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2018年10月 マツモトキヨシ医薬品の窃取~適時開示情報とすべきか?

 2018年9月、マツモトキヨシホールディングスは、連結子会社の「ぱぱす」の元従業員が、医療用医薬品の窃盗を行っていたと開示しました。
 開示書類によると、ぱぱすの調剤業務管理者であった元従業員が営業時間外に店舗に侵入し、医療用医薬品を窃取し、現金問屋に転売していたものです。本不正行為を行った元従業員は、既に懲戒解雇としており、今後、刑事事件を含め、その責任を追及するとのことです。被害額は軽微で、今後調剤室の監視体制を強化等の再発防止策に取り組むようです。
 この開示情報を読んで考えたことは2つです。
 まず、「はたして、開示する必要があるのか?」です。
 この点、開示資料は「医療用医薬品を取り扱う調剤事業の管理者である者が行った不正行為であることを鑑み、お知らせする」とあります。ということは、盗難品が「医療用医薬品」でない場合や、不正実行者が「管理者」でなければ開示しなかったことになるのでしょう。
 次に、「なぜ、1年も前の窃盗事件をいま、開示するのか?」です。
 この点、開示資料は、「慎重な調査…厳格かつ綿密な再発防止策の策定及びその実施…警察への捜査協力」を公表までに一定の期間を要した理由としています。ということは、1年もの間、この軽微な窃盗事件ついて、調査、再発防止、捜査協力をしていたというのでしょう。
 確かに「ぱぱす」は日用雑貨品なども販売していますし、パートやバイトの他、お客も含めれば、万引き等の窃盗は日常茶飯事でしょう。それらを逐一、適時開示するのは煩雑に過ぎますし、警察の捜査には長い時間が掛かるのが通常ですから、開示のタイミングを考えることも必要です。

 しかし、1年も前の軽微な窃盗事件を適時開示情報とすることへの違和感は拭い切れません。むしろ私は、本件を適時開示情報とすべきではなかったと考えます。
 というのも、適時開示情報は金融商品市場において投資者にとって有用な最新の投資関連情報を迅速、正確かつ公平に提供するものです。当然、軽微な情報(例;業務遂行の過程で生じた損害については損害額/純資産<3%の場合)については、開示不要とされます(単純にこの量的基準に照らして開示の要否を判断するのでなく、実質的に判断すべきことはいうまでもありません)。
  「開示した方が無難だろう」という判断が、「開示しなかったとの非難を避けたい」という意識から生じたものであれば問題です。なぜなら投資関連情報として全く不要な情報があたかも重要な情報のように取り扱われてしまうからです。
 「日常茶飯事に生じる万引きは適時開示情報として適切ではない」という判断も、実はとても重要な開示上の判断なのです。
 何でも開示すればよいと言うわけではなく、経営陣が責任を持って「これは投資情報として重要である」と判断する必要があるのです。Taku
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2018年8月 AIの進歩が会計専門家の業務に与える影響

 先日、「プロフェッショナルジャーナル」という雑誌に表題の記事を寄稿しました。
「不正事例研究会」の趣旨とはズレますが、掲載します。参考まで。

1 AIの目覚ましい進歩
 最近の下記の事象を見ると、AIの進歩は目覚ましいことがわかります。
・囲碁の世界チャンピオンや将棋の名人がAIに負けました。
・放射線画像診断では、AIは人間の認識力を超越しています。
・人間の手を借りつつも、AIが「星新一賞」の一次審査に合格しました。
・東大合格は無理でも、AIは中堅の大学の合格レベルだそうです。
 こうしたことから「シンギュラリティ(この用語は、一般にAIが人知を超える状況として使用されています)の到来」を予言する方もいるようです。しかし、下記の2を理由として、「ここ数十年の間は、シンギュラリティは到来しない」というのが専門家の大方の意見のようです。

2 AIの限界
 AIによる小説や絵画は、多くのデータから見出された規則性に基づく「模倣」であって、創造的なものではありません。画像認識や碁将棋についてもビッグデータを利用した限定した作業に特化した力であって、汎用性があるわけではありません。
またAIには、
・「読む」(文書を読解して筆者の意図を把握すること)
・「書く」(自らの考えを他人に適切に伝えるために、文章にまとめること)
・「聞く」(人の話を聞いて、その人の考えを理解すること)
・「話す」(人に理解してもらうように話すこと)
 というコミュニケーション力に限界があります。「Siri」や「りんな」、「シャオアイス(Xiaoice)」といったAIを利用した技術は、そのアルゴリズムによって会話が成立しているように見えるだけで、実際に人間の気持ちが通じているわけではありません。
 さらにAIは、法的に責任主体にはなれません。仮にAIが人間の理解を超える作業をできるとしても、その責任はAI自身ではなく、そのAIを利用した人間が負うことになります。

