2018年7月 不祥事の公表の要否について(その2)

 (その1)では、発生した不祥事を公表するか否かの判断に当たっては、(1)被害の発生・拡大の防止と(2)取引先等との信頼関係の維持・回復という、不祥事を公表の目的に照らして判断すべきことを紹介しました。
 本稿では、その続きとして「公表する方法」を紹介します。

4.公表する方法
 (その1)で示した1~3の検討の結果、仮に「公表する必要がある」と判断した場合には、下記の(1)~(4)の検討を通じて、どのように公表するかを決定することになります。
(1) 公表相手
 公表相手(対象)として、適時開示やマスコミ等の一般的な公表の他、官公庁、取引先、従業員、地域住民、株主等への個別的な伝達等が考えられます。
(2)公表(伝達)する内容
 公表する内容として、不正の概要(5W1H;誰が、いつ、どこで、何を、なぜ、どのように)と発覚までの経緯、被害の影響(被害者、範囲、損害額、他に与える影響等)、暫定的な対応策、調査体制、今後の調査結果の報告時期等が考えられます。
 ただし、企業の機密情報や個人情報等、プライバシーに関する事項が含まれることが多いので、公表に適さない情報の取扱いについては注意を要します。
(3)公表する時期と情報の正確性
 食中毒等の緊急な対応が求められる場合には一刻も早期に公表するべきですが、不確かな情報の公表はかえって混乱を与える可能性もあります。そのため、拙速な公表を避けつつも、十分な調査と迅速な公表が必要とされます。
なお、社会一般への公表や取引先への連絡、または公官庁への届出等、複数の連絡が必要な場合、それらのタイミングについての整合性(適時性・同時性)を保つ必要があります。さらに、不祥事の緊急性や公表する事実の詳細度に応じて、複数回に分けて公表することも考えられます。
(4)公表手段 
 公表手段としては、記者会見、ホームページでの開示、新聞・テレビ・ラジオ等でのお詫びの社告、適時開示、臨時報告書、リコール情報サイト(国民生活センター等)への連絡、個別の電話・はがき・メール等での連絡等が考えられます。この点も不祥事の緊急性や重要性に応じて、いかなる手段によるかは個別に判断する必要があります。

 具体的に公表すべきかどうかの判断は、経営者の善管注意義務を履行しているかどうかの判断、ひいては経営判断の原則の適用の可否という、法的な問題につながりますので、法律の専門家に判断を仰ぐことが必要でしょう。
 単純に「会社にとって不利だから公表しない」という利己的な判断は許されないことは言うまでもありません。Taku
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2018年6月 不祥事を公表するか否か(その1)

 社内で発生した不正を公表するかどうかは悩ましいところです。
 そこで、本稿では、一般的に不正公表の要否についての知見をまとめてみました。参考にしてください。

1.不祥事の公表について
 一般に会社は社会的責任を全うするため、不祥事を積極的に公表して、説明責任を果たすことが求められており、これを隠蔽した場合、社会的信用を毀損するケースが多いと考えられます。逆に重要性のない不祥事を含め、社内に発生したすべての問題を公表する場合、徒に会社の評判を落とし、不当に不利な扱いをされる可能性がありますから、「公表しない」との経営判断に合理性が認められること考えられます。
 そのため、必ずしもすべての不祥事を公表しなければならないわけではありません。
 この点、下記2.「公表する義務が法令等で規定されている場合」を除き、不祥事を公表するか否かについての一般的な基準は存在しません。したがって、不祥事が発生した場合には、「公表するか否か」を判断する必要がありますが、この判断に際しては、下記3.「不祥事を公表する目的・必要性」に留意する必要があります。

2.公表する義務が法令等で規定されている場合
 例えば、法令上の開示義務として、独占禁止法、金融商品取引法、有価証券上場規程等に抵触する場合や、法令上の回収措置や当局への届出義務が規定されている場合(食品衛生法、薬事法(廃棄、回収等の実施義務)、道路運送車両法、毒物及び劇物取締法等)には、これらの法令等の規定に従い、開示(又は届出)を行う必要があります。
これは下記3.(1)の被害の拡大を抑止する観点から規定されている義務と考えられます。
 そのため、不祥事を認識した場合には、まずはこれらの法令等に抵触するかどうかについて慎重に検討する必要があります。

3.不祥事を公表する目的・必要性
 一般に不祥事の公表は、下記の2点を目的としていると考えられます。
(1) 被害の発生・拡大の防止
 不祥事の内容によっては、被害が継続して発生し、さらにその被害が拡大するおそれがありますから、そうした事態を防止するため不祥事を公表する必要があります。逆に考えれば、被害の継続的発生や拡大が想定されない場合には、公表を不要とすることの合理性が認められる場合も考えられます。
(2)取引先等との信頼関係の維持・回復
 既述のとおり、不祥事を公表しない場合には、その会社の社会的信用を毀損する可能性があり、不祥事の公表により、取引先等との信頼関係の維持・回復に寄与すると考えられます。一方で、重要でない不祥事をすべて公表する場合、却って社会に混乱を与える可能性や、会社が不当な不利益を被る可能性も考えられます。

 なかなか難しい判断ですが、次回は上記の議論を踏まえて、公表の要否と具体的な公表方法についてまとめます。Taku


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2018年4月 財務諸表監査の実務第3版 発売

 「財務諸表監査の実務第3版」が出版されました。
 どうぞ、よろしくお願いいたします。

 初版発行から3年が経過しました。
 おかげさまで一定の評価が得られたのか、初版の増版、2年前の第2版の刊行を経て、今回の第3版を刊行することになりました。こうして版を重ねることができたことは、大変うれしく、ありがたいことです。
 本書は、「財務諸表監査をは具体的にどのように実施されるか?」という問いに答えることを主眼として作成しており、その内容はわが国の監査実務の指針となっている「監査基準委員会報告書」の解説に重点を置いています。

 上記は本書冒頭の「第三版の刊行にあたって」の引用です。
 アマゾンで購入の方は、こちらへ。

 なお、takuya@nakazato-cpa.comにメールをくだされば、1割引き・送料当方負担にて発送します。お問い合わせください。Taku

 
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