財務諸表監査の実務 第2版発行

財務諸表監査の実務 第2版
「財務諸表監査の実務」の発行から1年。
お陰様で一定の評価が得られたのか、増刷を経て第2版を刊行することができました。ありがとうございました。
初版発行からの1年間で大きな問題となったのが東芝の粉飾事件です。
2016年1月、公認会計士協会は、公認会計士監査への信頼が大きく揺らいでいることを受けて「公認会計士監査の信頼回復に向けた監査業務への取組」という会長通牒を発出しました。
こうした会長通牒は公認会計士監査の信頼が揺らいだたびに公表されている経緯があります。
第2版では過去の会長通牒に焦点を当てて「監査の質の向上と公認会計士の歴史」という補章を設けました。

「歴史は繰り返す」といいますが、繰り返してはならない歴史もあります。
会計士業界における過去の苦い経験を風化させないための試みです。
なにとぞ、よろしくお願いします。
著者を代表して 中里拓哉

なお、下記にメールを頂ければ、著者割引20%引き(送料別)にて発送致します。
郵送先、電話番号、お名前をお知らせ下さい。

takuya@nakazato-cpa.com

不正の再発防止策とJin-Net

 不正が発生する可能性を「リスク」と捉え、そのリスクを低減するためのコントロールとして、社内に様々な「ルール」を決めることがあります。特に不正が発覚した後は、再発防止策として、新たなルールを組織に組み込むことが多いようです。しかし、がんじがらめのルールを作ると組織の効率的な運営に支障を来すことがあります。
 このバランスがとても難しく、内部統制を構築する経営者によって、匙加減が変わるところでもあります。

 個人的には「がんじがらめのルール」よりも「人材育成」に力点を置くことが重要だと考えます。
 不正が発生した場合の「再発防止策」として、「社内教育の徹底」が挙げられていることも事実です。
 
 ところで、公認会計士や弁護士等の専門家のネットワークを利用して、人材育成を主眼とした会社ができるそうです。
 人材育成ネット。中里会計事務所は、「Jin-Net」と提携関係にあります。いまだ、ホームページは「工事中」です。
http://www.ji-n.jp


 

「りそなの会計士はなぜ死んだのか」再考

 2014年の大晦日。自宅の炬燵にて。
 十年余り前の2003年4月。大手金融機関の再編が進む中、旧あさひ銀行(現りそな銀行)を担当していた会計士(当時38歳)が自殺した。当時は実名入りの書籍「りそなの会計士はなぜ死んだのか」(山口敦雄著、毎日新聞社)が出版され、他殺説も含めてセンセーショナルな報道がなされた(ちなみに、この本は事件後3ヶ月で出版され、遺族となった御両親は彼の追い込まれた状況をこの本を読んで初めて理解したと証言している)。
 彼は大手監査法人の金融機関監査の第一人者であり、若くして「代表社員」への昇格を打診されるほど優秀であった。彼は当時、会計士資格取得の専門学校であるTAC公認会計士講座の三次試験(現在の修了試験)の「監査実務」の講師として、「会計士の卵」を指導する立場にもあり、私もその講義を聴いた一人である。実務に裏付けされた経験に基づく理路整然とした彼の講義は迫力があり、今でも強く印象に残っている。
 その彼が金融監督庁(現、金融庁)に出向となった際、TACの仕事を降りることとなり、私はその講師の仕事を引き継ぐこととなった。ビール好きで水泳部に所属していた彼とは共通する話題が多く、池袋、赤坂、銀座等、よく飲みに行った。
 上記の書籍では、彼が自殺した理由をこう記述している。
 「過労の身体に、一気に徒労感と虚無感が襲った。」
 彼は合理性を尊び、不合理を嫌った。また責任意識が高く、無責任な行動を嫌った。金融庁や銀行からの圧力等、納得できない事態が続いても挫けない強い人であった。彼は「昇進しなくて良いから監査を続けさせて欲しい」と強く考えていた。
 しかし、監査法人の最終判断は彼の考えとは異なっていた。彼は立場上、それに従わざるを得なかった。「週に三日の徹夜」という壮絶な状況下で、気力も体力も限界を超え、受容できない状況を目の当たりにした彼は、突発的に「許されない行動」に出てしまったのかもしれない。
 当時の一部マスコミは「厳格な監査判断を求めての抗議のための会計士の自殺」と報道した。しかし、これは明らかに誤りである。やや専門的であるが、問題となった「繰延税金資産の回収可能性の判断」について、監査法人の最終的な判断は「全額回収不能(5号)」であった。これに対して彼は「一定年数の計上容認(4号但書)」とし、監査法人の最終的な判断よりも「甘い」判断を行った。
 無論、彼は銀行にとって「都合の良い判断」をしようとしたわけではない。
 もとより監査は「厳しい判断」が伴うことがあるが、「厳しいから正しい」わけでははい。
 彼が拘ったのは、「厳しいどうか」ではなく、「合理的かどうか」だったはずである。もしかしたら彼は「不合理なほどに厳しい監査判断」に、命懸けで抵抗したのかも知れない。
 彼は生前「報酬はリスクに見合ったものでなければならない」と強調し、平常時の報酬には「いざ」となったときの報酬も含まれていると考えていた。平常時に高い報酬を取りつつも、「いざ」となったら無責任に投げ出すようなことが、仮にあったとするならば、彼はきっとそれを許さなかっただろう。
 彼は、毎回の講義を「お疲れ様でした」と締めくくった。私も、講義や講演の最後に「お疲れ様でした」と締めくくっている(時として、彼の声色を真似することもある)。
 平成26年12月、淡路島に眠る彼の墓前に報告した。
 平成27年2月に、彼から教わったことも載せた「財務諸表監査の実務」(中央経済社)を出版する運びとなったためである。現場主義を貫いた彼の遺志を少しでもいいから形にしたいと考えている。 
 彼が読んで叱責されないように、年末年始は本書の校正作業に没頭するつもりである。Taku

