔽工作も伴っていたことが想定されます。そうでなければ、本不正により生じた異常値について、材料の調達部門や棚卸管理部門等の他部門の監視、又は内部監査等による原因究明によって、本不正が発覚する可能性が高いのです。つまり、社内の他部門の監視をすり抜ける隠蔽工作(これは財務諸表の監査人に対する隠蔽工作にも通じます)によって、不正発覚を逃れていたと考えられるのです。
 ここで強調したいのは、「経理責任者による不正は内部統制の限界を超える」と簡単に結論付けられないことです。
 経営陣を含め、他部門の責任者らが、会計数値の異常の有無を注意深く検証していれば、もっと早期に不正を発見できたのか、又はそうした監視下で「すぐ見つかる」という状況にあれば、そもそも不正を防止できた可能性もあるのです。
 さて、この不正行為の発覚の経緯ですが、実は東京国税局の調査を契機としています。
 これが、大変残念です。
 というのも東京国税局の調査は、この経理部門責任者の不正を質すことを目的としていたわけではありません。単純に「脱税の有無の調査」つまり、「水増しの経費計上はないか?」という趣旨で調査に来ているのです。
 つまり「この不正は、たまたま税務調査で見つかった」ということであり、会社の自浄作用によって発覚したわけではない、という意味で、大変残念なのです。
 同社の決算書を見てみました。
 平成29年1月期の売上高1,979百万円、当期純利益2百万円です。これらの財務指標と比較すると、当該不正行為の被害額230百万円は巨額です。
 「いやいや、不正実行者の保有する不動産を抑えれば大丈夫。実質、損害は生じませんから。」
 そんな声が聞こえてきそうですが、とんでもないことです。
 同社の業績は、平成27年1月期と平成28年1月期と連続して赤字で、売上高も下降気味です。業績動向を見る限り、ようやくリストラが一段落したのでしょう。平成29年1月期は、売上高の急落にも関わらず、何とかギリギリで2百万円の利益を出しています。このタイミングで、今回の経理部門責任者の不正が発覚したのです。仮に早期に不正が発覚していればリストラの方法も変わっていたかもしれません。
 しかも、自浄作用でなく、外部の調査によって「たまたま」発覚したのです。憎むのは不正実行者ですが、不正実行者が不動産投資をしていたことには感謝すべきでしょう(この不動産の上げ相場ですからね)。
 全てが結果オーライなのです。
 
 ちなみに、今年の4月に発覚した三菱食品株式会社の連結子会社でも同様の不正がありました。こちらは平成2004年6月~平成2015年3月にわたる長期間、請求書の偽造により個人の私的流用が行われていましたが、やはり国税局の税務調査により980百万円の着服が明らかになりました(資金の使途は開示されていません)。
 同社では、再発防止策として、役員を含めて単独での支払決裁ができない体制を構築することとしています。
 果たして、光彩工芸ではどのような再発防止策を提言するでしょうか?注目です。Taku

2017年7月 ながの東急百貨店での従業員不正 在庫の横流し?

 2017年6月、ジャスダック上場の株式会社ながの東急百貨店は、「第三者委員会の調査報告及び当社の対応について」を公表しました。ながの東急百貨店は、長野県東北信地方を主な地盤とする地方百貨店です。
 問題となったのは、元従業員による貴金属類の商品の不正持ち出し及び転売行為です。
 同社の公表資料によると、本不正の手法は以下の通りです。
 不正実行者は、同社が例年行っているワールドジュエリー&ウォッチフェア(以下、「本フェア」)という特別の拡販策の中で「適正に顧客へ販売したように装って伝票処理を行い、商品を店外に持ち出し他に転売するなどの不正な取引行為」を行っていました。
 要するに、仕入れた時計を顧客に売ったことにして持ち出し、これを他に転売して資金化し、横領するという単純な手法です(いわゆる「ラッピング」といわれる不正の常套手段です)。
 当然、会社経理側では売掛金の入金遅延を認識しますが、不正実行者は自転車操業的に商品転売による資金化を続け、遅延した債権の入金に充当し続けるわけです。当初20万円程度から始まった不正は、次第に多数・多額となっていき、最終的に上記報告書では、取り消されるべき売上取引は65百万円としています。
「なんでこんなことをするのか?いつかはバレるだろうに?」
 それは一般的な発想です。
 不正実行者は「今を何とかしなきゃ」と一生懸命に考えており、「いまバレないように、不正を続けるしかない」と考えてしまうのです。
 しかも不正実行者は、自らの取引集中による嫌疑を避けるべく、他の従業員の名義を使うことで取引を分散していました。これが多額・多数の取引の認識が遅延した原因となったようです。
 内部統制上の問題として注目すべきは、「本フェア」では、通常とは異なり、以下のように例外的な扱いがなされていたことです。

・ 店舗販売が原則だが、商品を持出して営業できる。
・ 現金又はクレジットカードでの販売が原則だが、掛売上(信用販売)ができる。
・ 例外的な掛売上の場合、上司の承認により与信枠を決めるが、与信枠がない。

 このように、拡販のために商品管理及び与信管理・支払期限を緩和していたことが本不正の発生原因と考えられます。
「買上明細で買主名義が変更されている」、「入金名義が変わっている」という不正の兆候に目を光らせていれば早期に発覚したかもしれません。また「商品の受取欄に買主の署名が必要」というルールが形骸化していたことも問題といえるでしょう。
 実は、本不正事例は、「在庫の横流し」と書きたいところなのです。
 しかし、本不正事例は厳密には「在庫の横流し」ではありません。
 というのも、百貨店では原則、「消化仕入(売上仕入)」という慣行があります。これは「顧客に売れるまで仕入れない」ことを意味しますから、販売前の商品は百貨店にとっての在庫ではなく、仕入先の在庫なのです(在庫リスクは仕入業者にあります。)
 つまり、本不正事例では、百貨店の在庫が横流しされたわけではなく、仕入業者の所有する在庫を勝手に資金化したことになるのです。
 小さくて価値のあるモノは不正の対象になり易いですから、管理を徹底化する必要がありますね。Taku

2016年12月 広告宣伝費の繰り延べ15百万円>経常利益3百万円

 東証マザーズ、福証Q-Boardに上場するトラストホールディングス株式会社は、福岡・博多を本社とし、駐車場を中心とした不動産事業等を手掛けるグループ企業です。同社は、2016年11月、「当社連結子会社による不正な会計操作について」を公表し、連結子会社である「トラストネットワーク株式会社」において、不正な会計操作が行われていた可能性について示しています。
 不正の手法は「費用の繰延」です。
 具体的には、同報告書では、「平成28年(2016年)6月に計上すべき広告宣伝費の請求を平成28年7月以降へ繰り延べるように取引先に依頼した」、「平成28年6月より繰り延べされた金額は約15百万円と推定」としています。
 仮に上記が事実であれば、下記の点で大きな問題と考えられます。

・ 取引先に依頼して事実に反する請求を行わせたこと
 広告業者は、顧客である広告主の要望を可能な限り応えようとするでしょう。そのため、広告主は強い立場にあるわけです。
 今回の不正な操作は、広告主としての強い立場を利用して、広告業者に対して「翌期の請求にしてくれ。」と事実に反する指示をしていた可能性が高いのです。要するに「隠蔽工作」です。その分、悪質性が高いと考えられます。

・ 連結の経常損益が「黒字」か「赤字」かの瀬戸際
 同社の第3期(2016年6月期)の連結業績は、売上高14,028百万円、経常利益3百万円、当期純損失103百万円でした。
 また、今回の操作により繰り延べられた費用は推定で15百万円です。
 売上高や当期純損失と比較すれば「大きな影響はない」と考える方もいるかもしれませんが、経常利益と比較するとどうでしょう。
 表題でも示しましたが、「広告宣伝費の繰り延べ15百万円(推定金額)>経常利益3百万円」ですから、この推定が正しければ、「2016年6月期の連結業績は、実は赤字でした」ということになります。

 また、今回の不正な会計操作について同報告書では、「平成28年10月に実施した・・・月例会議において、・・・7月以降通常月より大幅に悪化していることが判明」としています。
 なるほど、同社の内部管理体制により、不正が適時に発覚したと評価することもできるでしょう。
 しかし、7月以降の業績悪化を10月に把握するというのは、やや遅きに失した感は否めません。本来、「当期に計上すべき費用を翌期に計上していないかどうか」という問題点は、財務数値に関連する人間にとって、常々意識すべき点でしょう。また、月次決算の数値は、遅くとも翌月の上旬には把握し、適時な経営判断に役立てることが重要とされます。
 もう少し早く気付いても良かったと考えられます。

 さらに気になるのが、同報告書の下記の「なお書き」です。
「なお、過年度の発生の事象であり、第1四半期決算発表の前のため、当期の業績には影響はありません。」
 確かに当期の業績には影響はないのかもしれませんが、昨年の業績についての記述はありません。
 その意図はないのかもしませんが、かえって「大した問題ではない」という誤った印象を読み手に与えませんでしょうか?

 繰り返しになりますが、今回の事件では、取引先への指示を伴う「隠蔽工作」と直近の決算数値の経常損益が「黒字か赤字かの背戸際」にある中での操作といった懸念があります。
 一連の情報の受け手である皆さんは、どのようにお考えなのでしょうか?Taku

2016年10月 メーカーでの不適切会計の多発

 忙しさに紛れ、更新が遅れておりました。以下、最近の不適切会計の例を三つ紹介します。

日鍛バルブ株式会社での在庫の水増し
 発動機弁、自動車部品、紡績部品等の製造販売を行う日鍛バルブ株式会社(東証二部)において、下記のとおり在庫の水増しが明らかになりました。
 堀山下工場;加工中の仕掛品を完成品として計上していた。
 本社工場;仕掛品及び完成品の在庫に不適切な計上があった。
 山陽工場;材料等に架空の在庫が含まれていた。
 詳細は現在調査中とのことですが、堀山下工場での不適切会計の判明を受けて、他の工場の調査によって、さらに不適切な会計が明らかなったとのことです。
最終報告では金額が変更する可能性もありますが、上記により棚卸資産が約200百万円過大に計上されていた(その分、利益が過大計上されていた)とのことです。
同社の2016年3月期の売上高42,494百万円、経常利益は3,140百万円(連結)です。過年度の修正タイミングにもよりますが、経常利益に与える影響の比率を乱暴に算出すると、200/3,140=6.3%。一般に税引前当期純利益の5%を重要性の基準値とすることがありますが、果たして「重要性あり」か「重要性なし」か、判断に悩むところでしょうか。

長野計器株式会社の連結子会社での未出荷売上
 圧力計測の専業メーカーである長野計器株式会社(東証一部)の連結子会社である株式会社フクダにおいて、不適切会計が発覚しました。一般に売上高の計上基準は「出荷基準」ですが、この会社では出荷されないまま、売上を前倒しで計上していました。この不適切会計による影響を一括処理する場合、売上高は199百万円、経常利益は77百万円過大であったことになります。
長野計器の連結の売上高は44,949百万円、経常利益は2,077百万円(いずれも2016年3月期)でした。過去、複数年にわたる不適切会計であり、純資産の額18,262百万円と照らしても重要性はないと判断されるかもしれません。

日本カーバイド工業株式会社の連結子会社での売上前倒し計上
 化成品、機能樹脂等の機能製品、電子・高額製品等のメーカーである日本カーバイド工業株式会社(東証一部)の連結子会社であるダイヤモンドエンジニアリング株式会社において、不適切会計が発覚しました。その内容は、完成工事原価を未成工事原価に振り替えることでの費用の繰り延べ、工事進行基準を適用している大型工事案件に係る売上の前倒し計上です。これらの損益に与える影響は累計で700百万円にも及ぶとされます。
同社の2016年3月期の売上高は50,494百万円、経常利益2,423百万円(いずれも連結)、純資産22,034百万円です。この重要性の判断も悩ましいところでしょうか。

 上記はいずれも歴史あるメーカーでの不祥事であって、会社の規模も似ています。
 そのうち2社は子会社での不祥事ですが、子会社における不祥事は多くの不正事例に共通します(「子会社の管理体制をどのようにするか」は、非常に重要な経営課題とされる所以です)。
 もちろん、「不祥事があった会社はけしからん」と考えるのが通常でしょう。
 しかし「よくぞこの程度の金額で早期に不祥事を発見できたものだ」と見方を変えることが適切な場合もあるでしょう。
 不正事例を見る場合、「不正が発覚されなかった期間」、「損益に与える影響」、「不正が発覚したきっかけ」、「不正が発覚されなかった原因」などに着目すると、その不正の悪質さのみでなく、その会社の内部統制の不備の程度を知る勘所になると思います。
 参考まで。Taku

2016年1月 東芝の粉飾事件を考える ~工事進行基準と監査人の懐疑心~

 東芝の粉飾事件に関連して、監査法人に対する行政処分が公表され、大きな波紋を呼んでいます。また、本事件は既に多くの公表資料で取り上げられていますが、不正事例研究会では本事件を今年最初のテーマとしました。以下、第三者委員会の報告書に基づいて、個人的に興味があるところを部分的に取り上げます。
 東芝の粉飾事例では、工事進行基準の適用や、費用の繰延、在庫の過大計上等、種々の手法が採用されておりますが、 本稿では「工事進行基準」に着目しながら、監査法人の懐疑心についても言及します。

1.工事進行基準の一般的なルール
 工事進行基準は、工事収益総額を工事の進捗状況に応じて、段階的に収益計上する収益認識方法です。工事の進捗状況は、一般に工事原価発生額と見積工事原価総額の比率により算出します。
 例えば、①見積工事原価総額を80億円、②当期の工事原価発生額を20億円とすれば、当期の工事進捗度は②20億円/①80億円=25%となります。これに③工事収益総額(例えば100億円)を乗じた額(25億円)が、当期の収益計上額となります。
 仮に、③工事収益総額が①見積工事原価総額に満たない場合(上記の例では③<①となる場合;本事例では少なからず存在する)には、当該工事によって将来損失が見込まれることになりますから、工事損失引当金(受注損失引当金)を計上する必要があります。