3 会計・税務・監査とAI
 一般に会計は「領収書・請求書」などの証憑書類に基づいて、これを仕訳として起票し、それらが集計して試算表を作成する業務です。また、税務では決算数値に基づいて課税所得・税額を算出し申告書を作成します。さらに監査では、重要な虚偽表示の有無の検証を通じて、一般に公表される財務諸表の適正性について意見を表明します。
 こうした専門業務の中で、例えば、証憑を画像認識して自動で仕訳を起票することや、申告書の作成、不規則な入力の有無のチェック・異常な増減の把握等の作業は、既にAIの利用により格段に効率化されています。
 一方で、例えば「タクシーの領収書」の入力作業であっても、単純に「交通費」となることもあれば、接待交際のためのタクシーであれば「交際費」とすべきこともあります。また画像を取り込んで自動起票された仕訳であっても、その入力の適切性の検証のためのチェックが必要です。
 申告書の作成もある程度の自動化は可能ですが、特例の適用の可否など、機械的に特定の処理を選定できない場合も少なくありません。さらに監査では、経営者の主張が適切に財務諸表に反映されているかを実質的な見地から判断することが求められることもありますから、答が1つに絞られないような厄介な判断を伴うことも想定されます。

4 会計専門家の魅力とAIの限界 
 筆者は、「税理士」という資格は、経営者の右腕として、経営者に助言・勧告する役割を担った「参謀」だと考えます。孤高の経営者が特に「お金に関する問題」について、心を許して相談できる専門家こそが税理士の理想像だと考えます。
 また、公認会計士は「保証人」です。「皆さん、ご安心ください。この経営者が財務諸表上で主張していることは正しいですから。」という保証です。この保証を行うには、公認会計士と経営者との間に強い信頼関係が必要です(監査人を騙そうとする経営者の主張の保証など、できるわけはないのです)。
 「参謀」にしても「保証人」にしても、その役割を全うするには、経営者との密接なコミュニケーションが必要です。その結果、専門家としての判断について責任を負うことがその専門家の仕事であって、その対価として報酬が支払われるのです。
コミュニケーション力に限界があって、かつ責任主体にもなれないAIは、残念ながらこうした役割を担うことはできないのです。

5 AIの進化と会計専門家
 「AIが進化すれば会計専門家はいらない」と考える人は、「会計を単純な作業にすぎない」と捉えているのかもしれません。高い報酬を払わずとも「決算書は機械的に作成できる」「申告書なんて誰が作っても同じだ」「監査判断は画一的だ」と考えれば、「AIが全部やってくれるから会計専門家は不要だ」と考えることもできるのでしょう。
 もちろん、作業の効率化の観点から、AIが会計専門家の業務に大きな影響を与えることは必至です。
 しかし、AIの限界からすれば、AIが会計専門家に完全に代替することはありえません。むしろ、AIが発達すればするほど、「AIに代替できない力」を有する会計専門家の優位性が際立っていくと筆者は考えています。
 AIの進化は「作業の効率化」という意味で興味がありますが、それ以上に、「今後、AIの進化によって、会計専門家としていかなる能力が必要となるのか」を自問自答する良い機会とすべきだと考えます。Taku
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2018年7月 不祥事の公表の要否について(その2)

 (その1)では、発生した不祥事を公表するか否かの判断に当たっては、(1)被害の発生・拡大の防止と(2)取引先等との信頼関係の維持・回復という、不祥事を公表の目的に照らして判断すべきことを紹介しました。
 本稿では、その続きとして「公表する方法」を紹介します。

4.公表する方法
 (その1)で示した1~3の検討の結果、仮に「公表する必要がある」と判断した場合には、下記の(1)~(4)の検討を通じて、どのように公表するかを決定することになります。
(1) 公表相手
 公表相手(対象)として、適時開示やマスコミ等の一般的な公表の他、官公庁、取引先、従業員、地域住民、株主等への個別的な伝達等が考えられます。
(2)公表(伝達)する内容
 公表する内容として、不正の概要(5W1H;誰が、いつ、どこで、何を、なぜ、どのように)と発覚までの経緯、被害の影響(被害者、範囲、損害額、他に与える影響等)、暫定的な対応策、調査体制、今後の調査結果の報告時期等が考えられます。
 ただし、企業の機密情報や個人情報等、プライバシーに関する事項が含まれることが多いので、公表に適さない情報の取扱いについては注意を要します。
(3)公表する時期と情報の正確性
 食中毒等の緊急な対応が求められる場合には一刻も早期に公表するべきですが、不確かな情報の公表はかえって混乱を与える可能性もあります。そのため、拙速な公表を避けつつも、十分な調査と迅速な公表が必要とされます。
なお、社会一般への公表や取引先への連絡、または公官庁への届出等、複数の連絡が必要な場合、それらのタイミングについての整合性(適時性・同時性)を保つ必要があります。さらに、不祥事の緊急性や公表する事実の詳細度に応じて、複数回に分けて公表することも考えられます。
(4)公表手段 
 公表手段としては、記者会見、ホームページでの開示、新聞・テレビ・ラジオ等でのお詫びの社告、適時開示、臨時報告書、リコール情報サイト(国民生活センター等)への連絡、個別の電話・はがき・メール等での連絡等が考えられます。この点も不祥事の緊急性や重要性に応じて、いかなる手段によるかは個別に判断する必要があります。

 具体的に公表すべきかどうかの判断は、経営者の善管注意義務を履行しているかどうかの判断、ひいては経営判断の原則の適用の可否という、法的な問題につながりますので、法律の専門家に判断を仰ぐことが必要でしょう。
 単純に「会社にとって不利だから公表しない」という利己的な判断は許されないことは言うまでもありません。Taku
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 当ブログは、中里会計事務所による不正事例研究会の記事を発信しています。
 不正事例研究会 中里会計事務所
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連絡先:中里会計事務所 電話03-6228-6555
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