2012年10月 山の上ホテルの下水道不正

山の上ホテル。
昔々、先輩に連れられて、良く飲みに行きました。もう20年近くも前の話です。
厳かな落ち着いた雰囲気がとても好きでした。夜な夜なのラウンジ利用専門で、宿泊したことはないのが残念ですが。

その山の上ホテル(東京都千代田区神田駿河台)で下水道の不正が発覚しました。
聞き慣れない不正ですが、報道によると2012年6月までの約3年間にわたり1,800万円の下水道料金を不正に免れていたため、東京都水道局は、未払分と過料を合わせて5,400万円を山の上ホテルに請求したようです。
3倍付(1,800万円×3=5,400万円)?
条例によると、「偽りその他不正の手段により料金の徴収を免れた者は、免れた金額の5倍に相当する金額(5倍に相当する金額が5万円を超えないときは、5万円とする。)の過料に科せられる(東京都下水道条例第25条及び第26条)」とのこと。
5倍付?
この点、計算が合わないのですが、具体的な数値が把握できていない以上、追究は諦めた方が良さそうです。

個人的に気になったのは、この過料の高さです。3倍にしても5倍にしても懲罰的です。
この懲罰的な倍率は「その不正の発覚しにくさ」に起因しているのでしょう。
そもそも下水道は、排出する汚水料によって計算されますが、問題はどのように排出量を計算するかです。
東京都水道局のHPによると、以下の通りです。
①水道を使っているときは、水道の使用料を汚水排出量とみなす
②井戸を使っているとき
・手動式井戸は、使用人数等から汚水排出量を認定する
・モータ付井戸は、ポンプの揚水能力にモータ稼働時間(モータに時間計を設置;下水道局が費用負担)を乗じた量(井戸からの揚水量)を排出量とする。

なるほど。
水の排出量は「直接的」には把握できないのです。だから、あくまで水道の使用料(井戸水なら揚水量)に着目をして、「これだけ使ったんだから、これだけ排出しただろう」と「間接的」に把握しているのです。(ということは、庭に水をまいても下水料金を取られていることになりますね。)
しかし、排出する場所の全てにメータをつけるわけには行きませんから、この方法でも、やむを得ないのでしょう。
逆に言えば、井戸水をたくさん使って排出水量が増えたとしても、黙っていれば誰も解らないのです。これが、「5倍付」の理由でした。見つかったら大変だから、事前に届けさせようとする発想です。

山の上ホテルでは、井戸水を揚げる管に検診メータが付いていたようですが、この管を迂回するバイパス管を取り付けて、検診メータを通る水量を調整して、揚水量を誤魔化していたようです。
まさに確信犯。悪意に満ちているといって良いでしょう。
同ホテルによると、「井戸水は水道水節約のため調理場の清掃などに使っていた」「処分を真摯に受け止める。」と話したようです。
発覚した原因は、匿名の情報提供に起因した立ち入り調査だったようですが、不正実行犯は、まさか見つかるとは思っていなかったのでしょう。
悪事千里を走る。
お天道様はお見通しでした。

 ちなみに余談ですが、井戸を使う場合(浴場、ホテルの他、家庭でも)には届け出が必要ですし、工事等が原因で湧き水が出たため下水道を使って排出する場合にも「公共下水道の一時使用届出」が必要となるようです。
 さらにありそうな話で、雨水を貯留してトイレ等(下水)に利用する場合にも料金徴収対象になるから使用届が必要とのことです。
 ということは、無届けで雨水を貯めて使い、これを下水に流したら、「5万円以下の過料」を科せられることになってしまうのです。
 厳しい・・・。

 家庭で雨水を貯めて使うくらいは、勘弁して欲しいと思います。
 庭にまいた水も下水料金を払っていますからね。Taku

昭和飛行機工業 2012年1月

 昭和飛行機工業は、連結子会社で発生した経理担当者の不正について社内調査結果を報告しました。
その報告によると、経理業務の担当者の自己申告により、2005年5月~2010年7月の間、会社の銀行預金口座から不正出金を繰り返し、99百万円の損害が発生したとのことです。
 この不正実行者は、2011年12月に懲戒解雇処分を受け、現在会社は刑事告訴と損害賠償請求を検討しているようです。
http://www.showa-aircraft.co.jp/ir/news/pdf/important/2011/20111202.pdf
 