2.東芝の粉飾手法
 上記1.で示したとおり、工事進行基準では「見積工事原価総額」が重要な計算要素となりますが、東芝のケースでは、当初から見積工事原価を過小に見積る場合や、例えば、資材価格の高騰や人件費の増加、円安の進行といった見積工事原価総額を適時に見直さなければならない状況にあったにもかかわらず、これを意図的に見直さないことで、利益操作を行っていました。
 主要な利益操作の方法としては下記があります。
(1)売上の過大計上
 見積工事原価総額を過小に見積ることで、実際発生原価の工事原価総額に占める割合が高くなる結果、工事進捗度が嵩上げされ、収益計上額が前倒しとなります。
(2)工事損失引当金(受注損失引当金)の過小計上
 見積工事原価総額は、当初から信頼性をもって見積もることが必要ですが、その後の実際発生原価に照らして適時に見直すことも必要であり、その結果、見積工事原価総額>工事収益総額となった場合には、工事損失計上する必要があります。東芝の事例では、意図的に見積工事原価を低く見積もったり、これを適時に見直さないことで損失計上を先送りしていました。

3.監査法人の監査上の対応
 第三者委員会の報告書では、問題となった処理の多くは会社内部における会計処理の意図的な操作であって、監査法人が気付きにくい方法が用いられ、かつ監査法人からの質問や資料要請に対して、東芝の社員は事実を隠蔽したり、事実と異なるストーリーを組み立てた資料を提示して説明していたようです。特に、工事進行基準による会計処理は、個々の工事内容に精通した担当者による社内データに基づく見積りが会計処理の基礎となっており、外部の監査人がその見積りの合理性を独自に評価することは極めて困難である、と指摘しています。
 なるほど、会社組織による事実隠蔽や事実と異なるストーリーの組み立てに対して、外部者である監査人がそれを覆す強力な証拠を入手することは極めて困難でしょう。
 しかし、第三者委員会の報告書を読んでいくと、監査の過程において、見積工事原価総額の見直しについて東芝と監査法人との意見が対立する場面があったことも見受けられます。それは特定の工事案件について、設計変更及び工事遅延等によって見積工事原価総額の増加が見込まれるものの、東芝は具体的な根拠がない見積額を採用している、と監査法人が指摘している事実があるのです。そのため、監査法人は損益影響額107百万ドル(便宜的に1ドル100円とすると、円換算額107億円)の虚偽表示が存在することを把握していたのです。
 財務諸表監査では、こうした虚偽表示は「未修正の虚偽表示」として、その重要性が判定されます。(重要性の判定に際しては、例えば「税引前利益の5%を乗じた額」に照らすことがあります。)その結果、仮に重要でないと判断されれば、特に修正されなくても、監査意見としては「無限定適正意見」が表明されることになるのです。
 しかし、こうした虚偽表示が見つかった場合には、他に同様の虚偽表示がないかどうかについて慎重な検討が必要であることは言うまでもありません。個人的には監査の詳細なプロセスを知る由もないので、何ら無責任のことは言えませんが、仮に東芝の作成した数値を検討していく過程で「何か変だな」「どうも腑に落ちない」というような「納得感の得られない状況」を目の当たりにしながら、会社側の説明を無批判に受け入れていたのであれば、やはり「職業的懐疑心の欠如」と指摘されても致し方ないのかもしれません。
 今後、監査法人の変更が検討されているようですが、これだけの規模の会社を監査できる組織は、現在の監査法人以外、二つしかないでしょう。今後は、同様の粉飾事件が明らかにならないよう祈るばかりです。Taku

2015年11月 イワキ株式会社の子会社役員による横領126百万円

 医療品や健康食品等の卸売業を手掛けるイワキ株式会社(東証一部)の連結子会社であるホクヤク株式会社は、動物用の医薬品販売を行う札幌の会社です。同社の経理担当取締役兼業務部長が10年以上にわたって会社資金を横領していたことが明らかになりました。
 同社グループでは内部管理体制強化のためグループ各社の資金管理の一元化を進めていたようですが、その過程で上記不正が発覚したとのことです。こうした内部管理体制強化の過程の中で不正が発覚したことは大変望ましいことですが、会社の報告資料「当社子会社元役員による不正行為に関するお知らせ」を読んで個人的に注目した点は以下の三つです。

1.不正隠蔽の手法
 不正実行者は当該不正隠蔽のため、銀行残高証明書を偽造して不正な報告を行っていたようです。確かに銀行残高証明書が偽造された場合には、不正実行者が操作した金額が当該証明書に記載されることになりますから、内部調査ではその不正発覚が困難になることでしょう。一方で、監査法人による監査では「残高確認書」が銀行から直接監査法人に送付されることになりますから、こうした偽造工作は無効となるはずです。
 イワキグループ全体からすれば、ホクヤクは金額的な重要性が乏しく、監査法人の監査対象とはならなかったのかもしれませんが、長年に渡って外部監査人による銀行残高確認が行われていなかったかと思うと残念でなりません。

2.不正金額の逓減
 個人的な資金の横領の場合、不正の手法が次第に大胆になっていく傾向があり、不正金額はその不正発覚に至るまで一般に多額になっていきますが、本不正事例では平成23年に14百万円、平成24年に11百万円、平成25年に10百万円、平成26年に9百万円、平成27年に8百万円というように次第に横領金額が減少しています。不思議です。不正実行者の良心の呵責か?それとも他に理由があるのでしょうか?

3.取引先に迷惑をかけないか?
 最も注目したのは、同報告書の中に以下の文言です。
「なお、当該不正行為は・・・販売する医薬品、医療機器その他の製品の品質等にも影響はなく、お取引先の皆様には何らご迷惑をおかけするものではございません。」
 この文言は無くても良かったように思うのですが、どうなのでしょうか?
 なぜなら同社グループの取引先は本不正が発覚したことについて、間違いなく心配しているはずです。また同社の内部管理体制の脆弱さから株価の下がる可能性も否定できません。そうした関係者の心配をよそに「何らご迷惑をおかけするものではない」と断言するのは危険です。
 ましてや、この報告書の文頭には「当社の株主の皆様をはじめとする投資家、市場関係者及びお取引先の皆様に、多大なご迷惑とご心配をおかけしますことを心より深くお詫び申し上げます。」としているのですから。
 報告書を読んで、「いずれが本心なのか?」を考えてしまいます。

 最後に、こうした不正が長年に渡って発覚しなかったのは、不正実行者が継続して経理担当業務を行っていることに加えて、他者によるチェックが不十分であったことに起因することは他の不正事例を見ていても容易に推測できるところです。他山の石とすべきでしょう。Taku

2015年10月 マツモトキヨシ子会社不正

 マツモトキヨシホールディングスの連結子会社である株式会社イタヤマ・メディコにて、在庫の水増し(約4億円)による不正が発覚しました。
 同社は、平成27年10月1日に、マツモトキヨシの連結子会社であるマツモトキヨシ甲信越販売に吸収合併されています。合併した途端にその子会社で不正が発覚したことになります。
「なんとも不幸なことだ」と思うのか、又は「合併に当たって十分に調査したのか?」と思うのかは、情報の受け手次第でしょうか。
 会社の公表資料では、「現在、不正な会計操作の内容の詳細、影響金額を含め、真相解明のため鋭意調査中」とのことですが、現時点で判明している事実が公表されているので、以下で紹介します。

 「イタヤマ・メディコとマツモトキヨシ甲信越販売との統合処理の過程において、イタヤマ・メディコ社長の指示により、同社において、過去の営業損失発生の事実を隠蔽する目的で、複数年にわたり、在庫水増し処理により架空棚卸資産を計上するという不正な会計操作が行われていた可能性があることが発覚いたしました。」

 上記のうちキーワードは「統合処理の過程」「社長の指示」「損失発生の事実を隠蔽~在庫水増し処理」でしょう。以下、それぞれ簡単に解説します。

「統合処理の過程」
 合併した場合、会計単位が統合されます。今までは別々の会社であったのが、一つの会社になったわけですから、会計処理方法等について統一化を図る必要があるのです。そのため取引や勘定、開示等について、詳細な調査を行うことになります。昨今では会計ソフトを利用して処理することが通常でしょうから、これらのデータの移行も「統合化」の作業に含まれることでしょう。しかし、合併が決まってから会計処理の詳細な調査が初めて行われるわけではありません。合併の条件を検討する上でも、決算書の適否を検証しているはずなのです。下記で示すとおり、この疑問こそが今回の不正事例を大きなポイントでしょう。

「社長の指示」
 不正事例研究会でも幾度も扱っている事例ですが、「社長の指示」は統制できません。会社の管理プロセスの総称である「内部統制」は、社長の責任の下で構築されます。とすれば、社長の指示でこれを無効化することは容易に行いうるわけです。損失の計上を「かっこうわるい」と考えた社長の指示で粉飾(お化粧)をしていたことになります。化粧品を販売するだけでなく、その化粧を実行して事実を隠蔽するとは・・・。お化粧は身だしなみとしても、決算書のお化粧は図々しい限りでしょう。

「損失発生の事実を隠蔽~在庫水増し処理」
 売上総利益(粗利)は、売上高から売上原価を差し引いて算出されます。この売上原価は、①期首棚卸資産に②当期仕入高を加えて、③期末棚卸資産を差し引くことで算出されます。ということは、③の期末棚卸資産を水増しすればするほど、売上原価は過小に算出されることになります。この結果、在庫水増し→利益計上(損失隠蔽)となります。こうした粉飾手法は、金額が増加していく傾向があります。「複数年」とあるのは、次第に粉飾金額が増加していったことが想定されるのです。いずれにしても、在庫の水増しは、粉飾決算の伝統的かつ基本的な手法といえるでしょう。

 合併や買収をする際には、その企業価値を適切に評価するためにデューデリジェンスを行うことが通常であり、その中で不適切な会計処理が明らかになることが一般的です。
 特に上場しておらず、会計監査を受けたことのない会社の場合、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に準拠して会計処理を修正すると、数多くの修正が必要となることが実状です。通常、監査を受けていない決算書は、信頼性の乏しいものと考えられているのです。
 それだけに、あくまで一般論として述べれば、非上場企業を吸収合併する場合には、相応に慎重にデューデリジェンスを行うはずなのです。今回の合併直後の子会社の不正発覚は、M&Aを進める企業にとって大きなリスクであることが改めて実感されたと思います。
 果たして事前にこうした粉飾が明らかにならなかったのか?とても大きな疑問ですが、イタヤマ・メディコについて、もう少し調査してみようと思います。いずれにしても今後の調査結果の報告を待ちたいと思います。Taku

2015年9月 大学・企業での研修会にて【不正事例】

 大変有難いことに、9月に入って研修の仕事が立て続けに入りました。
 一つは沖縄の大学にて。
 4日間の集中講義でしたが、学生に向けて不正事例を紹介してきました。
 また今日は、一部上場企業の企業研修がありました。かなり大きな会場で数百人を前に話しましたが、研修後でも気分が高揚して、かなり興奮気味です。いい緊張感を味わうことができました。

 さて、以下は、上記の研修会で紹介した不正事例の一部です。良くありそうな不正事例とそのコントロール策です。

1.ポンタカード・ティーポイントカード不正
【不正事例】
 お客さんのポイントを自分のポイントにしてしまう不正が考えられる。
【コントロール】
 「ポンタカードお持ちですか?」とお客に尋ねることで、自分のポンタカードの使用を牽制する効果がある。「ポンタカードお持ちですか?」と尋ねておきながら、自分のポンタカードを使用しようとすれば、客は不審に思うためである。

2.レジ打ち省略による売上高代金の着服
【不正事例】
 飲食店等でのレジ打ちを省略し、売上を過少とし、その売上代金を横領する不正である。店長やオーナーが脱税のために行う場合もあれば、アルバイトが店の売上代金を着服する場合も考えられる。
【コントロール】
 店長やオーナーによる不正は防止が困難であるが、例えばレジの前に「当店ではレシートをお客様にお渡ししております。」と掲示することで、レジに入力してレシートを渡さないと客が不審に思うことから、一定の牽制となる。

3.割引券の不正使用
【不正事例】
 レストラン等の飲食店にて、販売促進用の「100円割引券」「10%割引券」を、お客が持参していないにもかかわらず、お客が持参したかのようにして、その割引額の詐取する不正が考えられる。
【コントロール】
 会計直前の割引券の使用を禁止し、飲食前に割引券を提示してもらい、店長その他の店員にお客が割引券を提示したことを確認させる。または、高額な割引券の場合には、お客の住所、氏名の記入を求めることで、店員の一存で割引券を使用することを牽制する。

4.廃棄食品の持ち帰り
【不正事例】
 ファストフード店にて、一定時間を経過した食品を廃棄するルールを悪用して、販売見込みのないまま食品を製造して、意図的に廃棄する食品を増加させ、これを詐取する不正が考えられる。
【コントロール】
 曜日、天候、時間帯等によって販売予測を行い、製造量を予め決めておく。また廃棄する場合には、廃棄した食品の種別、量、時間、担当者を継続的に記録させ、これを責任者が査閲し、特定の者に偏って廃棄が生じていないか監視する。

 いずれも地味な不正事例ですが、やはり適切なコントロールにより、不正を防止・発見する仕組みが必要であることは言うまでもありません。皆さんも身近に不正事例があると思います。もし可能であれば、その防止・発見策を検討する上での参考となりますので、ご教授賜れれば幸いです。メールは以下へ 
 takuya@nakazato-cpa.com
 もちろん、会社名等、守秘義務は厳守します。Taku

2015年8月 架空仕入を利用した金銭着服

 長野県のリーダーカンパニーとして「新しいガス事業の創造に取り組んでいる」サンリン株式会社(JASDAQ)において、架空仕入を利用した金銭の着服が発覚しました。
 同社は、連結売上高32,121百万円、純利益596百万円(いずれも平成27年3月期;同社の有価証券報告書より)であり、ハイライト情報を見る限り業績は堅調に推移していると思われます。
 不正行為が判明した経緯として、平成28年3月期第1四半期決算の処理及び監査法人の四半期レビューの過程において、支店における棚卸資産残高の異常な変動について調査を行ったところ、従業員(1名)による「架空仕入を利用した金銭着服」が明らかになった、とのことです(業績に与える影響、複数年累計で約110 百万円と推定)。
 会社が財・サービスの提供を受けていないままに、その対価を会社に支払わせ、その資金を横領する手法は、資産を流用する不正の常套手段です。問題となるのは、そうした単純な不正が長年にわたって、なぜ防止・発見できなかったか、ということです。
 当然に不正実行者は、不正発覚をおそれて隠蔽工作を行っているはずですが、会社はその公表資料で「架空棚卸資産及び架空売上の計上という不正操作」の可能性について言及しています。この表現では具体的にどのような不正隠蔽工作であったかはハッキリしません(詳細な調査が未了なので、具体的に指摘することはできません)。
 ただ、本件に限らず一般的に重要なことは「不正の発生」と「その不正の隠蔽工作」とを混同しないことです。
 本不正は、実際に仕入れていない商品の対価を外部業者に支払ったこと自体に問題であると思われます。その上で、実際に仕入れたように仮装すれば「架空棚卸資産」を計上するでしょうし、さらにそれを販売したように仮装すれば「架空売上」を計上するでしょう。
 こうした架空棚卸資産・架空売上は、あくまで不正の発見を免れるための隠蔽工作に過ぎません。重要なことは、不正の隠蔽工作の具体的な手法よりも、不正の発生原因そのものなのです。
 不正が発生した組織では、時として不正の隠蔽工作の巧妙さを理由に、不正を発見できなかったことの正当性を強調するばかりか、不正行為の発生原因の究明が疎かとなる原因となることも考えられるのです。
 確かに、不正は事後的な意味では「発見」されるべきものであり、さらに発見された不正は「是正」され、再発防止策が講じられるべきです。しかし、もっとも重要なことは、不正を事前に「防止」することなのです。そのためには、隠蔽工作の巧妙さでなく、事前防止のためのコントロールの脆弱性に着目する必要があるのです。
 内部統制は「防止」「発見」「是正」のための仕組みですが、特に「防止」のためのコントロール、本件の例でいえば「外部業者への支払う際のコントロールの脆弱性」に着目する必要がありそうです。

 いずれにしても現在、同社は調査委員会を設置し事実関係の解明のため本格的調査を行っているようですから、その後の調査結果の報告を待ちたいと思います。Taku

2015年7月 不正の多発。七夕に思う。

 最近、不正事例の紹介の頻度が落ちていましたが、その主な要因は拙著「財務諸表監査の実務」の執筆、校正作業に起因します。現在、その作業は一段落したので、今後、時間を見ながら不正事例の紹介に励んでいこうと思っております。現時点でも、東芝、Lixil等、気になっている不正がいくつもあります。
 さて、私は不正事例を紹介する際、TDnetの適時開示情報閲覧サービスを利用しますが、ここ最近の1ヶ月で「不正」というキーワードで検索すると4件もヒットしました。しかも全てが、現預金の不正流用です。普段はゼロ件~1件ですから、ちょっと驚きです。
 以下、簡単にその4件を紹介します。

2015年7月3日 山加電業株式会社(JASDAQ)
 子会社の元代表者により、マンション管理組合の管理する修繕積立金等の預金が不正に引出されていることが判明。2010年4月~2015年6月の間の被害総額は約70百万円。元代表者は所在不明とのこと。2015年6月16日に元代表者は解任され、被害額については、親会社が弁済義務を負うとのことです。
 元代表者による不正である以上、内部統制による防止、発見には限界があったと思われますが、この元代表者は所在不明とのこと。逃亡したのでしょうか?

2015年7月1日 高木証券株式会社(東証2部)
 有印私文書偽造及び同行使の罪で元従業員、曾根崎警察署へ告訴。2014年1月~2015年4月にかけて8名の顧客の口座から約17百万円を不正に入手して自己のFX取引の損失の他、遊興費等に当てていた。2015年6月末に懲戒解雇。業績に与える影響は極めて小さいとのことです。
 必ず発覚してしまうのに、なぜ客の金に手を付けるのでしょうか?その発覚は、お客からの指摘だったそうですが、内部牽制での防止、内部調査等での発覚は不可能だったのでしょうか。

2015年6月15日 ルーデン・ホールディングス株式会社(JASDAQ)
 子会社の従業員による修繕積立金等の詐取。2008年4月~2015年5月にかけての被害総額は約70百万円。契約に基づいて親会社が弁済する予定とのこと。不正実行者は詐取したお金を遊興費等に全額使ったと供述しています。
 「修繕積立金」が「70百万円」詐取され、「最近発覚」した点で、この不正は上記の山加電業と酷似しています。修繕積立金は「ほったらかし」にされやすいので、不正が長期間放置される傾向があるのでしょう。定期的に残高を担当者以外の者がチェックする仕組みが必要なのです。

2015年6月22日 地盤ネットホールディングス株式会社(東証マザーズ)
 元経理部長による売掛金の回収代金の着服。2015年2月~4月までで被害総額は5百万円。
 不正実行者は経理部長の地位を利用して、顧客から預かった小切手を本人名義の銀行口座に入金して着服。主に遊興費に使用していたとのことです。
 「経理部長」は種々の権限は付与されていることが一般的ですから、「不正をやろうと思えばできる」という立場であることが多いようです。しかし、実際には「やろうと思わない」という人が経理部長になっていることが多いと思います。一方で、本不正は比較的短期間で、早期に発見されたように見受けられます。不幸中の幸いでしょうか。

 今夜は七夕です。
 不正事例研究会としては、「不正が無くなりますように」との短冊を書きたいところですが、なかなか現実的にはそうも行かないでしょう。
 より現実的に、「不正が事前に防止されますように」だけでなくて、「不正が発生しても直ちに発見されますように」、「発見された不正は直ちに是正されますように」と祈ることにします。
 今宵は、旧知の友人と事務所の斜向かいの「てんぷらや」で食事です♪ taku

2015年5月 北越紀州製紙の連結子会社における従業員不正

 北越紀州製紙株式会社の100%子会社である北越トレイディングの総務部長による不正です。2000年4月以降、15年にわたって行われた不正による着服金額は2,476百万円でした。期間も相当に長く、金額もかなり高額です。
不正の主な手法は、小切手の不正振出による現金着服、会社名義で締結されていた銀行との当座貸越契約を用いた不正借入による着服などでした。
 不正実行者は不正の隠蔽のため、帳簿上の当座預金残高と銀行残高を一致させるべく残高証明書を偽造したり、当座預金から前払費用への振替や架空の商品在庫を帳簿に計上する処理を行ったり、小切手を振り出している一方で借入金を非計上としました。
 長期にわたり不正が発覚しなかったのは、財務及び経理業務が一貫して不正実行者に集中していたため、内部牽制が有効に機能しなかったこと、及び銀行残高証明書の偽造、商品受払等の補助簿の改竄、不正な仕訳伝票の入力、偽造決算書の銀行提出などの隠蔽工作によるとされています。
 税務調査や親会社の内部監査及び会計監査人の往査、更には銀行の審査といった種々の調査をくぐり抜けたのは「残念」と言うほかありません。
 こうした単純な不正の場合、「残高確認で明らかになるだろう」と思ってしまうのですが、不正実行者としても「なんとかバレないように」様々な策を講じたのでしょう。例えば、使用していた口座を解約したとする虚偽の報告により、不正に使用している口座を金融機関の口座一覧から除外してしまえば、簿外借入の発見は困難が伴うかもしれません。
 また簿外の借入さえ発覚されなければ、そこから得た資金を利用して様々な辻褄合わせが可能となりますから、他の不正の隠蔽も比較的容易にできたのでしょう。
 一方で、管理体制が不十分であったことも否めません。
 不正に使用された銀行届出印は、不正実行者の管理責任者であった当時の副社長の管理下にありましたが、不正実行者は口頭で小切手の振出理由を説明することで押印を受けていたようです。副社長は事業内容について詳細な理解をもっておらず、証憑の提示や事実関係の詳細な説明を受けずに、不正に作成した小切手に銀行届出印の押印をしていたのです。
 さらに残念なのは、副社長の退任後に別の管理責任者である常務が銀行届出印を管理することになったものの、銀行届出印は常務の机の上に置かれ、理由の説明を要せずに、一言断りを入れれば自由に使用できる状況だったとのことです。
 この不正発覚の発端は、不正実行者の休暇の際に銀行からの電話連絡での問い合わせがあったことだったようです。また、取引関係のない銀行からの封書から簿外の借入金の存在が明らかになったとの指摘もあります。
 長年にわたって隠蔽され続けた不正。
 いつかは発覚することを怖れ続けた不正実行者はこの不正発覚に何を思うのでしょうか。
 不正資金の使途はギャンブル、株、愛人、遊興費等に費消したとのことです。
 長期間にわたり配置換えがなされなかったことは不幸なことです。Taku

資金環流による売上仮装事例

平成27年3月に「財務諸表監査の実務」(中央経済社)が出版されます。
 今回は、その中で扱っている過去の不正事例(販売担当者による資金循環)を紹介します。
 不正実行者Aはスゴ腕の「営業マン」と評価され、○○支店全体の8割超の売上を受注していました。
 実際は架空売上だった訳ですが、不正発覚前にその営業成績を「すごい」と考えるのか、「怪しい」と考えるのかが、不正発覚の分かれ道でしょう。もしかしたら、社内では「あり得ない」と考える者が多かったのかもしれませんが、その会社では「厳しく審査することができず、それどころか、その異常な売上を前提にして、翌年度は売上伸張110%の予算値を設定して、その実現を迫るという対応に終始していた」(同不正事例に係る会社発表の資料より引用)としています。
 では、なぜ本不正は発覚されなかったのでしょうか。

 会社の公表した資料では、不正実行者による関係処理の偽装の巧妙さに加えて、「入金の事実」が上げられています。会社は確かに「怪しい」と考えていたものの、入金の事実に着目する限り、収益の実在性を否定できなかったのです。
 上記の不正の「カラクリ」は、請負工事を業とする会社において、取引慣行上、下請け業者への工事発注費用を先行して支払う(元請け業者への手数料を先行して支払う場合もある)ことに起因します。例えば、元請け業者から大型工事案件を受注したことにして、その作業を下請け業者に発注し、その支払いを先行して行った場合を想定すると、以下の仕訳となります。

(借)未成工事支出金 ××百万円 (貸)預金   ××百万円※①

 上記の①の未成工事支出金は、工事完成までの間、仕掛品として資産計上されますが、工事完成によって、元請け業者に対する売掛金・売上計上するとともに、未成工事支出金を売上原価に振り替えることになります。

(借)売掛金     ××百万円 (貸)売上高     ××百万円
(借)売上原価    ××百万円 (貸)未成工事支出金 ××百万円

 上記の売掛金及び売上高が架空だったわけですが、上記の売掛金は下記のとおり入金処理されます。

(借)預金      ××百万円※②(貸)売掛金  ××百万円

 注目すべきは、上記※②の売掛金の入金は、実は※①の未成工事支出金として支出された資金が環流されている点です。帳簿上は下請け業者に支払ったはずの資金が、実際には不正実行者によって自社に環流され、この入金があたかも売掛金が入金されているかのように偽装していたのです。
 要するに、先だって計上した売掛金の入金の仮装するためには、また新しい大型受注案件が必要となり、その受注によって支出される下請け先への支払いが、その売掛金の入金の資金されていたのです。

 当たり前の話ですが、※①の未成工事支出金の支出を止めれば、※②の売掛金の入金も止まります。自転車操業的に資金を循環させて売上及び回収を偽装しているに過ぎない訳です。こうした不正では、次第に架空の取引金額が大きくなっていく特徴があります。本事例が発覚した時点では、未成工事支出金の残高が225百万円、売掛金の残高は841百万円、合計1,066百万円とが同社の貸倒要因となったとされます。

 問題は、「怪しい」と思った際の詳細な調査方法でしょう。
 本事例では、発注書や見積書等の書類だけでなく、工事現場の観察や作業工程別の作業完了写真の貼付、元請け業者や下請け業者等に対する確認(電話一本でも良い)を行うことで取引の実態を把握することができたはずです。また、売掛金が回収されているとしても、それ以上に未成工事支出金等の出金がなされていることを不審に思うこともできたではずです。
 上記の検討も不十分なままに、「支店長の監督不行届」や「本部には相談していた」との責任転嫁や「不正実行者本人が悪い」といった至極当たり前の意見しかなされない場合、同様の不正が発生する可能性は高いでしょう。Taku

2014年4月 インサイトとチッソ

 インサイトといえば、ホンダの車名?チッソといえば、水俣病問題の会社?
 両者に全く共通点はなさそうですが、実はいずれも「2014年4月に公表された架空発注に関する不正事例に関連する会社」という意味で共通します。
 まずはインサイトの不正事例。
 札幌証券取引所アンビシャスに上場する株式会社インサイトは、北海道の総合広告会社で、企画、制作、プロモーションを手がける会社です。同社は2014年4月に「当社元従業員の不正行為に関するお知らせ」を公表しています。
 どうしても「不正の公表」というと会社の不祥事ということで、マイナスイメージが拭えませんが、今回の上記の不正の公表は、個人的には、かなり好感度が高いと考えています(厳密にはマイナスイメージが少なかったといった方が良いかも知れません)。
 というのも、この不正は2014年2月~3月に、不正実行者が複数の仕入先を利用して架空の発注を行い、納品されたパソコン等を売却して得た資金を横領していたというものです。不正の額は11百万円。仕入先からの3月末日予定の支払がない旨の指摘があったことをきっかけとして、不正行為が発覚しています。
 不正の実行期間は2ヶ月で短く、被害総額も11百万で少額です。公表のタイミングも不正実行期間の終了後、1ヶ月です。これだけ短期間に金額も多額にならずに、しかも迅速に公表しているケースは、多くの不正事例を紹介している中では稀です(その意味で違和感さえ覚えます)。
 不正実行者は「すぐにバレる」と知らずに実行したのでしょうか?
 こうしたキッチリとして組織であれば、不正は実行しにくいでしょうし、再発する可能性も低いでしょうし、さらに万が一不正が発生したとしても、早期に発見できることが期待できるといって良いと思います。