 この調査結果について注目したいのは、その業績に与える重要性の判断です。
 会社は「限定的かつ軽微である」としていますが、同社の2012年3月期の連結業績予想では、売上高215億円、経常利益6億5千万円です。これと今回の不正の損害額である約1億円を比較してみてください。

 本当に「限定的かつ軽微なのかどうか」。

 なかなか簡単に判断できそうもないのですが、いかがでしょうか。Taku

IXI メディアリンクスに続く大規模な架空循環取引

メディア・リンクスに続く大規模な架空循環取引 IXI

 IXI事件は、多くの大手情報システム関連企業がスルー取引の連鎖(循環取引)に関連していた事件です。
「堅調」というよりも「異常」なほどの業績の伸びを示していたIXIは、2007年1月、半期報告書の提出が遅れたかと思うと、突然、民事再生手続の開始申し立てにより破綻し、2007年2月に上場廃止となります。

 不正発覚時のIXIの親会社は、1999年12月にマザーズ上場第1号の会社として注目を浴びたインターネット総合研究所(IRI)です。同社は2005年8月に、IXI株式を株式公開買付(TOB)で買収しました(143億円)。
 しかしその後、IXIは買収の前から継続して大規模な架空循環取引が存在していることが発覚します。
 IXIの売上の推移を簡単に示すと、2004年3月期113億円、2005年3月期176億円、2006年3月期403億円でした。合併や買収を繰り返して業績を拡大することはよくある話ですが、そうでもなければこの業績の推移はまさに「異常」と考えられます。結果的にこの売上高の8割、9割は架空だったとされ、加えて簿外負債が100億円以上あったとされます。その結果、IRIももちろん含まれますが、多くの投資家が損害を被りました。

 ことの発端は監査法人の監査だったとされます。
 架空の循環取引は架空の在庫を伴うことが一般的で、監査の過程でこの架空在庫が問題視されました。
 その指摘を受けて行われた社内調査の結果、架空の売上や簿外負債が明らかになり、IXIは半期報告書を提出しないままに上場廃止となりました。
 IXIの親会社であるIRIの業績は、IXIの業績により大きな影響を与えるという理由で、IXIの中間決算(2006年12月中間期)も意見不表明となります。つまり、「子会社である㈱アイ・エックス・アイ・・・の財政状態が把握できないという状況であることに鑑み、・・・同社株式の評価にかかる十分な監査証拠を入手」できなかったとの理由です。その結果、東京証券取引所は2007年6月IRIを上場廃止とします。その後、IRIはオリックスとの株式交換で、同社の完全子会社になります。

 もちろん、粉飾していたIXIの株を購入して大損害を被った、という点からすればIRIが被害者であることは自明でしょう。一方で、IXIを買収するにあたり、IRIはIXIの財務調査(デューデリジェンス)を十分に実施しなかったとの指摘があります。仮に十分に調査をしていれば、IRIが多額の資金を投じて無価値な株を買うことはなかったばかりでなく、その他の投資家もIXIの株式の価値を見誤ることはなかったのではないかとの指摘です。
 騙した側がIXIであり、IRIが騙された側とするならば、騙された側を非難するのは躊躇いがありますが、それでもなお、釈然としない面はあります。この問題はそれだけ厄介だということでしょうか。

 なお、IRIは、何ら落ち度なく多額の損害を被ったとして、IXIの元親会社であるCACを相手取って損害賠償請求を提訴しており、その結果、2011年6月にCACが30億円をIRIに支払うことで和解が成立しています。また、IXIの監査を担当していた新日本監査法人ともIRIに1億5千万円を支払うことで和解が成立しています。
 さらにIRIは、2011年7月、株券上場廃止基準に該当する事由はなく、東京証券取引所による上場廃止処分は、上場廃止基準の解釈適用を誤ったものとして、東京証券取引所を相手取って、50億円の損害賠償請求を行っています。
 その後、IXIの元社長には、証券取引法違反を理由として、大阪地裁は2009年11月、懲役3年、執行猶予5年、罰金800万円の判決が言い渡されました。また、2011年2月には、同社の管財人が元役員に対して行った損害賠償請求4億円が認められます。
 粉飾発覚から5年以上経過した今でも話題がつきない、大きな事件だったのです。
 また、新たな判決が出たときに再考してみようかと思います。 Taku



プロフィール

TwoNT

Author:TwoNT
 当ブログは、中里会計事務所による不正事例研究会の記事を発信しています。
 不正事例研究会 中里会計事務所
実際の事件を知ることが、同様の事件を繰り返させないための想像力を養い、対策を有効に機能させるための第一段階になると信じます。
連絡先:中里会計事務所 電話03-6228-6555
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