 一方で、チッソの事例です。
 グリーンシート銘柄のチッソは、「あの水俣病の会社」です。
 同社は2014年4月「当社孫会社元従業員による不正行為に関するお知らせ」を公表しました。
 チッソは2011年3月10日の取締役会決議により、中核子会社であるJNCに主要な事業を譲渡することを決定し、持株会社として子会社の管理と、水俣病患者への補償を行うことに特化しています(2011年3月10日といえば、「あの」2011年3月11日の前日です。あまり関係はないのでしょうけど。)。
 今回の不正は、その事業譲渡されたJNCとその子会社(チッソからすれば孫会社)であるJNCファイバースで行われました。その孫会社の元従業員が不正実行者として、架空の納品書を偽造して、あたかも荷造り梱包材等が納品されたように見せかけ、上記の子会社及び孫会社に対して製品代金を振り込ませ、これを詐取していたとされます(不正実行の期間、金額等の詳細は現時点では公表されていません)。

 上記いずれも架空発注・支払代金の詐取という不正事例です。
 こうした不正には、一般的に発注時の承認や納品時の検収作業の分掌化、現品管理の強化(入出庫記録や定期的な棚卸等)、請求書や支払依頼書といった支払に関する書類の承認といった個別的なコントロールも有用です。
 また、補完的な統制ではありますが、無駄な支出がないかどうか十分に吟味した上で予算を編成し、これと実績との対比を通じて、異常な増減を検討することも有用です。当初想定した費用と比較して、異常に増加している支出があれば、「パソコンの購入費用が多い」「荷造り梱包材の費消が多い」等の変動を認識しやすくなるでしょう。その原因究明の結果、不正が明らかになることもあるのです。
 いずれにしても、業務実行者を野放しにせず、相当のコントロールの元で業務が遂行されていることを実感させ、「何か悪さしてもどうせ見つかってしまうよ」と思わせることが肝要なのでしょう。
 インサイトとチッソ。業種や業態、規模その他、全く異なる会社ですが、起きうる不正は共通するのです。Taku

2014年4月 KNT-CT連結子会社での経理担当者の不正

 「KNT」は何の略か?おわかりでしょうか?
 関係者でなければ判別できない人が多いのではないでしょうか?
 正解は「近畿日本ツーリスト」です。言わずと知れた旅行業界の大手です。
 2013年1月に「近畿日本ツーリスト(KNT)」と「クラブツーリズム(CT)」とが経営統合し、持株会社化された会社名が「KNT-CT」です。
 2014年4月、同社は「当社連結子会社元社員による不正行為について」を公表しました。
 上記報告書では、KNT-CTの連結子会社「近畿日本ツーリスト沖縄」で、経理担当者が2005年10月~2014年1月の間、足かけ10年にわたって不正を行っていたことを明らかにしています。不正実行者からの返戻金を控除した被害総額は251百万円。単独犯の従業員不正としては、比較的多額の不正と言っても良いでしょう。
不正の手法は以下の通りです。
・ファームバンキングを利用しての不正実行者の個人口座への不正送金
・不正な預金の引き出し
・夜間金庫の投入現金の抜き取り
 報告書では、上記の不正について「巧妙に経理書類を改ざんしていた」と指摘しています。
 「巧妙かどうか」は報告書を見る限り判断できませんが、上記の不正は容易に想定しうる典型的な手法なはずですから、そうした不正が発生するリスクを識別し、これに対応するコントロール(リスク低減策)が十分だったかどうかが問題となるでしょう。
 具体的な業務プロセスの内容にもよりますが、例えばファームバンキングの送金内容と請求書や支払依頼書等との照合、預金の引出に係る承認手続の有無や定期的な残高の検証、不自然な入出金の原因調査、領収書や入金票の日付や金額と夜間金庫の現金投入のタイミングや金額の不整合に係るチェック等、上記の不正リスクに対応する典型的なコントロールに不備がなかったかどうか、が問題となると考えます。
 こうしたコントロールが有効に機能しているにもかかわらず不正が発覚しなかったのであれば「巧妙な隠蔽」だったのでしょうし、仮にこうしたコントロールが運用されていなかったのであれば「巧妙」ではなくて、「管理態勢が不十分だった」ということになるでしょう。また、何よりも現金や預金(ファームバンキング等も含む)の取扱担当者は、定期的に配置換えを行うか、強制的に休暇を与え、他の者が作業を行う等のコントロールが必須です。
 特に注目すべきは、この不正の発覚は不正実行者である経理担当者が2014年1月に退職したことに起因する点です。つまり、不正実行者の退職後、他の者がその経理業務の状況を確認した結果、不自然な経理処理の存在が明らかになったのです。こうした発覚の経緯からすれば、長期間にわたって不正実行者の業務内容を誰もチェックしていなかった可能性があります。また、もしかしたら不正実行者が2014年1月に退職していなければ、この不正は未だに発覚しなかったのかもしれません。
 最後に、同報告書の結びの記述です。
「当社では、コンプライアンスを重視し、適正な業務の執行に努めてまいりましたが、このように重大な不祥事が発生いたしましたことは痛恨の極みであり、事態を重く受け止め、全役職員が一丸となって再発防止に努め、信頼回復を図った参る所存であります。」
 個人的には、その具体的な「再発防止策」について興味があります。
 それには今回の不正が長期間にわたり発覚しなかった具体的な原因が踏まえられるはずですから。今後、具体的な再発防止策が開示されることを期待しましょう。Taku

2014年3月 元フジテレビ社員による資金の不正流用

 株式会社ストーリアは、フジ・メディア・ホールディングスの100%子会社で、ブライダル事業(婚礼プロデュース事業)を行っています。本不正事例は、その会社の元社長が、会社資金を私的流用した事件です(公表資料はこちら)。
 この元社長はフジテレビの元社員で、多くの著名な番組制作に携わっていたそうです。
 テレビ局の給料は総じて高いですし、著名なプロデューサーであれば、相当額の収入があったとも考えられるのですが、それでは足りなかったのでしょう。真偽は定かではありませんが、証券取引での損失を補填するための資金横領との噂もあります。
 横領期間は約3年。横領金額は約1億円。比較的早期に発覚したケースかもしれませんが、何より「社長の不正」という異質な面は注目されます。
 不正の手法は単純で、会社の銀行口座から不正実行者の個人の銀行口座への不正送金を行っていたようです。通常の内部統制では、期末日等の締日に銀行預金の残高を検証することが一般的ですが、そのコントロールによる不正発覚をおそれて、いずれからか一時的に資金を調達してこれを返還し、また締め日後に払い戻していたとされます。
 通常の監査手続でも、単純に期末日時点の残高のチェックを行うだけでなく、通帳や当座照合表等を通査して、期末日前後に不自然な入出金がないかどうかを検証する必要があります。この会社で3年以上にわたりこの不正が発覚しなかったのは、こうした期末日前後の異常の有無の検証が不十分で、単純に残高の検証のみに留まっていたからかもしれません。
 きっと優秀な人材で、相当な手腕の持ち主であっただろうのに、魔が差して会社の資金に手をつけてしまったのは、なんとも不幸と言う他ありません。
 しかし気になるのが、同社の公表した資料の中の以下のコメントです。

「なお、当社の会社資金の私的流用につき、お客様への損害はございません」

 それはそうでしょう。
 しかし、「お客様への損害がないこと」=「当たり前なこと」を殊更に強調すると、なにか妙な感じがしませんか?
 きっとコメントしている側は意図していないのかもしれませんが、「お客様には関係ないこと」=「外部の人にとやこう言われる筋合いはない?」というように読めませんか?
 うがった読み方なのかもしれませんが、なお書きとはいえ、やや抵抗を感じてしまうのは、私だけでしょうか?Taku

2014年3月 日本フェンシング協会 続報

 領収書のねつ造により助成金を詐取したとされる日本フェンシング協会では、全員の理事20名が辞職しました。不正の概要は前回「2014年2月日本フェンシング協会 滞在費の水増し請求」で扱いましたが、どうしても腑に落ちないことがあり、もう少し調べてみました。
 前回の記事でも指摘しましたが、協会が公表した報告書には、以下の記述があります。
「理事は無償で労務を提供し、又別の理事は1年で1億5千万円を拠出していた」
「国庫の助成も検討されるべき」
 また、上記に加えて、個人的な以下の疑問があります。
「何も全員が辞任する必要はなかったのではないか?」
「その後のフェンシング協会の活動に支障を来すのではないか?」
 確かに「詐欺」といわれてもやむを得ない不正を行ったことは事実なのですが、その不正の問題の程度との「理事全員辞職」のバランスが合っていないような気がするのです。加えて、せっかく強い選手が出てきて、注目の浴びているスポーツとなったにも関わらず、本事件で台無しになってしまうのではないでしょうか?
 
 そこで、いろいろ考え直した結果、謎が解けました(ような気がしました)。私の憶測も含みますが、以下で説明します。

 協会の活動には「先立つもの=お金」が必要です。フェンシング協会では、年間、数億円にも及ぶ活動資金が必要です、会費だけでは「焼け石に水」の状態です。つまり誰か活動資金を負担しなければなりません。
 これを支出していたのが、いわゆる「旦那衆」です。
 相撲界でもそうですが、強い力士には後援会があります。後援会の会長は、地場の経済界のトップの人が「名誉職」のように就任するケースが多いと聞きます。この旦那衆は何故お金を出すのか?その理由は人それぞれなのでしょうが、ほぼ間違えなく言えることは以下の三つです。

①お金と時間に余裕があること
 生活に苦しんでいる人は、他人の生活の面倒は見ることはできません。時間も同様です。
 会社を興して成功した人には経済的な余裕があります。これが「お金を出す」重要な前提条件です。
②様々な人と繋がりがあること
 商売を成功させた人は人との繋がりを重視する人がほとんどです。その人の繋がりのために、「自分のお金が役に立てば良い」と考えているのです。「つきあいだから出そう」「その代わり頑張ってくれ」という感覚があったはずです。
③プライド・名誉職
 お金と時間をかけた選手がオリンピックでメダルを取れば旦那衆は大喜びです。選手も感謝してくれますから、旦那衆は胸を張って選手を連れ歩くことになるでしょう。このためにお金と時間を出していると言っても過言ではないかもしれません。

「主要な理事が、自ら経営する会社やその伝をつかって、協賛金や寄付金等を集めていた。」
 報告書の中の一節です。
 日本フェンシング協会の会長・副会長職の方々は、有名な企業の会長も含まれています。その旦那衆が「フェンシングの振興のため」に一肌脱いで頑張っていた構造が目に浮かびます。
そうであるが故に、今回の不正の発覚で「理事全員が辞任」につながるわけです。
 せっかく頑張って時間と金を使ってきたのに、逆に不名誉な扱いなどされたら、だれでも「やってられない」と思うはずなのです(もちろん、責任意識の強い方が多いでしょうから、「一度仕切り直しで、全員やめよう」という「けじめ」の現れも含まれるでしょうが)。

 前回も書きましたが、今回の不正で最も重要なことは、人員不足も含めて管理体制が不十分だったことです。報告書を読めば、数億円もの金が動いている体制としては、かなり貧弱だったことが理解できます。
 この点、旦那衆=経営者である以上、経理・総務等の事務系の体制が整備されていない限り、事業は絶対にうまくいかないことは、身をもって経験している方もいたはずでしょうし、内部統制の重要性は認識していたはずです(もとより、自分の興した会社ではありませんから、管理体制に対する意識は低かったかもしれませんが)。
 その意味で事務を任されていた事務局長(税理士の有資格者)の責任は重いでしょう。
 補助金を申請する以上、ちょっとした間違いでも役所から五月蠅く指摘されるのは、分かっていたはずでしょう。また一方で、旦那衆も「税理士に任せてあるから大丈夫」と考えていたかもしれません(もしかしたら選手に金をかける前に、事務局に金をかけるべきだったのかもしれません)。

 今回の事件は、日本のフェンシングという一つのスポーツの将来に大きな影を与えています。旦那衆がお金を出さなくなれば、強い選手が生まれなくなるでしょう。その意味で、国が支援する必要が、より強くなるはずです。公費を使うのであれば、役所に説明がつくような資料作りが必要になりますから、管理体制の強化は必須です。決して、旦那衆がポケットマネーで支援してくれることと、同様に考えてはいけません。
 今後の東京オリンピックの開催を前にして、同様の事件によりスポーツの振興に大きなブレーキがかかるようなことがあってはなりません。
 各スポーツ関連団体は、これを機に、自らの管理体制が十分かどうかを検証する必要があるでしょう。また、スポーツ振興を謳う公の団体も、単に寄付や助成を行うだけでなく、管理体制が十分かどうかについての検証を行うことも必要でしょう。
 いずれにしても、スポーツ関連団体の管理体制強化が進むことを期待しましょう。Taku

2014年2月 日本フェンシング協会の「滞在費」の水増し請求

 2014年2月、公益社団法人である日本フェンシング協会は、「JSC委託金不適切な会計処理に関する第三者委員会による最終報告書」を公表しました。
 フェンシングと言えば2008年の北京五輪で銀メダル、2012年のロンドンオリンピックで団体銀メダルは記憶の新しいところです。一方で、相撲界や柔道界をはじめとした暴力事件等、スポーツ界での様々な不祥事が世間を騒がしていることも事実です。
 今回のフェンシング協会の不祥事では、理事20名全員が辞職するという異例の事態となりました。上記報告書を見ると、その不祥事の背景を垣間見ることができます。
 以下、個人的な見解を交えつつ、上記報告書の内容を紹介します。

 「日本人がメダルを取って欲しい。」という期待から、税金を使って選手を強化する仕組みとして「メダルポテンシャルアスリート(MPA)育成システム」ができました。その名のとおり、「メダル獲得の潜在力を有するアスリート」を育成する仕組みです。
 今回の不祥事はこの仕組みを利用したものです。
 不正の手法はいたって単純です。
 実際には支払っていない宿泊費を支払ったことにして、一律20,000円/日の領収書を選手等に作成させ、これを滞在費として支出した証拠資料として利用していたのです。
 当然に1日8,000円のホテルに泊まれば、その差額の12,000円(=20,000円-8,000円)は実際に払っていないわけですから、詐取する形となります。
 以下、概算ですが、上記の不正の結果、実際は3百万円の滞在費を12百万円と偽り、9百万円が過大請求となりました。同協会は、その不正請求額を返還しています。

 フェンシングという競技は多額の資金が必要と言われます。
 国際大会はほとんどが欧米で行われますから旅費等の滞在費がかかります。また機材やコーチの招聘等にも多額の資金が必要です。素人目にも強い選手を育成するには、巨額の資金が必要であることは理解できます。しかし、だからといって領収書のねつ造まで行って資金を捻出することは許されるはずもありません。

 私が気になった点の一つは、こうした単純な不正に関する以下の報告書の記述です。
 「領収書を書いた選手及び書かせたコーチらも『@20,000円×宿泊日数』の領収書に関して、不正な処理に荷担しているという認識はなかった。」
 この点はやや疑問が残ります。
 領収書がどのような意味を持つか、一般的な常識人であれば理解できるはずでしょう。
 実際に支給されていない20,000円の領収書にサインをすることの不自然さ・不正の可能性は、専門家でなければ察知できないような複雑な問題ではありません。通常の大人なら「気がつくはずの問題」と思いますが、どうでしょうか?
意地悪な人の中には「スポーツばかりしていた人だから、一般的な常識はないんだ」という方もいるかもしれません。しかし、私は絶対にそうは思いません。
 むしろ逆に、国際大会で活躍するレベルのスポーツ選手であれば、スポーツ精神に則り、正々堂々と、曲がったことが大嫌いで、不正を許さない人が多いことを信じて疑いません。その証拠に報告書の中では「実際に受領した金額と異なる金額の領収書を作成することについて、疑問を感じたことがあると述べる者が少なからず存した」との記述もあります。
要するに、「怪しい」と気付いている人が多くいたわけです。
 にもかかわらず、「不正に荷担している」という認識に至らなかったのは、残念と言うほかありません。選手等も「結果的に不正に荷担していた」とう事実を重く受け止める必要があります(しかし、不正の存在に気付いても良かったのではないでしょうか?)。
 加えて、本不正の首謀者には、「他の事業資金として用いているのであるから法的な問題はない」との認識があり、また「役員や事務局長の個人的な目的のために流用された形跡はなかった」とあります。逆に言えば「他の遠征費用等の事業資金として用いられた証拠があるのか?」ということが問題となるのですが、このあたりの不正首謀者の問題認識力にも大きな欠陥があると言わざるを得ません。
 この点、報告書では、「自転車操業的な処理(入金されても他の事業のために直ちに支払われる状況)」にあったことが示され、他の事業のために支払われている間接的な証拠の存在を示唆する記述もあります。
 しかし、問題の本質は、そうした証拠もない「杜撰な管理状況だった」ということであり、これを放置したことなのです。「ねずみ小僧」でもあるまいし、「詐取したお金でも、正しく使っているから問題はない」ということには断じてならないのです。
 杜撰な管理体制であれば、例えば悪意のある旅行会社やホテル等の取引者からの不当な請求にも応じて支払を行っていた可能性もあるわけです。残念ながら、そうした詐害行為等の被害に遭っていなかったと立証する術も、この組織にはないのです。

 一方で、注目すべきコメントが同報告書の「おわりに」にありました。
「何人かの理事は、無償で、年間延べ数百時間の労務を提供し、また、別の理事等は1年間で合計1億5千万円程度の資金を拠出することにより、何とか決算上の数字のつじつまを合わせていた」
 フェンシングの普及のために労力の提供も惜しまず、身銭を切ってまで日本フェンシング協会を支えていた理事がいたのです。また、同報告書は「運営経費が圧倒的に不足している現況・・・国庫の助成も検討されるべき」としています。要するに「もっと国がお金を出してあげれば良い」ということです。
 こうした第三者委員会の報告書でのコメントは異例です。
 これは、単なる不正請求の話では終わりそうもなさそうです。
 改めて検討する場を設けたいと思います。Taku

2014年1月 NEC関連子会社 経理担当者横領15億円

 今朝の日経新聞の社会面でも取り上げられていましたが、ネッツエスアイ東洋株式会社の経理担当者による資金横領が発覚しました。同社は、紙幣識別装置等のマネーハンドリング機器の製造販売を行う会社で、NECネッツエスアイ株式会社の子会社です。
 同社は、もともと「東洋通信機株式会社」として、社歴のかなり古い独立事業系の会社でしたが、平成17年に事業分離により、NECネッツエスアイ株式会社(日本電気株式会社(NEC)の連結子会社(51.42%の株被所有))の資本参加の結果、同社の100%子会社となっています(そのためネッツエスアイ東洋株式会社は、NECの孫会社に該当することになります)。

 今回の事例で個人的に驚いた点は2点です。
 一つは不正の金額です。
 「15億円」というのは、この類いの不正では相当に多額です。
 感覚的な話ですが、マスコミが取り上げる重要性の指標は「1億円」と思います。1億円以上の横領があると新聞記事に取り上げられることが多いのです。また税務の調査でも1億以上の脱税の場合、刑事告訴されるケースが多いように見受けます。過去の不正事例を見るにつけ、組織的な不正は別として、個人的な不正の場合には、せいぜい1億円~2億円で露見するケースが多いように思うのです。それは、不正実行者が隠しきれないほどの金額、又は行き詰まって身動きがとれなくなる金額なのかもしれません。
 しかし、今回の不正は平成17年~平成25年までの間で15億円にまで膨らんでいます。もう少し早く発見できなかったのか?大きな疑問を抱きます。

 また、今ひとつ驚いたのが、不正の手法です。
 もともと個人的な不正は、管理体制の不備を突いた単純な手法が多いことは事実です。今回の不正も「小切手の二重振出・不正な裏書きによる現金化」という単純極まりない手法です。これほどに単純で金額も多額である不正の場合、単純な検証方法(残高証明書と帳簿との照合や小切手の振出控えや当座照合表との照合の他、銀行勘定調整表と上記関連資料との照合等)でも、比較的容易に不正が発覚したはずなのです。
 なるほど会社の指摘の通り、「残高証明書などの偽造」や「不正仕訳」により不正の隠蔽工作が行われていたことは理解します。しかし、それ以上に「不正実行者に経理業務を長年にわたり任せきりにしていた」ということが問題視されるべきでしょう。

 過去の不正事例では、印刷業者に依頼して当座照合表を「巧妙に」偽造する不正事例もありました。つまり不正実行者は「不正隠蔽のためには何でもする」と考えて間違いないのです。そのため、不正を防止発見する立場にある者は、不正が発覚した場合、不正隠蔽工作の悪質さを強調して自らの責任を回避しようとするのではなく、不正を防止・発見するための体制作りを長年にわたって採用しなかったことを反省するべきでしょう。
 特に上記のような単純な不正である以上、経理担当者のローテーションや強制休暇制度、内部監査部門による定期的な預金残高確認等の一般的な手法が確立していれば、十分に不正の防止・発見に寄与するでしょうから、不正実行者に「不正を行っても見つかってしまう」という心理的な牽制を与えることができたと思うのです。
 ちなみに、横領した資金をどのように使おうが、不正事例の研究には寄与しないため、あまり興味はないのですが、この不正実行者は15億円もの資金を競馬に使い込んでいたようです。
 なんとも愚かしい。
 せめて少額でも的中して、一部でも返済できたのであれば良いのでしょうが、きっとこうした人は、たとえ的中しても、「外れるまで賭け続ける」でしょうから、期待はできません。
 同社が公認会計士・監査法人の監査を受けていたかどうかは調べていませんが、外部監査が入っていれば、直接金融機関からの確認状を入手するので、本不正は発覚した可能性は高いと思われます。
 できれば同社の決算資料も見たかったのですが、同社のホームページには決算書の開示はありませんでした。機会があれば、改めて検討したいと思います。Taku

2013年12月 グリーンクロス在庫の横流し

 2013年12月、工事現場で使用する安全機材用品等の販売・レンタルを行う株式会社グリーンクロス(福証)は「当社元従業員による不正行為に関するお知らせ」を公表しました。
 同社の2013年4月決算数値は、売上7,971百万円、経常利益665百万円、当期純利益365百万円であり、数値面でかなり健全な会社に見えますが、工事現場で使用する多くの種類の棚卸資産を保有しており、その棚卸対象外商品が不正の対象となったようです。
 不正実行者である元従業員は、7年間にわたり仕入れた商品を不正に転売し、その売却代金40百万円を着服していたようです。
 発覚の経緯は「商品の仕入れに対応する売上が計上されていないこと」が明らかになったためです。当たり前の話ですが、仕入だけが計上されて、売上が計上されなければ「おかしいな?」と気がつくわけですが、今回の不正は長年にわたり不正に気がつきませんでした。その理由として上記の報告書だけでは十分に把握できませんが、あくまで一般論としてこうした不正防止・発見策を考えてみましょう。
 
 第一に実地棚卸の重要性です。
 一般に棚卸資産は下記の三種に区分します。
A 定期的に実地棚卸を行うとともに継続的に受け払い記録も行う。
 この管理方法では「あるべき在庫数量」が常に把握されますから、棚卸による「実際の在庫数量」との差額は棚卸減耗として認識されます。棚卸の頻度を増やせばより厳密な管理体制となります。
B 定期的に実地棚卸を行うが継続的に受け払い記録は行わない。
 やや簡易な管理方法ですが、「前回の棚卸数量+仕入数量-今回の棚卸数量」を払い出し量とみなす方法で、棚卸減耗があったとしても払い出し数量に含まれてしまいます。Aほどに重要でない在庫に適用する方法です。
C 実地棚卸対象にもしないし継続的に受け払い記録も行わない。
 重要性の乏しい消耗品等の管理ではこれで十分です。購入した時点で「全部使った」として処理する方法です。
 重要なことは、自社が取り扱っている商品を「どのように管理するべきか」を責任者が意思決定することです。レアメタル等の稀少品であれば必然的にAで管理するでしょうし、ボールペンやコピー用紙等の少額・多量のものはCで管理するでしょう。
 報告書によると、今回の不正の対象となった商品は「棚卸管理外の一部の商品」でした。
 果たして、実地棚卸管理する必要がなかったのか?疑問が残るところです。

 第二に、売上管理・利益管理にも問題があった可能性があります。
 商品別の売上高及び利益率を把握していれば、「仕入だけ計上されて売上が計上されない」という状況は「直ちに」把握できたはずです。「どんぶり勘定」での利益管理は、他の商品の利益と相殺されて、どうしても細かい異常に気がつかないことが多いのです。
 特に多品種の商品を販売している場合には、どのレベル(商品別・商品群別・グループ別等)で利益管理を行うかについても重要な決めごとなのです(その際、利益管理の意思決定という問題意識だけでなく、不正の防止の観点も考慮する必要があるでしょう)。
 調査報告書で会社が指摘するように「発注した商品と受注との連動性」や「発注、検収、代金支払いに係る業務プロセスの再点検」も必要でしょうが、資産の保全のための「棚卸」と、利益管理のための「商品別利益管理」を徹底すれば、今回の不正は、ある程度、防止できるはずだと思います。
 特に業績の良い会社の場合、利益管理が「いい加減」となり、コスト面で「もっと無駄を省くことはできないか」という意識が乏しいことがあります。
 他に同様の不正が生じていないか、気になるところです。Taku

2013年11月 テレビ朝日元従業員による不正流用の続報

 今回の不正事例「2013年11月テレビ朝日元社員による不正流用141百万円(以下、「今回の事件」という。)」について、昔、同じような事件がありました。
 「テレ朝、所得隠しで責任者解雇
 これは2006年9月、テレビ朝日が国税局の調査を受けた結果として、架空の制作費を番組制作会社に支払ったことが明るみになった事件(以下、「過去の事件」という。)で、当時の社長が記者会見している写真が掲載されていました。
 過去の事件での架空の制作費による申告漏れ総額は155百万円、追徴税額は重加算税も含めて59百万円になるとしています。
 「国税の調査」で「大物プロデューサー」が「番組制作会社」を利用して「架空の制作費を請求させ」、「旅行や服飾・接待等の奢侈財への費消する」という点で、両者は全く同じパターンです。
 さらに不正発覚後の対応も「懲戒解雇」、「役員の減俸」、「刑事告訴の見送り」、「実名公表せず」という対応に加え、約150百万円の水増し請求で金額的にも酷似しています。
 さらに驚いたのは、不正の開始時期です。
 いずれの不正も2002年~2003年頃から不正を始めているのです。過去の事件は2006年9月に発覚しましたが、今回の事件は、その後も発覚を免れていたことになるわけです。
 過去の事件の発覚時に「他に同様の不正はないか」という調査を徹底的に行っていれば、今回の事件は発覚していたかもしれないのです。なんともお粗末な話です。
 全く同様の不正が起きるということは、「こうした不正は、多少はやむを得ないんだ」という姿勢の現れです。それほどにテレビ会社と制作会社との間の「密接な関係」は根深い問題なのでしょう。

 こうした不正が後を絶たず、テレビ朝日の自浄作用にも頼ることができず、本来の目的とは異なる「国税局の調査」によって、こうした不正が「たまに」発覚するというのも、何とも情けない話です。
 効果的と考えられるコントロールは前回の記事の最後に載せていますが、これを含めて、徹底的なコントロールを構築しない限り、こうした類の不正は無くならないでしょう。
 この不正によって「一体、誰が損をしているのか」を真剣に考えることも重要でしょう。Taku

2013年11月 テレビ朝日元社員による不正流用141百万円

テレビ朝日は、2013年11月、「当社元社員による不正行為に関するお知らせ」を公表しました。不正実行者は「まさか」見つかるとは思わなかったことでしょう。
 本件が明らかになって、「俺もヤバい」と思っている人も少なくないかもしれません。
 「悪事千里」といいますが、現実は、発見に至らない不正も多いのです。
 本件の発覚の発端となったのは「国税局の調査」ですが、この調査がなければ本件は発覚しなかったかもしれません。いや、きっと発覚しなかったでしょう。
 こうした不正は発見が非常に困難なのです。以下、検討します。

1.事件の概要
 本件は、不正実行者(テレビ朝日元社員;懲戒解雇)が「外部の制作協力会社」に実態のない業務の代金や実態より高額の代金を請求させ、この資金を私的に流用した事件です。期間は2003年11月~2013年3月の約10年間の長期にわたり、その回数は100回ほどで、総額は141百万円でした。1回の請求に付き100万円から200万円といったところでしょうか。

2.発覚の困難性
 今回の不正で注目すべきは「番組制作費」という「漠然とした支出」が不正対象となっている点です。素人目にみても、番組の制作に際しては様々な支出が必要になることは想像できます。番組制作に当たっては、様々な人材・機材が必要でしょうし、旅費交通費、食費その他、およそ関連づけようと思えば「何でも経費」になりそうです。
 加えて注目すべきは、「テレビ朝日」と「制作協力会社」との関係です。
 当然に、制作協力会社は、立場的に「テレビ朝日」には頭が上がらないはずです。
 テレビ朝日の担当者に逆らえば、制作会社は自らの仕事を失いかねませんから「何でも言うことを聞く」状況は容易に想像できるでしょう。制作協力会社は、テレビ朝日の元社員の言われるがママに、架空請求や水増し請求を続けたことでしょう。
 さらに言えば「業界の慣習」もあるでしょう。私の偏見かもしれませんが、芸能・テレビ関係のいわゆる「業界」は、比較的ノリも軽く、安易に不正の片棒を担がせようという雰囲気があったかもしれません。「○○ちゃん、頼んだよ~」という軽いノリならば、「みんなやっていることだ」という正当化が働いてしまう虞があります。
 上記はあくまで仮の話ですが、上記のとおり「何でも経費になる」「相手は言われるがママ」「軽いノリ」であるならば、今回の不正実行者に限らず、他の真面目な社員であっても、同様の不正を行ってしまうかもしれません。

3.なぜ発覚したのか
 「国税局の調査だから」といっても過言ではないでしょう。税務調査では、「反面調査」という強力な手段を採ることがあります。「怪しい」と思った取引について、相手方の会計処理を調査しに行くのです。
 これも想像の域を超えませんが、本件で言えば、調査対象であるテレビ朝日の「仕入、経費が架空でないかどうか」という問題意識を国税局はもっていたはずです。そのため取引の相手方である外部制作会社側を調査対象として、テレビ朝日側の仕入、経費に該当する「売上、収入」があるかどうかを調べたはずです(こうした取引の相手方の処理から裏付ける調査方法を反面調査といいます。)
 テレビ朝日が支払っているはずの制作費について、番組制作会社側で売上・収入として計上されていない場合、「仕入、経費が架空である」すなわち「テレビ朝日は税金をもっと払え」という理屈が成り立ちます。
 税務調査は「正義のために、不正を発見して悪を挫くこと」を目的としていません。
 あくまで「課税の公正性」の観点から、課税所得の過少申告の有無を調査しています。
 その税務調査の副産物として、「誰かがその制作費を不正に取得している」という疑いが明らかになったわけですから、不正実行者としては「税務調査さえなければ見つからなかった」「不運にも見つかってしまった」と考えているかもしれません。

4.テレビ朝日が公表した再発防止策について
 同社は今後の再発防止策を三つ掲げています。
 「①制作費監査チームの新設」及び「②予算執行の詳細に把握する監督者の設置」は、ある程度の不正の抑止力となるでしょう。こうしたコントロールは、下記の③も含めて、明示的にも黙示的に「君たち(社員)は見張られているんだ」というメッセージになりますから、牽制効果が期待できます(しかし予算と実績との整合性を合わせるような予算消化型の水増し請求については機能しない可能性があります)。
 一方で、下記の「③コンプライアンス誓約書を新設」はどうでしょうか?
 「『制作協力会社』から、架空請求書を発行するなどして、当社社員の不適切な予算執行に協力しないよう、誓約書を提出していただきます。」
 いや、矛先を向ける順序が違いませんか?
 まずは、テレビ朝日の社員(番組制作に係る者)から「不適切な予算執行はしない」という誓約書をもらうのが「先」でしょう。その上で、制作協力会社からも誓約書を入手するのは理解できます。しかし、番組制作会社からのみ誓約書を入手するということは、もしかしたら「今回の不正の原因は、テレビ朝日の社員ではなくて、外部の番組制作会社にある」と考えているのかもしれません。また、それほどに番組制作会社の立場は弱いことの現れなのかもしれません。
 むしろ番組制作会社に対する誓約書の提出も含め、なんでも言うことを聞かせることができるのであれば、以下のようなコントロールも考えられます。例えば、番組制作会社の決算日をテレビ朝日と一致させ、制作会社から収入の一覧を含む決算書を提出させ、当該資料とテレビ朝日側の「番組制作費」と照合するコントロールです。直接的でしょうが、やりすぎでしょうか。
 
 最後に、不正を実行するかもしれない社員から、「私は不正を実行しません」と予め一筆取る方法は、非常に地味な方法と思うかもしれません。しかし、実際は非常に有効な方法なのです。「予め」サインしたことが、その人の心理的な牽制となって、不正の実効を抑止したという有力な実験結果もあるのです。
 可能であれば毎年(番組制作会社からではなく)社員から誓約書を取るのはどうでしょうか?Taku

2013年11月 サニックス子会社での売上の架空計上と期間帰属誤り

 太陽光発電システムの施工販売、環境衛生事業を手掛ける株式会社サニックス(東証一部、福証)は、「当社連結子会社の従業員による不正行為について」を公表しました。
 不適切な会計処理の概要は以下のとおりです。
(1)特定の従業員による架空売上計上
 産業用太陽光発電システムについて、施工の実態がないにもかかわらず売上計上していた(1件100百万円)。
(2)売上高の期間帰属の不適正計上
 7月に計上すべき売上高を6月に早期計上していた(13件173百万円)。

 上記の不適切な会計による同社の第1四半期(2013年4月~6月末)連結数値への影響は以下のとおりでした。
・売上高(誤 16,027百万円→正 15,753百万円(274百万円(1.7%)過大計上))、
・経常利益(誤 1,015百万円→正 924百万円(90百万円(9.7%)過大計上))
・当期純利益(誤 830百万円→正 778百万円(51百万円(6.5%)過大計上))
 また、年度の数値(2013年3月)と比較すると売上高43,366百万円(274/43,366=0.6%)、経常利益1,788百万円(90/1,788=5%)でした。
 一般に、重要性の基準値は税前利益の5%を利用しますから、本件については、「ギリギリ重要性あり」と判断したのかもしれませんが、状況如何によっては「重要でない」と判断することも考えられたのではないかと思われます。
 また、上記事実を踏まえて同社は、2013年3月の内部統制報告書について「内部統制は有効」から「内部統制は有効でない」と訂正しています。

 本不正発覚の発端は、内部監査室への匿名の通報だったようです。
 きっと社内事情に精通している者が、その正義心に駆られて通報したのでしょう。仮にそうだとすれば、不正を許さない組織風土による「自浄作用」が働いたと評価することもできるでしょう。
 確かに不正が発生したことは不幸なことですが、今回の不正をきっかけとして、同社はより厳密な業務プロセスを構築しています。下記は同社が公表した再発防止策としての内部統制の改善策の一部ですが、いずれも具体的かつ直接的であり、有効な手法と言えるでしょう。他社でも参考になるコントロールもきっとあると思います。
・売上計上の必須書類に施工行程ごとの現場写真と「工事完了チェックシート」を追加する。 → 写真添付は有効でしょう。偽装は困難です。
・関連書類の作成を担当する際、「契約書」は営業職、「施工完了報告書」工事現場写真、「工事完了チェックシート」は技術職が担当する。
 → 営業職と技術職との分掌により相互牽制が期待されます。
・本社お客様相談室から契約者に対して契約締結後及び施工完了後にお礼の電話をする
→ お客様と管理部門とが接触することは、不正を行おうとする営業職にとって大きな心理的牽制効果が期待されます。

 上記事例は、不正発覚を契機として管理体制が充実強化された、典型的な「良い例」といえるでしょう。加えて、内部監査室への匿名の通報が10/7、不正行為の公表が11/7で、訂正報告等の公表が11/12でした。この早期対応も評価できるのではないでしょうか。
 同社では、今後、同様の不正は発生しないことでしょう。Taku

2013年10月 東芝医療情報システムズの不適切な会計

 2013年10月30日、東芝情報システムズ株式会社(以下、TSMED)は、「当社における不適切な会計処理」を公表しました。TSMEDは、東芝メディカルシステムズ株式会社(以下、TMSC)の子会社(98%被所有)で、TMSCは、東芝の100%子会社ですから、今回、不適切な会計処理を公表したTSMEDは、東芝本体の孫会社になります。
 その不適切な会計処理の手法は「資産の過大計上」であり、売上原価や費用、損失として計上すべき「仕掛品」「ソフトウェア」「ソフトウェア仮勘定」を資産計上するという、単純な手法です。その金額は2006年度~2012年度の間で、9,863百万円とのことですが、本事例で気になった点は以下の三つです。

 ①TSMEDの設立が2004年4月でした。
 その後、2006年度から同社は粉飾に手を染め、以降ずっと粉飾を続けてきたことになります。「粉飾するために設立された会社」であるはずないのでしょうが、なんとも首を傾げたくなる会社です。
 ②ホームページを見ると同社の資本金48億円とありました。
 資本金5億円以上であれば、非上場でも会計監査人の監査が必要となります。こうした単純な不正ならば、会計監査人が発見する可能性が高いでしょうし、果たして会計監査人はなぜこれを看過したのか?と思ってよく見ると「資本金4.8億円」でして、私が小数点「.」を見落としておりました。すいません。
 会計監査人を設置しないために資本金を5億円未満とすることは良くある話です。
 親会社のTMSC及び東芝本体は当然に、会計監査を受けているはずですが、TSMEDはその規模からして「重要性のない構成単位」として、監査の対象から外されているのでしょう(重要性の話は後述します)。
 ③親会社の指摘で不正が発覚しています。
 親会社が指摘した「資金収支の過度の悪化、仕掛品勘定の金額の増加等」は、財務数値の推移を見れば直ちに把握できるはずです。気になるのは「なぜ、今まで(2006年~2012年)気付かなかったが、今回(2012年)気が付いた」のか?です。
 粉飾の額が次第に膨らんでいき、金額的な重要性が高まっていったことは容易に想像できるのですが、その裏には「実はもう少し前に気がつくことはできなかったのか?」という疑問が残るのです。

 ちなみに今回問題となった金額は、上述したとおり9.863百万円でした(仮に現金とすると1千万円を1kgとすれば約1トンにもなる金額です)。資本金480百万円のTSMEDにとって重要性はあることは間違いありませんが、親会社のTSMED(売上高277,450百万円、経常利益22,889百万円(2013年3月期))からしても、単純に利益との比率で見れば9,863/22,889=43%となり、相応の重要性が認められると思います。(ちなみに、東芝全体の売上高5,800,300百万円、事業継続利益155,600百万円(2013年3月期米国基準)ですから、重要性は乏しいでしょう。)
 
 最後に、同社が公表した再発防止策です。典型的な不正防止策ばかりですが、いくつかコメントします。
1.人事ローテーション
 今回の不正の原因は、取締役管理部長と経理グループ長が「長年」経理業務を行っていたこと捉えているようです。確かにその通りでしょうが、そもそも同社は少人数の会社(約200名)である以上、社内でローテーションすることは難しいことでしょう。
 もちろん「東芝グループ内でローテーションを実施する」ことは理想的であって、それに越したことはないのですが、現実問題として、「人事」は不正防止の観点からのみ検討されるわけではないので、なかなか難しい面もあるでしょう。少なくとも、一般の中小企業ではなかなか難しい方法かもしれません。
2.役職員の会計に関する知識・能力の強化
 個人的には、これこそが最も重要だと思いました。
 これに加えて「5.監査役監査の充実」を再発防止策として掲げていますが、両者を切り離さない方が良さそうです。監査役は取締役を、取締役は他の取締役を、それぞれ監視する立場にありますから、要するに「役員間の相互牽制」が重要であり、より具体的には「会社役員らが自社の数値を丁寧に見る」だけでも重要なコントロールになるはずなのです。
 この点、本報告書の中に「(不正を働いた)取締役管理部長以外の取締役や幹部職員が経理についての十分な知識を有していたとは言いがたい」という記述がありますが、東芝グループ内には優秀な人材が多くいるはずでしょう。何ともお粗末な話です。
3.コンプライアンスの意識の徹底
 同じく同報告書の中に「上層部の言動で従業員に示す」「コンプライアンス研修の機会増加」とあります。確かに、不正の再発防止策としての一般論としては頷けますが、本不正事例では、その上層部自らが不正を行ったわけで、従業員からすれば納得がいかない話でしょう。
4.内部通報制度の改善
 これも一般論として良く耳にしますが、内部通報制度はうまく機能させるには相当な工夫が必要なようです。この点は改めて検討しましょう。

 私が提唱したい再発防止策は一つあります。
 あと2百万円増資することです。そうすれば資本金5億円以上となり、会計監査人の設置義務が生じますから・・・。
 以上、やや長くなりましたが、本不正事例で最も印象に残ったことは一つです。
 当たり前ですが、「東芝は大きい」ですね。ちなみに私もTOSHIBAのdynabook愛用です。Taku

2013年11月 雪国まいたけ(その3)不適切な会計処理(広告宣伝費)

 前回に引き続き、「雪国まいたけ」の不適切な会計処理について検討します。
 今回、違法配当の問題も絡んでいますが、具体的に問題となった「不適切な会計処理」は以下の三点でした。
①過去に取得した土地の資産計上額の妥当性(土地仮装計上716百万円)
②一部事業用資産の減損について(減損損失非計上470百万円)
③過年度における広告宣伝費の会計処理について(不当な繰延処理180百万円)

 本稿では、上記の③に焦点を絞ります。
 ③の問題は、広告宣伝に係る契約(733百万円)について、会社は契約期間である30ヶ月(24百万円/月×30ヶ月=733百万円)で按分計上していたところ、本来は具体的な作業の大部分が完了した2012年3月期に費用計上すべきとされています。
 この点について、同社の公表した報告書の記述の抜粋(一部要約)を引用し、それに個人的なコメントを付すことで、その不合理さを検討します。

「当社に保管されている契約書(写し)では、具体的な業務の内訳と対価の対応関係は記載されていない」
→(コメント)
 何億ものお金を支払うのに具体的な業務内容と対価の対応関係がハッキリしないのは不合理です。むしろそれが分かると一括費用処理が求められるから、隠蔽されたと考えるのが合理的ではないでしょうか。今回の社内の調査では、広告代理店であるD社からの当時送信されたメールデータでその内容を確認したようですが、なぜ契約当時に、具体的な業務の内訳と対価との対応がハッキリなかったのか、理解に苦しみます。

「広告宣伝に関しては、社長がリーダーとして先頭指揮して進めたプロジェクトであるが、担当者は、分割計上を前提に画策したものと認められる。担当者の行動は、経営者のトップの意向を付度し無理でもそれに応えようとしたものと考える」
→(コメント)
 この辺りの表現は読み手を誘導しているように読めます。
 「経営者のトップの意向」は「分割計上であり、一括計上ではない」ことは、明記はされていませんが、確かでしょう。この点、読み手が知りたいのは、「末端の担当者がどのように考えたのか」ではなくて、「社長から『分割計上』に係る直接的な指示があったかどうか」です。少なくとも社長からは細かく事情聴取しているはずですから、「社長が直接的な指示を行っていないことは明らかである。」と記述することもできたはずです。それを明記せずに、暗黙裏に上記記述に留めたのは、「嘘は書けない」という心理が働いたからと考えるのは、考えすぎでしょうか。
 いずれにしてもこの記述からは、未だに前社長に大きな影響力があると感じざるを得ません。

「広告宣伝費の処理に関しては、・・・担当者任せに行われ、上司・・・の確認手続きがなされなかったことにより不適切な会計処理を見落とす結果となった」
→ この記述が最も不合理に感じました。
 社長案件でプロジェクトが進んでいるにもかかわらず、末端の担当者が独断で会計処理を決められるはずはありません。逆に末端の担当者が、あるべき会計処理として2012年3月に733百万円の広告宣伝費を「一括計上」し、赤字幅がさらに大きく膨らんだとしても、それも見落とす結果となったのでしょうか?どうなんでしょうか?
 会計処理を考慮することなく、733百万円もの契約をする経営者はいません。
 「会計処理は担当者に任せていた」では、筋が通るはずはないのです。

 最後に同社は、上記の問題を公表する前に、2012年3月期に大幅な赤字転落した原因を三つ示していますので、それを紹介します。
・東日本大震災による風評被害
 →確かに風評被害は、過去、現在及び将来に関係する、大きな問題でしょう。
・ぶなしめじ工場の立ち上げ
 →新規工場の立ち上げは多くが固定資産計上されますが、人件費等の経費もかさむことから、確かに業績に与える影響は少なからずあったのでしょう
・過去の決算における黒字決算の維持の反動
 →これはどうでしょうか?
 「黒字を維持するため」→「費用とすべきものを資産としていた」→「資産が一気に費用となった」ということです。この三つ目の理由は、そもそもが粉飾していたことを認めているような記述に読めてしまうのですが、どのように感じるでしょうか?
 なお、全然関係ないかもしれませんが、同社は、2013年3月期に固定資産の減価償却方法に係る会計方針を定率法から定額法に変更しています。Taku

2013年11月 雪国まいたけ(その2)不適切な会計処理の具体例

 前回に引き続き、「雪国まいたけ」の不適切な会計処理について検討します。
 今回の仮装経理は、2012年3月期の違法配当の問題も含まれますから、今後の法的な動向も気になります。
 しかし、本稿では以下の①~③の具体的な「不適切な会計処理」に焦点を絞って検討しましょう。
①過去に取得した土地の資産計上額の妥当性(土地仮装計上716百万円)
②一部事業用資産の減損について(減損損失非計上470百万円)
③過年度における広告宣伝費の会計処理について(不当な繰延処理180百万円)
 それぞれ、どのような会計処理だったのでしょうか。監査上の対応をも含めて検討します。

①過去に取得した土地の資産計上額の妥当性(土地仮装計上716百万円)
 これは1995年まで遡る「昔の話」です。
 社内の関係者に対して事情聴取するにも、既に退職しているか、又は記憶が明確でないため、具体的経緯は不明な点が多いままのようですが、同報告書で示されている以下の事実関係からすれば、あるべき会計処理はハッキリしています。
 同社は1995年から関西地区の生産・物流拠点とするため、近江八幡市の土地開発を進め、716百万円を外部の会社に手付金等として支出し、建設仮勘定としていました。
 ところがその後、3年後の1998年にこの進出計画を中止します。
 この時点で、上記の建設仮勘定の回収可能性を検討して、回収可能性がなければ全額損失とする必要があったわけです。しかし「リーダーシップの『暗黙』の重圧」により、業績を仮装するために建設仮勘定のまま未処理とし、その後、まったく別案件の土地開発に上記の建設仮勘定716百万円を土地として忍ばせた形としたのです。
 旧来の土地開発と今回の土地開発とに関連性がない以上、両者を同一視して土地勘定に計上するのは問題があります。正に仮装経理です。
なお監査法人は、2005年3月期に変更しており、当該建設仮勘定710百万円の処理については、会社は特に監査法人に説明をせず、また監査法人の引継事項でもなかったので、問題にはならかったようです。
 土地勘定は減損の対象にはなりますが、そもそも時価で評価するものではありませんし、特に昔の会計処理について、過去に遡ってその当否を検証することには限界がありますから、会社側が特に説明をしない限り、本件を問題視することは困難だったかもしれません。

②一部事業用資産の減損について(減損損失非計上470百万円)
減損損失の認識に際しては、金額的にも重要なケースが多いだけでなく、将来の利用見込や将来キャッシュ・フロー見込等の将来の事象に関連するため、主観的判断や恣意性が介入しやすく、会計上も監査上も慎重な判断が必要とされます。
 この点、同社の報告書では、減損会計導入時の減損処理の要否の判断に誤りがあったとし、「日高配送センター及び日高工場(81百万円)」と「西新宿YMビル(344百万円)」については、当時の利用状況や、その後の利用目的などからして、平成18年3月期に減損処理すべきところ、これを減損処理していなかったとしています。その後、毎期、減損の要否を見直すとして、2014年3月期の第1四半期末までの累積で470百万円の減損損失の過小計上(これに伴い減価償却費の過大計上11百万円)がなされているとしています。
 監査上も相応の検証を行ったと思いますが、同報告書では、監査法人に対しては、減損回避のため具体性を欠く将来の利用見込の説明等を行っており、また、一時しのぎの利用実績を仮装したり、固定資産の活用方針を取締役会で取り上げたりしていたとの指摘もありました。
 この辺りの記述から、社長を始めとして取締役会全体が減損回避措置を講じていたことになり、組織的な粉飾の疑いが色濃く感じ取ることができます。

③過年度における広告宣伝費の会計処理について(不当な繰延処理180百万円)
 上記2つ以上に不透明さが拭えないのが本件です。
 「不当な繰延処理180百万円」としていますが、実際の広告宣伝に係る契約金額は733百万円でした。会社はこれを契約期間である30ヶ月(24百万円/月×30ヶ月=733百万円)で按分計上していましたが、本来は具体的な作業の大部分が完了した2012年3月期に費用計上すべきでした。
 同社の2011年3月期の経常利益(連結)は906百万円(黒字)に照らして、本件の契約金額は733百万円は、相当多額です。また「社長がリーダー先頭指揮して進めたプロジェクト」とされていますから、なおさら「重要なプロジェクト」だったはずです。
 ところが、報告書の以下の記述を見る限り、社内の管理資料の保管も不十分で、上司から担当者への指示も杜撰でした。この不合理さが最も気になるのです。
 次回は、上記の広告宣伝費にかかる報告書の記述の抜粋(一部要約)を引用して、その不合理さを検討しようと思います。今回は、久々の大作になりました。Taku

2013年11月 雪国まいたけ(その1)。不適切な会計と代表取締役の辞任

 2013年11月、キノコ類の栽培・販売の雪国まいたけ(東証2部)は、「社内調査委員会の調査報告書の受領及び当社の対応」を公表しました。これに伴い「強くなりすぎたリーダーシップ」を発揮する代表取締役は、経営責任をとって辞任しました。
 ことの発端は、退任した取締役からの「過去の会計処理に係る疑義」の告発でした。
 具体的な「不適切な会計処理」(個人的には「仮装経理」や「粉飾」とした方が、その重要性が伝わると思いますが)の問題は、以下の三つです。
①過去に取得した土地の資産計上額の妥当性(土地仮装計上716百万円)
②一部事業用資産の減損について(減損損失非計上470百万円)
③過年度における広告宣伝費の会計処理について(不当な繰延処理180百万円)
 上記の仮装経理の結果、平成24年3月 は配当原資はなかったことになります。
 その結果、平成24年3月期に実施した株主配当金133百万円は、全額、違法配当に該当します(違法配当となれば、株主に対する返還請求や、取締役の連帯責任の問題も生じます)。本件は、ただ単に取締役を辞任すれば足りる単純な問題ではないのです。
 今回は、本件の概要のみを扱い、次回、上記の仮装経理の詳細について検討します。

1.事件の経緯
 今回の事件の経緯を簡単に示すと、以下のとおりです。
・ 2013年6月、退任した取締役からの告発(過去の会計処理に係る疑義の指摘)
・ 2013年8月、証券取引等監視委員会による立入調査
・ 2013年10月、同委員会からの指摘等を踏まえて社内調査開始
・ 2013年11月、今回の調査報告書の公表及び代表取締役辞任
(今後、過年度決算書類等の修正を行う予定)

2.同社の業績の推移
 同社の有価証券報告書の経営指標の推移を見ると、同社の業績は2011年3月期まで順調に推移しています(推移しているように見えます)。同社の連結売上は約26,000百万円前後で推移し、利益はやや波がありますが、2011年3月期は906百万円の経常利益を上げています。これが2012年3月期に3,247百万円の経常赤字、2013年3月期には1,384百万円の経常赤字となっており、急激に業績が悪化したように見えます。
 この点、同社は2012年5月に業績予想修正を行っており、2012年3月期の決算数値に関して、「米国子会社の工場建設延期に伴い、固定資産の減損損失410百万円(連結)」と「これに伴い、米国の関係会社株式の評価損592百万円(単体)」を計上することを公表しています。
 この業績予測の甘さも今回の事件の兆候と捉えることもできるでしょう。
 以下、公表資料に基づいて、今回の不正事例を検討します。

3.不適切な会計処理の原因は「リーダーシップ」と「コンプライアンス意識の欠如」
 辞任した代表取締役は「強いリーダーシップ」、「強くなりすぎたリーダーシップ」と表現され、かなり大きな影響力を有していました。詳細な会計処理は次回検討しますが、いずれも「業績を悪化させてはならない」という考えが強かったことが原因と考えられます。
 こうした社長の考え方は、社風はもとより、幹部職員や末端の従業員の考え方にまで浸透するものです。以下、同報告書で示されている行動指針を紹介します。
 「私たちはできない理由を探しません!できる理由を見つけます!」
「私たちは妥協しません!許しません!」
 多分にこの行動指針は、辞任した代表取締役が作ったのでしょうか?分かりませんが、この行動指針を見る限り、何か「ただならぬ雰囲気」を感じ取ることができます。
 もちろん善意に解釈すれば、「言い訳ばかりを探すのではなく、積極的に「できる」ことを考えろ」ということでしょうし、「妥協するな。ガンバレ」と理解することもできます。
 しかし、世の中には「できないこと」や「してはいけないこと」もあるわけで、それも含めて「何でもできる」としてしまえば、「無理が通って道理が引っ込む」ことになるでしょう。
 「妥協しません!」というのも耳障りはいいですが、「現実を直視しません」と読むこともできます。果たして「許しません!」となると、もう訳が分からなくなって、何に対して怒っているのか、どうにも二の句が継げません。
 上記の行動指針が、幹部社員や従業員のコンプライアンス意識を乏しくした要因となったことは間違いなさそうです。
「業績を維持するためには何をしても良い」
「業績悪化は許しません!」
 ということで、仮装経理が行われたと考えることができます。
 次回は、本事例をもう少し具体的な経理処理を検討したいと思います。Taku

2013年9月 那須電機鉄工の元従業員不正。領収書偽造で約2億円横領

 鉄塔メーカーの那須電機鉄工株式会社(東証2部)は「当社元従業員による不正行為に関するお知らせ」を公表しました。
 不正実行者は、八千代工場に勤務していた事務担当者で、消耗工器具備品の購入に関して領収書を偽造して会社資金を着服し、2006年10月~2013年8月までの約7年間での着服総額は約2億円です。
 「社内・社外を含め共犯者はいない」とすれば、不正実行者は、相当大胆に不正を繰り返していたことでしょう。しかし「領収書の偽造」という非常に単純な手口で、長年気がつかなかった理由が気になります。加えて、なぜ、今回発覚したのか、という点も気になります。
 今回発覚した理由に、早期発見のためのヒントがあると思います。
 今後は「社内調査委員会を設置し、外部専門家の協力を得て調査して」いくようですが、その調査結果の公表を待ちましょう。

 さて、本件とは無関係ですが、領収書偽造による不正の話です。
 領収書を経理に持参して、立替えた経費を精算するプロセスはあります。
 仮に「10,000円」の領収書を「70,000円」と改竄して、収入印紙も忘れずに貼付して、消印を適当に押して経理に持って行くとどうなるか?
 ウルサイ経理ならば「高いわね」と怒られそうですが、事情の知らない担当者であれば、問題なく精算されそうです。この場合、自分は10,000円しか立て替えていないのに、会社から70,000円貰うことになります。
 誰もが思いつく単純な、しかし悪質な不正です。
 一般的に領収書は「複写式」になっています。
 お客が受け取るのは「複写された側」ですから、これを改竄するには、そのためのカーボン紙等の不正用具を持つ必要があります。これとは別に聞いた領収書の偽造の事件では、不正実行者は、様々な領収書に対応できるように、様々な種類のカーボン紙を机の中に忍ばせていたようです。
 大きく水増しするとバレるでしょうが、少額な不正であり続ければ、永遠に気がつかないかもしれません。また、業務プロセスが末端になればなるほど、役員等の上層部からは目が届きにくくなります。

 しかし、本件では7年間で2億円もの不正です。
 不正の実行方法は上記と異なるかもしれませんが、巧妙に領収書を偽造していたとしても、「そうした不正が起こるかもしれない」という問題意識があれば、事前に防止又はもう少し早期に発見できたかもしれません。
 例えば、少額な精算はやむを得ないにしても、一定額以上(一定期間内との制約も併せた方が良い)の精算は、稟議を含む事前申請とした方が良いでしょうし、事後的にでも承認を求めることも考えられます。また予算と実績との慎重な比較や、そもそも予算に不正額が織り込まれている可能性にも配慮して、慣習的になされている相対的に多額の支出について、無駄な支出がないかどうかを予算策定時に注意することも有効です。
 ちなみに同社の2013年3月期の連結ベースでの財務数値は、売上は21,281百万円、税前利益が224百万円、当期純利益は73百万円でした。純資産が13,538百万円ですから、200百万円は重要性ないと判断したのでしょう。
遡及修正は行わないこととしており、2014年3月期に与える影響も軽微なようです。
 なるほど遡及修正したとすれば、200百万円の不正支出は7年の各期に分散されますから、各期における重要性は乏しくなるでしょう(旧態の開示方法では「前期損益修正損」となり、200百万円が一気に特別損失となる可能性もあり、なかなか「重要性なし」で逃げられないような気もしてきます)。
 加えて、他に同様の不正がなかったかどうかの検証は、なかなか困難を極めるかもしれません。
 なにしろ「領収書の偽造」ですから、領収書の綴りを一つずつ見ていく作業も必要になるかもしれません。考えただけでも気が遠くなる作業です。
 いずれにしても、会社にとっては、金額では計り知れない痛恨の不正だったことでしょう。

 全然関係ありませんが、私は東西線をよく使います。東葉高速鉄道もよく使います。
 南砂町、八千代緑が丘。よく使います。
 そういえば、NASUのロゴもよく見かけます。Taku

2013年7月 ハマキョウレックスの元従業員の不正行為

 2013年7月、物流業のアウトソーシングを手掛けるハマキョウレックス(東証一部)は、「当社元従業員による不正行為に係る調査結果について」を公表しました。
 同報告書では①元従業員2名による架空売上計上(2008年4月~2013年3月の5年間の累積で1,043百万円)及び②取引業者を利用した着服(2009年11月~2013年5月までで29百万円)を明らかにしています。
 ちなみに同社の平成25年3月期の連結売上高89,319百万円、同経常利益6,332百万円から比較すると、その財務諸表に与える重要性は低いようにも思えます。一方で、①の架空売上計上について、その全額(1,043百万円)が滞留しているとすれば、2013年3月末時点の連結上の「受取手形及び売掛金」が12,850百万円、単体の「売掛金」が5,185百万円ですから、滞留売掛金の割合の高さからして、一概に「重要性なし」と判断するのは、難しい面もあるかもしれません。
 以下、①の架空売上と②の取引業者を利用した着服行為とに分けて不正防止策を検討しましょう。
 
 まず①の架空売上ですが、これは売掛金の滞留原因の究明により発覚したとされます。
 不正実行者は、自己の業績不振を隠すため、正規の請求書とは別の請求書を捏造して、嵩上げした売上高を経理部に報告していました。当然、請求金額と入金金額とに差異が生じることになりますが、不正実行者は「取引先C社の検収手続のタイミングのずれ込み」等、巧妙な説明・操作により、不正の発覚を免れていたようです。
不正実行者が「センター長」という役職者であって、かつ請求書発行事務を一任されていたことに加え、当初予算が達成されて前年度対比の計数的にも異常を感じ取れない程度の偽装であったことを踏まえると、5年もの長期にわたり発覚が遅れた要因として頷ける面はあります。しかし、長期間発覚しなかった問題は、もっと単純な話なのかもしれません。
 多分に滞留売掛金は、時の経過に従い増大していったでしょうし、「検収手続のずれ込み」という比較的単純な理由について、「本当か?」と疑問を抱いた関係者も多くいたはずでしょう。その疑問を抱いた関係者は、どこまで大騒ぎしたでしょうか?むしろ「まぁ、そういうならば仕方ない」と安易に納得した関係者も多くいたのではないでしょうか?
 「約定通り入金されない」という異常を安易に納得した関係者は大いに反省すべきでしょうし、特に「おかしい」と思った場合には、管理部門の主導の元で得意先に残高確認を行う等のルールを整備・運用すれば、こうした不正は早期に発見できたことでしょう。

 また、②の取引業者を利用した着服については、上記①の架空売上の計上の調査中に、当該不正実行者によるリベート等の金銭のやりとりが発覚したようです。
 雑草の手入れや清掃業務等の発注業者に対して、実態のない作業を捏造して会社宛に請求書を提供させ、正当な作業経費として支払った金銭が不正実行者に還流させる不正は典型的な事例です。
 こうした不正を行う輩は、社内の管理体制の不備を把握しているケースが多く、最初は恐る恐る不正の実行をしつつも、次第に大胆になっていくようです。本件も、既に売上高の仮装計上という不正に手を染めた人間が「どうせ見つからないだろう」とタカをくくって不正に及んだものと推定されます。こうした不正には、請求書や領収書と行った証憑書類のみでなく、作業の事実を示す資料(作業工程表や作業完了を示す写真等)のエビデンスを充実して貼付させることを普段からうるさくすることが肝要です。「うちの事務は、うるさいからな」という雰囲気を作ってしまえば、こうした不正はかなりの割合で防止できるはずなのです。

 最後に、同社の公表した「当社元従業員による不正行為に係る調査結果」について、往々にして、こうした公表物は冗長になりがちなのですが、本調査結果は端的で読みやすいと思いました。同報告書からにじみ出てくる誠実さからすれば、今後、同社では同様の不正はきっと生じないのではないかと思いました。だだし、惜しむらくは、同報告書内の「第Ⅴ改善提案」は、その分量が多く、何が最も重要な改善提案なのかがハッキリしないところが残念ではありますが。Taku

2013年6月 増田製粉所子会社の典型的な従業員不正

 既報の通り、株式会社増田製粉所の連結子会社において、元従業員による不正行為が発覚しました。本不正事例の社会一般に与える影響は必ずしも大きくはないのでしょうが、いわゆる中小企業において発生しうる不正を防止する観点から、本不正事例を題材にして「少なくとも保持すべき管理体制」を検討しましょう。
 なんといっても本不正事例の特徴は、「常勤役員3名、従業員12名」という小規模な組織ということです。小規模である以上、構成員一人一人に課されている役割は多岐にわたることから「兼務の増加→牽制不十分」となり、不正が発生しやすくなります。
 しかし「小規模企業での不正はやむを得ない」と匙を投げるのではなく、下記の点に注意をして、相応の不正防止策を構築することこそが重要と考えます。
 以下の「ちょっとした工夫」で不正が発生しにくい状況になり得るのです。以下の工夫が、貴社の管理体制の構築方法を見直すきっかけにしてもらえたら幸いです。

・現金出納や小切手の振出について、担当者が単独で処理することを禁止する。
 不正対象になるケースが多いのは、現金か現金同等物など換金が容易な資産です。
 棚卸資産については下記の「実地棚卸」をご覧いただくとして、少なくとも現金や小切手の振出等の「不正が発生しやすい」作業は、従業員一人に任せっきりにするのは問題があります。
 小規模会社の場合には、現金出納業務を「思い切って」従業員全員で行うようにすることが考えられます。大企業では考えにくいですが、小口の現金支払いについては、備えられた財布(役員等が定期的に残高を確認して適宜補充する)から、各従業員が領収書等の提出を条件として各自に精算させるわけです。その精算ごとに各自が現金残高を確認して、押印することにすれば、現金過不足があった時点で、「あれ、あってないゾ!」「前に精算した人誰だ?」との指摘となり、直ちに現金過不足が明らかになります。
 また、小切手の振り出しについては、未使用の小切手用紙や小切手振出控え、印鑑の保管場所やチェックライターの使用場所等、一定のルールを定めて、そのルールに従うことを厳しく求める必要があります。「小切手関連の作業は、とてもやかましい」という印象を従業員に受け付けてしまえば、相当な牽制効果が期待できます。特に印鑑の管理は重要です。少なくとも、役員以外の人が黙って使えるような状況にしないことが肝要でしょう。

・月に一度は関連資料の一致の確かめる。
 販売管理システムと会計システムのデータ、現金出納帳の残高と現金の実際有り高、預金残高と預金元帳の残高などなど、「両者は一致するはず」という相互の数値に何らかの理由で「ズレ」が生じることは一般的です。
 「両者は一致するはず」であるが故に「一致を確かめる必要はない」と考えるのか、であればこそ「その一致を確かめることが肝要」と考えるのか、経営者の内部統制に関する意識の問題でしょう。
 小規模な組織であれば照合する数値も限られますから、月に一度の小一時間くらいの作業の場合も多いはずです。できれば部長や役員クラスの人が行った方が良いでしょうが、税理士等の外部の人に依頼してもかまいません。月次でチェックしていれば、適時に原因が明らかになって、たいした問題にはならなくても、年次でチェックすると原因がはっきりせず、累積的に大きな数値の相違を招くことも希ではありません。

・実地棚卸
 在庫に重要性がない場合は別ですが、できれば半年に一度、最低でも年に一度は実地棚卸を行う必要があります。その際「すべての在庫を棚卸しよう!」という極端な発想は禁物です。あくまで「重要性に応じて」実地棚卸の要否を検討するべきです。
A;棚卸資産の入出庫を記録しておいて、その継続記録の検証のために定期的に実地棚卸をする。これが最も厳密な管理方法です。
B;棚卸資産の入出庫記録はしないものの、定期的に実地棚卸を行い、「期首棚卸数量+当期仕入数量-期末棚卸数量」の算式で、当期の使用量を間接的に算出する。これが中間的な管理方法です。
C;棚卸資産の入出庫記録もせず、また実地棚卸も行わずに、購入した時点ですべて使用したとみなす方法です。重要性がなければ管理は不要なのです。
 重要なことは、自社の取扱商品・材料について、ABCいずれで管理すればよいかを検討することなのです(「こうでなければならない」というルールはありません。一般には重要性が高いものはA、管理不要なものはC、その中間にあるものがBというように分けてみるとよいでしょう)。

・怪しいと思ったときの初動対応が重要
 不正には兆候が見られます。不正実行者の日常生活・態度・帳簿間の相違等、不正発覚前に「何か怪しい」と思われることが多いのです。
 「まさか?」「いやいや、彼に限ってそんなはずはない」という安易な納得は、発覚後「やはり、怪しいと思っていたのに」という後悔に繋がります。
 一方で「あの人は怪しい」という疑いは「おいおい、滅多なことをいうんじゃないぞ」という戒めに繋がることも多いので、せっかくの不正の兆候を見過ごすことも少なくないようです。
 多くの不正事例で感じることですが、「怪しい」と思ったときの初動対応がなにより重要です。初動対応では、不正の事実が発覚していない以上、不正実行者の態度は横柄なことがあります。
 「私を疑っているのですか?」
 「それでは、仕事になりません」
 という抵抗を示しながら、不正を隠蔽しようとすることが多いのです。
 調査側は、不正実行者の「しっぽ」をつかんでいるわけではないので、あくまで冷静に、「別に疑うつもりはないんだが、先日『不正事例研究会のセミナー』を受けて、ちょっと感化されちゃってね」などと言い訳をしながら、チェックすることが必要でしょう。さもなけば、不正の兆候がある以上、ばっさりと「担当者替え」を提案しても、決して不自然なことはありません。
 これらについて、担当者が異常なほどの抵抗を示すことがあれば、それこそが不正の兆候になると思うのです。こうした一時的な混乱は、不正が放置された結果の多額の損害が明らかになることに比べれば、たいした問題ではないのです。不正を早めに発見するには、その割り切りが重要と思います。
 他にも、いろいろと「最低限守るべきルール」の構築と遵守を提案したいのですが、近い将来、書籍としてまとめたいと思っています。また機会を改めて。Taku
プロフィール

TwoNT

Author:TwoNT
 当ブログは、中里会計事務所による不正事例研究会の記事を発信しています。
 不正事例研究会 中里会計事務所
実際の事件を知ることが、同様の事件を繰り返させないための想像力を養い、対策を有効に機能させるための第一段階になると信じます。
連絡先:中里会計事務所 電話03-6228-6555
中里会計事務所

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